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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

嫁の献血。

2020年07月15日(Wed) 08:31:56

切れ長の大きな瞳に、ながいまつ毛。
起伏のある整った顔だちは、姑の花世とはべつの風情をたたえていた。
なによりも、みずみずしい若さが、新妻の初々しさと重なり合っている。
こげ茶の徳利セーターに、白と黒の格子縞のタイトスカート。
地味な濃いめの肌色のストッキングは、それでもめいっぱい生地の薄いタイプで、
真新しい生地のもつかすかな光沢感が、ほどよい肉づきのふくらはぎに、うっとりするような彩を与えている。

「ったくっ、どうしてほんとに来るんだよっ」
ダンナは娘の時とはまたべつの、切羽詰まった声を潜ませている。
「そんなこと、知りませんよ。朋佳さんのほうから勝手に来たんですから」
妻の花世も珍しくダンナに敬語を使うほど、うろたえている。
それもそのはず、今朝になって朋佳のほうからご挨拶に伺いたいと連絡がきたのだ。
「あらぁ、御挨拶だなんてそんな、改まっちゃってどうしたの?」
年長者のゆとりをひけらかすようにありありと滲ませながら花世が訊くと、朋佳は言ったのだ。
「ご実家は、吸血鬼のかたと交際されているって聞きまして。
 ですから、ご家族のなかに加えていただく以上、わたくしも献血したいと思ったんです」

「それでまさか、ほんとに招(よ)んだんじゃないだろうな!?」
「エエ、声かけましたよ、だってせっかくあちらから来てくれたんですから」
来意を告げられた花世は驚きながらも、「和樹がそんな話をしたんですか」と訊くと、
朋佳は言ったものだった。
「いやですわ、お義母さま。お義母さまがお手紙で当家の風習を教えて下さったから、
 こうして出向いてきたんじゃありませんか」

「それはたしかに、手紙は出しましたよ。
 ”拝啓 朋佳様
  じつはご成婚の時にはばたばたとして申しそびれておりましたが、
  当家の女子には必須の習わしがございます。
  ご承知のとおり、わたくしどもの在籍する●●市では吸血鬼と人間が共存しているのですが、
  既婚未婚を問わず女性はだれもが献血に協力しております。
  隣町にお住まいとはいえ、朋佳様もわが家の一員。
  一度ご経験を積まれては如何でしょうか?”」
手紙の下書きを棒読みする花世に、「どうしてそんなもん出したんだ!?」
とダンナは咎めたが、
「だってあなたが話をしろって私に仰ったじゃないですか」
と言われ、「あちゃ」と自爆なんかしてしまっている。
「一家の長として、朋佳さんにきちんと挨拶してくださいね」
しっかり者の女房にくぎを刺されて、「うぅむ」とうなりながらも、ダンナは覚悟を決めた。
「きょうの朋佳さん、スカートの丈短いな」
「どこ視てんだか」
花世はやはり、いけ好かないという顔つきで、ダンナを睨んで見送った。

「――そういうわけで花世が手紙で書いたとおり、我が家も全員、献血に応じているのですよ」
「・・・で、きょうは、先様のご都合のほうは?」
目を見開いて問いかける若い顔にどぎまぎしながら、ダンナは、
「エエ、そりゃもう、若い嫁と聞いただけでもぅすっ飛んで」
正直すぎる答えを並べかけて、いつの間にか傍らに控えた花世に手ひどいひじ鉄をくわされている。
「で、和樹はきょうのこと、知らないのですね?」
花世はさすがに同じ女である。
だんなに内緒で婚家の淫らな風習に身を染めようとする嫁を前に、
親身に、朋佳の身の上を心配する気になったのだろう。
「あ、エエ・・・はい」
口ごもる朋佳をまえに、花世はダンナの方に向き直り、いった。
「あなた。いまのことは全部忘れて」
「え?あ?はい」
間抜けな返事をかえしたダンナに、花世は目を吊り上げて、さらにいった。
「で、いますぐここから出ていって、何も知らないことにする。いいですね」
「ウ、ああ。もちろん、そうだな」
わしがここにいたのが失敗だった・・・そうひとりごちてダンナは神妙な顔つきで席を起った。
「じゃあ、あとはよろしく」とまずい挨拶を嫁に投げようとして、
「いいから、あなたは最初からこの場にいなかった。何も知らなかった。これからも一切、何も知らない!
 良いですね!?」
手厳しい言葉にたじたじとしながら、転げ出るようにして今から抜け出した。
場違いな夫婦のコントに、思わず朋佳がくすっと笑うと花世も、
「恥ずかしいとこ見せちゃいましたね。でもちょっとくらい見せ合うのが身内かもしれないですものね」
嫁の同意も求めずに勝手にそうひとりごちると、
「今招(よ)んできますから。貴女はふつうにしていらして。困ったら声かけてくださいね」
と、もの慣れた様子で次の間に立ってゆく。
ぶきっちょなダンナとしっかり者の姑のコンビは、上首尾に嫁を堕としにかかっていった。

