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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

交際許可権

2006年07月26日(Wed) 07:02:25

「蛭田君。折り入って、相談が・・・」
いつになく改まった口調で招かれた役員室。
営業部のイスなどとは比べものにならないほど居心地のよいソファの上。
蛭田は居心地悪く、縮こまってしまっている。
役員室は鳥飼女史とのイキサツで、散々慣れているでしょう?
そんなふうに冷やかされても。
冗談じゃない。あれは慣れる・・・なんて。そんなものじゃない。
蛭田はきっと、首をすくめて口ごもりながら、頑強に反論するだろう。

「お願いがある」
三十分も待たされて。慌しく現れた烏森専務は、向かいにどっかと腰をおろすと、
いさぎよいほど鮮やかに、白髪頭を垂れていた。
専務の傍らには、いっしょに部屋に入ってきた岬奈津子。
隣りの課の、こわもての・・・いや、うるわしの先輩が。
お姫さまのように艶然と。堂々と。
そして、ひっそりと控えている。
「奈津子さんを愛している。交際を承諾してもらいたい」
―――えっ?どういうことよ?
蛭田は混乱して、専務の顔をまともに見てしまった。
―――それはこっちの言いたいことだ。
専務の顔つきは、蛭田のそれとおなじくらい、混乱をあらわにしている。
「奈津子さんとは、去年の夏、大阪の出張に同伴してからの付き合いなのだが。どうしてもこれからは、君の承諾を取ってくれと言うんだ。・・・いったいどういう関係なのだね?君たちは」
さいごの一句は、無意識に詰問口調になっている。

どういう関係?
課は隣同士。
じつに優秀で切れ者な女の先輩と、どじばかり踏んでいるできのわるい男の後輩。
そこまでは、誰だって知っているはずだ。
たまにツーショットで一杯ひっかけにいくのも。(むろん蛭田のおごりで)
そこまでの関係も、知っている人は知っているだろう。
けれど。
女のストレスが嵩じたときに、別室で。
求められるまま、身に着けているストッキングを破ってやったり、
もののはずみで本性あらわに血を吸ったり、
あげくの果てに、やりすぎて。手厳しいお返しを頂戴したり。
そんなことは誰も、知らないはずだ。
―――まさか、そんなことまでしゃべったの?
チラと向けた視線を、奈津子はそ知らぬふりで受け流している。

きみは、奈津子の婚約者でもあるのか?
専務がいいたいのは、そこだろう。
まさか・・・
一笑に付すべきか?
それも怖いような気がする。
だが、この奇妙にのっぴきならない状況は、いまこの場で解決しなければならないようだ。
「どうだろうか?許可してもらえるかね?」
息せき切っていた専務は、少し余裕を取り戻したのか、
ちょっと蛭田をからかうような目をして、問い質してくる。
もういちど、奈津子を見ると。
試すような顔つきで。さっきから。
じいっと、蛭田を見つめている。

「困りますよ。そんなことを私に言われても。
 そもそも私にそんなことを許可する資格なんかありませんし。
 専務だってご家庭をお持ちのわけですから、
 『それはまずいじゃないでしょうか?』としか申し上げられませんね」
蛭田にまともに言い返されて。
専務は人が変わったように、赤くなり、蒼くなり。
しばらくものも言えないで口ごもっていたけれど。
「わかった。もうふたりとも部署に戻ってくれ。それから、わかってくれるだろうが、こんな話はくれぐれも口外しないように」
さいごの語尾は、不安げに震えていた。

さっきからコツコツというハイヒールの音だけが、廊下に響いている。
ピンと背筋を張った奈津子の歩きぶりは、脚さばきもさっそうとしている。
狭い廊下にこだまするハイヒールの音も、その小気味良い歩みぶりを映して。
どこまでもリズミカルに奈津子のあとをつづいてゆく。
お互い無言。
探り合っている・・・などと思い込んでいたのはきっと、蛭田のほうだけだっただろう。
営業部が近づいてくると。
奈津子は一瞬足をとめ、
「よかったわね。殴られなくて」
リンと取り澄ました、冷たい声。
「専務のこと?」
「私に・・・よ」
相変わらずニブいのね・・・
奈津子はいつも蛭田をなじるときのあの顔つきを残して、そそくさと部署に戻っていった。

