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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

転入生の告白

2020年07月31日(Fri) 08:07:46

変な制服だと思った。
半ズボンにハイソックス。
およそ、中学生の男子が身に着けるものではない。
これでは小学校の低学年か、女の子みたいだ。
そんな羞恥心をよそに、親たちは、これからは生活が何もかも変わるのだから・・・と言ってきかなかった。
まあ・・・こういうことでもなければ、いまごろは一家心中をして、
既に人間ではなくなって物体になってしまっていただろうから。
別段、小学校からやり直したところで、女の子になったところで、
文句のない話だった。

それでも学校に行く道々、すれ違う人が自分のことを見てやしないかと、
羞恥心でいっぱいになりながら、学校に向かった。
迎え入れてくれた同級生たちは、みんなおんなじ制服を着ていて、
だれもがそのことに、最初から疑問を持っていないようだった。
地元の子と半々くらいの割合で、都会育ちの子もいたけれど、
今ではすっかりなじんでいる、という感じだった。
むしろ、そんなことを気にしているぼくのほうがよっぽど、おかしいのかもしれなかった。

それどころか、教室にはなん人か、女子の制服を着ている男子もいた。
希望によっては、女子の制服で登校することもできるのだそうだ。
もっともさすがに、体育の時間は、女子といっしょに着替え・・・というわけにはいかないらしかったけれど。

女子も、男子と同じねずみ色のハイソックスを履いていた。(女子のほうが選択の幅が広かったけれど、大多数がそうだった。後述)
おそろいのハイソックスの脚を並べて教室の席についていると、ぼく自身もすぐに女子に早変わりできそうな錯覚に襲われた。

男子がハイソックスを履いていたり、女子の制服を着て登校することができたりするのには、理由があった。
この街には、吸血鬼がおおぜい、棲みついていた。
学校の先生も、なん人の吸血鬼がこの街にいるのかわからないと言っていた。
無理もなかった。
吸血鬼は日々、増えていっているらしいから。
そして、その吸血鬼たちは、若い男女の血を求めて学園を徘徊しているのだけれど、
ぼくたちは彼らに血液を提供する義務を負っていたのだ。

都会に住んでいるとき、父さんがリストラにあった。
阿波や一家心中というところまで追いつめられたとき、いまの会社の求人を見つけて応募したところ、種々の性格検査だけで採用となった。
性格検査には、ぼくたち家族も対象となっていたので、すこし緊張したのを覚えている。
給料はいままでよりも高くて、仕事の負担も少なく、
まえの会社のように深夜にタクシーで帰ってきて、
タクシー代だけで家計が圧迫されたりとか、
会社に泊りになって翌々日にやっと帰ってこれたりとか、
そういうでたらめな忙しさとも無縁で、まだ明るいうちに帰ってこれて、毎日のように家族で食事をできる、夢のような生活がここにはあった。
「血液の提供義務」というのも、献血だと割り切れば良いのだ・・・と、自分に言い聞かせていた。
直接肌を咬まれて血を吸われるという不気味な方法による採血だということは、あえて考えないことにしていた――どうせそのときがくれば、嫌でも経験するわけだから。

採血される機会は、案外早かった。
それは、当地に引っ越してきて間もなくのことで、学校帰りのときのことだった。
何気なく通りかかった公園に、誘蛾灯に吸い込まれるようにして寄り道をしていたら、
キュウキュウという異様な音が生垣の向こうから洩れてくるのに気がついて、
何気なく覗いてみたら、そこにはぼくと同じ制服姿の男子が、うつ伏せになって倒れていた。
最初はその男子を、大人の人が開放しているのかと思った。
けれどもちがった。
その大人の人は、男子の首すじに唇をあてがって、生き血を吸い取っていたのだ。
キュウキュウという音は、その大人の男性の口許から洩れてくる音だった。
ぎくりとして立ちすくむぼくの気配に気づいて、男はぼくの方を振り返った。
男は初老の、風采の冴えない男で、口許には吸い取った血のりを転々と散らしていた。
血のりは、男の犯罪を訴えるかのように、無音でテラテラと輝いていた。
どうしたの?――と、その男子は起きあがり、やはりぼくのほうを見た。
ぼくはその時になって初めて、血を吸われていたのは同じクラスの江利川貴志くんだとわかった。

