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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

吸血鬼が出入りする、とある家庭の日常

2020年07月15日(Wed) 07:28:36

吸血鬼が通りをふらふらと歩いていると、主婦の枝松花世とすれ違った。
花世は近所に住む五十代の主婦で、吸血鬼に血を摂られるようになって久しい。
おでこの広い、彫りの深い顔だちで、齢のわりには若くみえる。
彼女は自分の血を吸う吸血鬼のことを、”坊主”と呼んでいた。
「アラ、坊主じゃないの。顔色悪いわね、
 おばさんでよければ相手しようか?いまなら亭主留守だから」
亭主が留守だということは、このさいかなり重要だった。
有夫の婦人を襲うとき、彼は必ずと言っていいほど、男女の交わりをも欲するからである。
そうなると――
ふつうはやはり、亭主がいないほうが、好都合なのであった。
”坊主”は、花世の好意に甘えることにした。
「素直でよろしいね」
花世はぶっきらぼうにそういうと、先に立って家へと足を向けた。


家のリビングの真ん中で、花世はあお向けにひっくり返っていた。
向かい合わせに置かれたソファや、真ん中のテーブルは大きくずらされていて、
彼女がひっくり返るためのスペースが不自然に形作られている。
そのど真ん中に、着衣をはだけた彼女はじゅうたんを背にして、
酔っ払ったみたいな目をして天井を眺めていた。
薄茶のスカートがはだけて、あらわになった太ももに、肌色のストッキングが破れ残っている。
片方だけ脚に穿かれたストッキングを直そうとしかけて、
救いようのないほど広がった裂け目を目に入れると、
花世はあべこべにそれを引き裂いていた。
「ほんとにもう!いけ好かないんだから」
そういいながら、傍らのティッシュを二、三枚ぞんざいに引っ張り出すと、
ぬらぬらとした精液に濡れた太ももを無造作に拭った。
吸血鬼はうずくまるようにして一足先に身づくろいを済ませた後、
申し訳なさそうに女のしぐさを見ていた。
「いちいち見ないでいいから」
照れ隠しに口を尖らせると、
男はぶすっとした顔つきのまま頭だけは下げて、女に背を向けた。
「はい、さようなら」
女の言い草は、どこか「一丁あがり」といわんばかりの気安い響きを秘めていた。

女の脚から抜き取ったストッキングをぶら提げて、男が出ていったのを見届けると、
花世は奥の部屋に声をかけた。
「ほら、もう行っちゃったわよ」
「ん」
奥からくぐもった男の声。声の主は花世の夫だった。
「まったく、いけ好かないったらありゃしない。
 自分の女房がほかの男にヤられて、昂奮する男がいるかね」
鼻息荒く憤る花世に、彼女の夫は無言でのしかかってきた。
「あら、あら・・・」
当惑気な声は、すぐに途切れた。
さっきと同じくらい、いや、もっと大げさに盛った作り声が、
昼下がりの庭先まで洩れてゆく。


ダンナはぼんやりと縁側に座って、庭を見ていた。
狭い庭の向こうには通りが見える。ちょうどT字路の突き当りになるので、
庭からは人通りが良く見て取れた。
これはこの家にはちょうど都合がよくて、
浮気帰りの妻が家路をたどるのも、
勤め帰りの亭主が、自分の女房が寝取られているとはつゆ知らず家路をたどるのも、
家にいる者は容易に見とおすことができるのだ。

「初美は遅いな」
と、娘の帰りを気にして呟くダンナの背中越し、
「初美だって、友達と遊ぶでしょうよ」
と、ふだんの声に戻った花世は、洗濯ものをたたみながらこたえた。
えり首に血の着いたブラウスはすでに着替えて、
襟なしの半袖のTシャツの胸を横切るボーダー柄が、乳房のうえを豊かな曲線を描いて横切っていた。
「それとさあ、あの話は和樹にしたの?」
妻に背中を向けながら、ダンナが訊いた。
「できるわけないでしょ、そんなこと」
「でも、彼は欲しがっているみたいだけどな」
「彼が欲しくたって、和樹だって朋佳さんだって、嬉しくないはずよ」
花世は口を尖らせてそう応えた。
吸血鬼との情事のあと、ダンナに挑まれたときと同じくらい、ぶあいそだった。
隣町に棲む長男の和樹が嫁の朋佳を連れて家に来たのを見かけた吸血鬼が、
新婚妻の朋佳を欲しがったのだ。
和樹とも知らない仲ではなかったけれど、
新婚三か月の新妻を面と向かって欲しいとは言いづらかったらしく、
あとからダンナに本音を洩らしたのだ。
「あたしや初美ならともかく、他所の家のお嬢さんにそんなこと言えないわよ」
というのが、花世のもっともな言い分だった。
他所の家のお嬢さんだから、やつは欲しがるんじゃないか――
そう言いかけて、ダンナはむっつりと黙り込んだ。
なんとなく、自分がなにも手を下さないでも、
自分と無関係なところで事態は進行して、
やつはお望みのものを手に入れる――そんな気がしたからだ。