坊主はいつも以上に小さくなって、もたもたとした態度で居間に現れると、
行儀よく静まり返った若い嫁にへどもどとあいさつをした。
そして、挨拶もそこそこに、早いとこ自分の得意技を発揮するに限ると割り切ったものか、
「ごめんなさい」とひと言だけ口走ると、
朋佳との距離をスッと縮めて、ソファに腰かける若い嫁の足許にかがみ込んだ。

そして、ひざ小僧を覗かせた短めの丈のタイトスカートを遠慮がちにたくし上げると、
ストッキングに包まれたひざ頭の少し上、太ももの一角にチュッと唇を吸いつけたのだ。
柔らかな皮膚と、その上の薄地のナイロン生地を破って、しなやかな筋肉に牙が刺し込まれる。
さすがに息をのんだ朋佳には構わず、うら若い血を、ちゅうっ・・・と音を忍ばせて啜り始めた。

ちゅうっ、ちゅうっ、ちゅうっ、
キュウッ、キュウッ、キュウッ
若い嫁の生き血が、勢いよく、リズミカルな音をあげて、吸い取られてゆく。
朋佳はうろたえた様子をみせまいと必死にこらえ、
それでも大きな瞳を見開いて、ストッキングの裂け目が拡がる自分の足許から視線をはずさないでいる。

「ちょっとちょっと、大丈夫?」
ふすまのすき間から様子を窺う花世のひそひそ声に、
「なわけないだろっ」
と、ダンナはさらに声をひそめた。
「たしかにそうだね」
ダンナの股間にそっと触れた花世が見当違いの解釈をすると、
それも却って図星だったらしく、ダンナは決まり悪そうに黙り込んでしまった。

「貧血、だいじょぶですか?」
坊主にそう問われて、「あ、はい」と返事を返しながら、
”私、案外冷静・・・”と、朋佳は感じている。
そして、息をはずませのしかかってくる年下の若い男に体を預け、
そのままずるずると、ソファからすべり落ちていった。

ストッキングを片方だけ穿いた脚をじたばたさせて、
ぎゅうぎゅうと強引に押し付けられた腰の下で新婚妻の貞操が汚される。
すべてが白昼の出来事だった。

「どうもお騒がせいたしました」
身づくろいを済ませた朋佳は、何事もなかったかのように、姑の見送りを受けて婚家を辞去した。
用心深く穿き替えを用意していた彼女の足許は、
来訪したときと同じ色のストッキングが、うら若い下肢をコーティングしている。
なにも起きず、なにも汚されなかったような、健全な若さだけがそこにあった。
「はあ、どうも、おそまつでした」
柄にもなく平身低頭する花世に、朋佳は声をひそめて、いった。
「”お仲間”になっちゃいましたね」
朋佳はイタズラっぽく笑った。
「そのようですね」
花世も笑った。
「また近々、来て頂戴ね。ダンナの留守に」
「エエそうします」
当家のふたりの嫁は仲良く小手をかざして手を振り合って、別れていった。

「和樹は帰った?」
「ウン、帰った」
「ったく、この父親にしてあの子だねえ」
けしからぬ覗き見を咎める花世の声色は、夫に対するときよりはいたわりがあった。
「最近忙しくって、ご無沙汰なんだとさ。新婚でそれはないよな」
「でも、男はみんなそうでしょ」
釣った魚に餌はやらないんだから――という致命的な文句はかろうじて飲み込むと、
花世は洗い物が待っている台所へと足を向けた。

「お前もきょうは、スカート短いな」
ダンナの言い草がよく聞こえなかったのか、
「え?」
と問い返した声の語尾が震えた。
「だしぬけに、何よ・・・」
後ろからしがみついてきたダンナを振りほどく努力を、花世はたちまち放棄した。
「じゅうたん、汚さないように・・・うむむっ」
ダンナというものは、つねに主婦の都合を無視する生き物らしい。


あとがき
勢いで描いちゃいました。「若い嫁」編。
けっこう気分よく描けましたが、できの程はいかがなものか。。。(笑)
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