つぎに会ったとき。
烏森専務は、憔悴し切っていた。
服装は社内にいるときよりはさすがにラフだったが。
ブレザーにスラックス姿。決して自堕落な服装ではない。
家に客人を招くときは、必ずそうしているのだろう。
「家内の晴枝だ」
引き合わされた夫人も、地味だがきちんとしたベーズリ柄のスーツを着て、夫の傍らに控えている。
蛭田のかたわらには、奈津子。
先日は、専務の隣。きょうは、蛭田の隣。
おなじように、淑やかめかして。きりっと背すじを伸ばして。
ピンストライプのスカートの膝のうえ、両手を丁寧に組み合わせている。
このごろ濃い目になっていた化粧が、きょうは清楚に薄っすらとしているのは。
初めてお邪魔した重役宅・・・だからだろうか。
貸しを作った専務の手前。初対面の夫人のまえ。
ことさらお嬢様をとりつくろおうとする下心・・・だなどとは、思っても口にできまい。
清楚な衣裳の下。
足許を黒く淫靡に染めているストッキングはきっと、インポートもののガーターストッキングだろう。
こういうときの蛭田の推測は、はずれたことがない。

さっきから、蛭田の目を捕らえて離さないのは。
目のまえで上品に流された、晴枝夫人の脚。
先日開かれた社内のとある式典に、重役の多くは夫人同伴で現れた。
晴枝夫人を目にしたのはそのときが初めてだったけれど。
齢より若く瑞々しい白い肌が、濃い紫のワンピースに映えて。
ひときわなまめかしい風情に、目を釘づけにされたのが。
あれからもう数ヶ月も経つというのに、いまだに鮮やかな記憶となって残っていた。
晴枝夫人の脚を染めるのは、あのときとおなじ黒のストッキング。
薄手のナイロン越しに滲むように透けている白い肌に、蛭田は牙の付け根を疼かせてしまう。

見かけの淑やかさとは裏腹に。
かなりあけっぴろげな人らしかった。
「アラ。あなたったら。何口ごもっているのよ」
晴枝は口を尖らせて、夫を軽く非難する。
「貴方がそうしたいっていうから、お呼びしたらって申し上げたのに。決心つかなくなったの?」
夫婦というよりも。息子の悪戯を咎める母親のようだった。
「ああ。いやいや・・・」
夫の曖昧な態度のなかに、「予定変更はない」という意図を見抜いたのだろう。
夫人のほうがはるかに、思い切りが良かった。
「男のひとのまえで裸になるんですから、あなたたちはずしてくださいね」

「いや、いや!」
専務は気の毒なくらいに、狼狽している。
わかっているわよ・・・
晴枝は白い眼で夫を見返して。
「はい、はい。気の毒な貧血症の社員さんに血を差し上げるだけ・・・でしたよね?」
さあもういいですから。おふたりで寝室へでもどこへでも消えて頂戴。
そんな態度で、夫を追っ払うように夫人のほうから立ち上がっていた。
そわそわと、そそくさと座を立って。
奈津子を引き立てるようにして、専務は廊下に通じるドアをあけた。
では。
ソファから立って、礼儀正しく一礼して通り過ぎようとする奈津子に。
油断のならない子。
晴枝はそんな一瞥を、送っている。

階段のきしむ音がゆっくりと遠ざかってゆくと。
夫人は蛭田と差し向かいになって。
「どこから、お吸いになるの?」
脚・・・といいかけて。
どこからでも来なさい。
そんな印象すら窺える夫人の態度に気圧されて。
蛭田はちょっと、口ごもる。
初めての女性を襲うとき。
初めは、首すじか、胸。
あるていどの量の血液をひと息に、理性とともに奪い取って。
それからゆっくりと、ストッキングの脚を愉しむことにしている。
いつものまがまがしい野性がぐぐっと鎌首をもたげて。
蛭田はいっしんに、ブラウスの襟首からわずかにのぞく胸許に眼を馳せた。
わかったわ。
晴枝夫人は蛭田の目線に敏感に応えてきた。
もの分かりよく一歩まえに出ると。
頭ひとつは丈のある蛭田と、まともに目線をあわせてくる。