ふたりの様子が密会であることは、カンの鈍いぼくにもすぐわかった。
江利川くんが吸血鬼に襲われて暴力的に生き血をむしり取られているわけではなくて、
ふたりであらかじめ示し合わせて公園で落ち合って、
人目を忍んでこうして、生き血を提供しているのだ。
江利川くんはただ、「視ていく?それでもいいけど」とだけ、言ってくれた。
「何の用?」とか「邪魔するなよ」とか言われていたら、気の小さいぼくはすぐに引っ込んで、そそくさと家路に戻ったに違いない。
あとできいたら江利川くんのほうでもそう思って、ちょうど気の乗ってきたところでぼくが邪魔をしたことを、わざと咎めなかったのだそうだ。
江利川くんの問いに、ぼくはだまって頷いていた。

いずれはぼくも吸血を受ける立場なのだと、わかっていた。
ただそれがいつで、だれから吸血されるのかはわからない――と、父さんが教えてくれていた。
父さん自身も、だれかに吸血されるはずだけれども、それがいつで相手がだれなのかもわからないのだそうだ。
ぼくは、江利川くんさえよければ、いま江利川くんの血を吸っている男でも良いと思い始めていた。
いちど起きあがった江利川くんはふたたびうつ伏せになって、男は今度は江利川くんの足許にかがみ込んでいって、ねずみ色のハイソックスのうえから、ふくらはぎに唇を吸いつけていた。
その様子は、ひどくSexyに、ぼくの目に映った。
ユニセックスな印象を与えるハイソックスごしに唇を吸いつけられて吸血される――
自分が女の子になって襲われているような錯覚に襲われたのだ。
男は暫くの間、江利川くんのハイソックスの舌触りを愉しむように、ハイソックスの脚をくまなく舐め抜いていた。
そしておもむろに、ふくらはぎのいちばん肉づきのよいあたりに、牙を埋めていったのだ。

「どう?感想は」
江利川くんが乾いた声でふたたびぼくに話しかけたのは、
ひとしきり吸血行為がすぎたあとのことだった。
ぼくたちは3人、草地に腰を下ろして車座になっていた。
襲うほうと襲われるほうとの関係なのに、
吸血鬼の男の人も、どこかそんな状況を許せるような、ひっそりとした印象を受けた。
「どうって訊かれても困るか」
ははは・・・と、江利川くんは笑った。
邪気の無い笑いに釣り込まれて、ぼくもちょっとだけ、笑った。
「きみも知っているだろうけど、ここの生徒はみんな、吸血鬼の彼氏がいるんだ。
 男女を問わず」
「そうなんだね」
ぼくも相づちを打った。
ぼくの相づちに、吸血鬼の男の人は、ほっとしたような気配を泛べた。
彼のことをぼくが、一方的に忌み嫌うかと思っていたらしい。
「ぼくたちは若い血で、彼らをなんとか癒してあげようとしているんだけど、
 彼らの仲間もこの街のことを聞いて集まって来るから、
 街はいつでも血液不足――」
江利川くんは謡うようにうそぶいた。
「彼らひとりを養うのに、健康な大人がだいたい七人くらいつけば、
 人間も死なず、吸血鬼も穏やかに暮らせる。
 ――あ、そうそう。彼らは人を殺めないからね。基本的に。
 それで、ぼくの彼氏のこのひとのばあい、まだぼくとぼくの両親だけしか、
 ”お客さん”がいないんだ」
”お客さん”って、どういう意味か分かるよね?
もちろんわかるよと、ぼくはこたえた。
江利川くんの説明は分かりやすかったし、落ち着いた声色にも好感が持てた。
それに、自分が勝手に話すだけではなくて、ぼくのわかり具合にまで気をまわしてくれるのが、無性にうれしかった――都会では、ぼくには友達らしい友達がいなかった。
「3人だとたいへんだね」
「よかったら――」
そのときだけ少し口ごもった江利川くんのあとを、ぼくが引き取った――自分でもびっくりするくらい、すらすらと。
「ぼくも、この人の”お客さん”になることはできるのかな」

その晩ぼくたちは、おそろいのねずみ色のハイソックスの脚を並べて、
二人して吸血鬼の小父さんを満足させた。
少し貧血で眠くなったりしたけれど。
初めて体験する頭の重ささえ愉快に思えるほど、ぼくは満足を感じていた。
小父さんと江利川くんとの、記念すべき出逢いの夜だった。
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