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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

”決して悪知恵ではない。”

2020年07月18日(Sat) 05:52:16

さいわい、素足に革靴で歩いているところを、ひとに見とがめられることはなかった。
ぼくは家に戻ると、大急ぎで箪笥の抽斗から履き古しの通学用ハイソックスを一足取り出すと、
朝からそれを履いていたような顔をして、脚に通していった。
ママが戻ってきたのは、それからしばらく経ってからのことだった。
いつものようにだしぬけに勉強部屋に入ってくると、
ぼくがちゃんと勉強しているか?姿勢や行儀はよろしいか?身なりはきちんとしているか?を厳しくチェックする視線で見回して、
それから、学校に履いていくハイソックスを早く脱ぎなさいといった。
学校指定のハイソックスは1足2千円もするとかで、ふだん履くことを禁じられていたのだ。
それでもぼくは、くるぶし丈の普通の靴下よりも、ハイソックスを好んで履きたがったので、
ママの目を盗んでは、学校帰りのハイソックスをなるべく長いこと脱がずにいるのがつねだったのだ。
ぼくは不承不承、ママの命令に従うふりをして、ハイソックスを脱いだ。
完全犯罪をやり遂げたような密かな充実感が、あとに残った。

けれども、しまり屋のママはそのうち、ハイソックスが一足少なくなっていることに気がつくだろう。
遅くともあす中くらいまでに何とかしなくちゃいけないと、ぼくは思った。
課せられた2時間の家庭学習を終えると、そのあとのぼくは比較的自由だった。
ぼくは遊びに行ってくるからといって家を出ると、学校に戻り、購買でハイソックスを買った。
校内には頻繁に吸血鬼が出没していたし、
そのなかにはハイソックスを履いた男子の脚に好んで咬みつくやつも多かったから、
履き替えを持ち歩いていない男子生徒が購買でハイソックスを求めるのは、珍しいことではなかった。
購買のおばさんは、おや●●君珍しいわねと言いながら、Lサイズのハイソックスをふつうに売ってくれた。
1足2000円は痛かったけれど、裕福な家の息子として潤沢なお小遣いをもらっているぼくに、払えない金額ではなかった。

それからぼくは、制服を創るときに言った覚えのある制服専門店と、友達が制服のシャツを受け取りに行った百貨店とをまわった。
そして、そのどちらでもハイソックスを手にいれることができると分かると、
今度からは学校の購買だけでなく、交互に購入しようと考えた。
それを悪知恵だとは、ぼくは思わなかった。
喉の乾いた吸血鬼に血液を振る舞うときに、彼の好みに合わせてハイソックスをイタズラされる。
ママに余計な心配をかけないために、その事実を内緒にする。
だれもが不幸にならず、丸く収まるためにぼくは動いているのだ。
もしかすると――だれかのために物事を筋道だって考えたのは、これが初めてかも知れなかった。
ぼくはその気づきに、独りで満足を覚えた。
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