「あっ」
だしぬけにダンナが、声をあげた。
ただならない声色だったので、思わず花世も振り返ってくらいだ。
声をあげるわけだった。
「おいっ、あいつ、初美まで狙いやがって」
ふたりの視線の彼方には、通りを連れ立って歩く制服姿の女子生徒たちの姿があった。
おそろいのセーラー服を着た彼女たちは、困ったようにほほ笑みながら、顔を見合わせ合っている。
それもそのはず、さっき花世を犯した吸血鬼が、白のハイソックスに包まれた彼女たちの足許を狙ってかがみ込んでいるのだった。
やがて男は、初美ひとりに狙いを定めたらしい。
ハイソックスの上からふくらはぎに唇を吸いつけると、初美は困ったような顔をして俯いた。
彼女の周りにいた女の子たちは薄情にも、バイバイをして離れてゆく。
初美は泣き笑いとも照れ隠しともつかない顔つきで、
足許に吸いつくけしからぬ誘惑に眉をしかめながらも、
友人たちのお別れに手を振って応えた。
そして男と2人きりになると、彼の頭を宥めるようにして撫でると、
男は得心したらしく顔をあげ、初美を公園の中へと促していった。
足許にじゃれついた飼い犬を手懐けるような、もの慣れた態度だった。

「あいつぅ・・・」
女房を抱かせたときにはむしろ率先したくせに、
こと娘の場合となると、ちょっと違うらしい。
ダンナは頭から湯気を立てんばかりにして起ちあがった。
「しょうがないでしょ、ほら、行ったらだめだってば」
と、奥さんが口だけで制止するのも構わずに、玄関にまわった。
「・・・っとにまったくもう・・・っ」
花世は洗濯ものをたたむ手を止めずに苦笑して、ダンナの背中を見送った。

初美が父親に伴われて帰宅したのは、それから30分もしてからだった。
「ったくもう、しつこい野郎だった」
ダンナが負け惜しみを口にするのを、娘のほうが
「父さん、もういいからさぁ」
と、むしろ自分が親のようになって、父親をたしなめていた。
素足に革靴は、首すじやふくらはぎの咬み痕よりも痛そうにみえた。
真っ白なハイソックスに赤黒いシミは親たちには濃すぎる見ものだと思っていたので、
脱がされてきたことに花世はむしろほっとしていた。
「いじましい野郎で、こいつ初美のハイソックスをねだって、脱がそうとしやがるんだ。
 汚れて履けなくなったやつだから仕方なしにやったけど、なんか悔しいなあ」
正直すぎる本音に、花世も初美も笑った。
「なにがおかしいんだ!?」
照れ隠しな大きな声は、ふたりに無視された。
花世が予期したとおり、初美のスカートは精液に汚れていなかった。
高校にあがるくらいまでは大事にしといたら?と忠告したのを、忠実に守っているらしい。
花世はお風呂湧いてるわよと初美に告げた。
「お疲れ様」のつもりだった。
賢い娘だから、母親が先に湯に浸かったことで、家でなにがあったのかを察することだろう。
父親の屈折した好みを知らせるのは、十四歳の小娘にはまだ早すぎるかな?と花世は思った。
「母さんのエッチなところ、視たがるんだぁ」と、案外平気で受け止めるかもしれないけれど――


おいおい、いくら長い靴下が好きだからって、男のやつにまで手を出すやつがあるかよ。え?
いや、べつにかまわないけどさ、初美のやつのに手を出されるほど悔しかないから。
でもよ、俺の脚にしゃぶりついたって、つまんねぇだろ。な?
なに、女房を寝取った亭主を襲うから愉しいだと?
ったく、お前ってやつは、どこまで性根が意地汚いんだ?
働き盛りのお琴の血は精がつくだと?
お前――このあとまた、花世を襲う気でいやがるな?こんちく生。
ひとの女房をなんだと思ってやがるんだ!?
花世はお前の餌でも、女を姦りたくなったときのはけ口でも、ないんだぞ!?
行いのちゃんとした、課長夫人なんだ。
え?わかってるって?だからよけいに愉しいだと?
で、口うるさい俺を黙らせるために、俺にまでちょっかいを出すんだと?
やめろ、やめとけって。こら!
そんなに気を使って、くまなく舐めるこた、ねぇだろ?え?



あとがき
さいごはおまけです。(笑)
つい先日ですかね、通りを歩いていて、ちょっとこぎれいな50がらみの主婦さんをお見かけして、
ふとお話のきっかけが頭に浮かびまして。
きのうの朝に、あらかた描いたのです。
とくに盛り上がりのあるお話ではないのですが、
この家の日常をありありと思い浮かべながら、つらつらと気分よく描いてしまいました。
でも、もう少し描き込みたくて、夕べと、今朝、手を加えて、あっぷしてみました。

奥さんの肌色のストッキング、娘さんの白のハイソックス、ダンナの通勤用のハイソックスと三足せしめて、
そこまでやって初めて満足がいったらしく、嬉し気にその家から出ていったようです。
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