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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

雨の日のホームルーム

2020年07月14日(Tue) 05:20:14

梅雨時というのは、うっとうしいものである。
人間にとっても。吸血鬼にとっても。

雨の中学校に出てきた少年たちは、半ズボンの下の太ももまで濡らすほどの雨に、すっかり閉口していた。
クラスのだれもがそう感じていたらしく、ホームルームの始まる前の空き時間の喧騒は、ほとんど雨の話題だった。
女子の多くは、履き替え用の白のハイソックスを持ってきていた。
たしなみのある子はいつのまにかトイレや物陰に立って行って、
そうでない子はその場でハイソックスを履き替えていた。

輝夫はふたつ後ろの席に座っている加奈のほうを振り返った。
几帳面な加奈のことだから、もちろんのこと穿き替えを用意しているだろうと思ったのに、
いっこうに座をはずす気配がなかったからだ。
案に相違して、加奈の足許にはまだ泥が撥ねたままだった。
濡れの激しい白のハイソックスは、彼女のピンク色の脛を、容赦ないほどに透き通らせてしまっている。
風邪をひかないか?と、むしろそちらのほうが気になった。

加奈の眼の前に、一人の男子がおずおずとやって来た。
輝夫の幼なじみの、ヨウタだった。
ヨウタは吸血鬼の生まれだったけれど、てんからの意気地なしで、いつも血液不足で顔色がわるかった。
人一倍周りのものに気を使い、人一倍報われないタイプの男子だった。
輝夫が、加奈をヨウタに紹介したのを、クラスのだれもが意外に思ったけれど。
加奈の貞操の危機を予感するものは、だれもいなかった。
気の強い加奈とヨウタとでは、男女の感情は生まれようもないと誰もが思っていたからだ。

加奈のまえに現れたヨウタは、手にした紙袋をおずおずと加奈に差し出した。
「よかったら、これ・・・」
加奈はじろりとヨウタを見あげると、いった。
「一足だけ?」
「え?ああ・・・そうだけど・・・」
ヨウタは自分が気の利かないことをした理由を、よく呑み込めないでいた。
「ちょっと!」
癇の強さを整った顔だちに走らせると、加奈はじゃけんにヨウタの手を引いて、教室の外に出た。
「おいおい、お二人さんまたケンカかよ」
だれかが冷やかそうとしたが、「よしなって」と、べつのだれかにたしなめられていた。
クラスのだれもが弱いものにいたわりを持っていることに、輝夫はほっとする想いになった。

ヨウタは加奈の足許を心配して、ハイソックスを携えて学校に来たのだろう。
けれども加奈に言わせれば、
用意してくれたハイソックスを履いてお礼に脚を咬ませてしまったら、何にもならないではないか?
ということなのだろう。
せめて二足用意しておくくらいの配慮はできないものか?というのが、加奈の言い分。
気になったので、輝夫は廊下に出た。
ちょうど、ヨウタがひと言呟くところだった。
「俺、その濡れたほうので良いから」

え?こんなんで良いの?
こんどは加奈が、うろたえる番だった。
輝夫はみなまで聞かず、まわれ右をして教室に戻った。
加奈とヨウタだけが、廊下に残った。

ふたりが教室に戻って来るのに、十分くらいかかった。
加奈の足許は、乾いた真新しいハイソックスに包まれていた。
ヨウタが手にした紙袋をカバンのなかに大事そうにしまい込んだ時、加奈が小さな声で「ばーか」というのが、聞こえた。
どっちもどっちだよ、と、輝夫が思ったとき。
先生が教室に入ってきた。
「起立!礼!」
級長の輝夫の声がいつになく大きかったのは、なんのせいだったのだろう。
輝夫の声の調子に敏感過ぎる反応を示して、ヨウタが直立不動の姿勢をとって、
あまりにもしゃちこばった姿勢のせいで周りの失笑を買っているのを背中で感じ、
輝夫も思わず「ちゃくせき・・・」と声を揺らしてしまっていた。
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