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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

写真術

2020年09月04日(Fri) 08:28:30

あ・・・う・・・っ!
妻の和江が痛そうに顔をしかめた。
痛そうではあるが、かすかに陶酔の色がよぎるのは、おそらく見間違いではない。
和江を背後から羽交い絞めにしている吸血鬼が、
肩までかかる髪の毛を掻きのけて、首すじにかぶりついていた。

流れ落ちる、ひとすじの血。
それは赤黒い直線となって、白いブラウスに点々と滴り落ちた。
ちゅーっ。
男は聞こえよがしに、音を立てて人妻の生き血を吸い上げる。
和江と向かい合わせに立ちすくむ、夫の美紀也に聞かせるために。

前のめりに倒れ込みそうになる和江を支えようと、
幹也はとっさに歩み寄って、すがりつく腕を抑えつける。
夫婦はとっさに口づけを交わし、美紀也は夫として言うべきではないひと言を口にする。
――好きなだけご馳走してあげなさい。彼はきみの血を気に入っている。
夫の指示に応えるように、和江はその場に昏倒した。

じゅうたんのうえにあお向けになった和江のうえに覆いかぶさって、
吸血鬼はなおもしつような吸血を遂げてゆく。
ちゅうっ、ちゅうっ、ちゅうっ、
意地汚い吸血の音が、夫の、妻の鼓膜を、淫らに浸していった。
血液という液体は、生命の源泉であるのと同時に、
淫らな想いを掻き立てるものでもあるらしい。

和江は夫の言いつけにそむくまいと、途切れ途切れに口にする。
「お願い、どうぞ、お好きなだけ、召し上がってください・・・
 貴男にわたくしの血を気に入っていただけて、とても嬉しい・・・」

失血のあまり女が絶息すると、吸血鬼はにんまりと笑って、
乱れたスカートのすそに目を落とす。
黒のストッキングがじんわり滲んだ太ももが、男の欲情をそそったのだ。
うひひひひひっ。
男は野卑な声をあげると、和江のひざ頭の少し上のあたり、
むっちりとした肉づきのふとももに、唇を吸いつける。
欲情に満ちた唇の下、ストッキングがパチパチとかすかな音をたててはじけていった。

「だいぶ、ご執心のようですね」
妻の受難をいっしんに見守る美紀也に、先客がからかうようにいった。
「エエ、家内の血を気に入ってもらえて、嬉しいです」
こうした光景をよほど見慣れているのか、美紀也が取り乱すことはなかった。
妻のほうへと身を寄せて、あやすように頭を撫でて、乱れた髪を整えてやっている。
先客は、息子の友人の父、間島幸雄(42)だった。
彼の一家もまた、家族全員が、吸血鬼の難に遭っている。
息子が食われ、妻が食われ、自身までもが吸血鬼との和解と引き替えに食われていったことは、
やや後発ながら同じ運命をたどった畑川家とすこし似ている。

さあ、吸血鬼の宴は、最高潮に達しようとしていた。
血に昂った吸血鬼は、獲物にした人妻のブラウスを剥ぎ取って、乳首を口に含んでいた。
畑川夫人を、男として愛するためである。
ストッキングを片脚だけ脱いで、闖入者の行為に熱心に応えてゆく妻のことを、
由紀也は満足げに誇らしげに見守っている。

だしぬけに、間島がいった。
「あんた、写真術を習いませんか」
「写真術?」
「エエ、この街の街はずれに、緑華堂という写真館があるのをご存知か?
 そこのあるじが、こういうところを画にするのが巧みでしてね。
 家内が愛されているところを記念に撮りたいのですが、
 わたしはどうしても、手が震えてしまう。
 緑華堂に頼めば、綺麗に撮ってくれるのですが、
 少し何かが違うと感じるのです。
 それは、被写体に対する愛です。
 妻の裸体を愛情をこめて撮ることのできるのは、夫か愛人に限られる――緑華堂自らが、そういっていました。
 あなた、写真術を習いませんか?
 そして、いまの奥さんの幸せな瞬間を、画にして残しておやりになりませんか・・・?」
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