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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

母を連れていく。

2020年08月26日(Wed) 20:22:30

薄らぼんやりとした記憶なのだ。
周りじゅう、もやがかかっているなか、わたしは母といっしょに歩いていた。
もやのなかの、村はずれ一本道だった。
”いっしょに”というよりも、先導して歩いていた。
まだ年端も行かぬ頃のことだ。そんなことができたのだろうか?
一本道のことは、たしかに灼けつくくらいに、よく憶えていた。
だいぶ歩いたところに、荒れ果てた祠のようなものがあった。
そのなかにうっそりと、人の影が、こちらに背中を向けて座り込んでいる。

母はわたしに、「覗いてはいけないよ」と必ず念押しをして、祠のなかへと入っていく。
けれども、年端の行かない子どもにとって、
「覗くな」という命令はあまりにも守ることが難しいものだった。
母の禁を破って覗き見をした彼方。
こちら向きに立ちすくんだ母は、ひょろ長い男の猿臂を巻きつけられて、
うなじを咬まれて歯を食いしばっていた――


それから二十年近くの年月が過ぎた。
母と一緒に都会に出てきたわたしは、勤め帰りの家路を急いでいる。
連れの男に母を引き合わせるためだ。
二十数年ぶりの再会。
それはきっと、床に血のりをまき散らすほど、嬉しく愉しいものに違いない。

形ばかりでも。
わたしはあのとき、母の生き血を吸わせるための、手引きをしていた。
そしていまは、その意味をはっきりと自覚して、同じことをくり返そうとしている。
首すじにつけられたばかりの咬み痕を、じわじわと疼かせながら。
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