いざとなると、きつい眼をするひとだ。
そんなふうに思いながら。
蛭田は咎められたような後ろめたさを隠しながら、晴枝夫人の目線をかいくぐり、
うなじに唇を押し当てていた。
暖かい―――。
ほどよく柔らかい皮膚の下に息づくぬくもりに、理性をさきになくしたのは男のほうだった。
牙を入れた瞬間。
女はさすがにびくっと四肢をこわばらせて。
それでもなんとか、姿勢を保とうとした。
ちゅ・・・っ・・・ちゅう・・・
勢いよくはじけた生温かい鮮血は、蛭田の喉を心地よく浸してゆく。

「なんだか、眠くなってくるわ。あまり失礼なこと、なさらいわよね?」
念を押すように、そういうと。
返事も待たず、蛭田の腕の中。晴枝夫人は気を喪った。
しずかになった身体にのしかかって、なおも傷口を吸いつづけ。
豊かな肢体が意思を喪ったのを確かめると。
黒のストッキングに包まれたふくらはぎに、欲情をズキズキ滲ませた唇をあてがってゆく。
自分のために装われた、薄手のナイロンが。
微光の差し込む密室のなか。かすかな光沢を滲ませて。
豊かな脚線美をなまめかしく、きわだたせている。
過去になん人の女が、こうしてストッキングを破られていったことだろう。
専務の妻でありながら。
晴枝夫人もまた、蛭田の牙に毒されてゆく。
スキひとつない装いに、手抜きはなかった。
蛭田のための装いは、よほど高価なものらしい。
サラサラとした舌触りが、ひどく心地よかった。
蛭田のしつような嬲りに応えるように。
豊かなふくらはぎを柔らかにコーティングしたナイロン製のオブラアトは、
しなやかな色気を滲ませて、ギラギラと脂ぎったものを輝かせながらなすりつけられてくる唇や舌を迎えてくる。
すぐに破るのはもったいないな。
侵しがたい風情の貴婦人をまえに。
蛭田はけしからぬ感想を抱きながら、晴枝夫人のスカートに手をかけた。
奥までしのび込んでゆく手の動きにあわせ、スカートを彩るベーズリ柄がうねうねと波打ってゆく。
ほぅ・・・
太もものつけ根まで忍ばせた蛭田の掌が、うごきをとめた。
ガーターストッキング・・・
そして、そのうえは。
予期された特定の衣類の感触が、ない。
秘所をおおいかくすため、女がふつう身に着けている衣類の感触が。
いっしょに此処にやってきた女が、ピンストライプのスカートのなか装ったように。
この女もまた、おなじ装いに身をやつしている。
むき出しにされた部分の体毛が。
まるで抜き身の刃のようにチクチクと、蛭田の指先に触れてきた。
「失礼なこと、なさらないわよね?」
ああ、やっぱりそういう意味だったのか・・・
蛭田はにんまりと、笑んでいた。

精緻な画質だった。
さっき妻をおいてあとにしたばかりの応接間が、激しい情事を痕づけるように。
ソファやイスの置き所までも変えている。
大画面に映し出された、一対の男女の所作。
かがみ込んだ蛭田の牙に、濃艶な風情に包まれた脚線美を侵されてゆく妻。
じゅうたんの上、転がされ。
毒虫に養分を吸い取られるようにして、血を啖らわれてゆく妻。
見慣れた外出着に、かすかなバラ色を散らしながら。
半ば気失しつつも、男の求めるまま。
清楚な薄墨色の長沓下の脚を放恣に開いてゆく妻。
「ズキズキ・・・する?」
可愛く笑んだ柔らかな唇が、イタズラっぽい響きを耳もとに吹き込んでくる。
眼は、うっすらと夢見心地。
それでいて。患者の容態を注意深く見守る看護婦のように。
怜悧な輝きを秘めていた。
「たまには、いいでしょ?こういう覗き見も・・・」
スカートを剥ぎ取られてあらわになった太ももは、ガーターで鮮やかに区切られて。
素肌の地の白さをいっそうきわだたせている。
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コメント

男って・・・
丸・三角・四角・・・・
こいう関係ってどう表現すればいいんでしょう。
奈津子さんは、ほんとうは
蛭田さんにどうして欲しかったんでしょう。
なんだか、普通の男でしかない専務さんが
一番かわいそうだったりして( ̄∇ ̄;)
by さやか
URL
2006-07-27 木 18:18:59
編集
>さやか様
ちょっと、わかりにくいお話だったかも。(^^ゞ
最初からさいごまで、奈津子の思惑通りって答えたら、びっくりしますか?
by 柏木
URL
2006-07-27 木 19:19:06
編集

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