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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

写真の修行

2020年09月05日(Sat) 14:10:50

パパ!
遠くから自分を呼ぶ声がした。
息子の保嗣(14)の声だった。
息子にしては、いつもより甲高い声だと思った。
畑川由紀也(38)が振り向くと、
保嗣は、同級生の達也の父親、間島幸雄(42)といっしょにいた。
保嗣はスカートを穿き、女の子の格好をしていた。
父親の前に、女の子の格好をさらすのが照れくさいのだろう。
長く伸ばし始めた髪の毛に縁どられた彫りの深い顔だちに、
くすぐったそうな笑みを泛べていた。

ピンクのカーディガンに、オレンジ色のブラウス。真っ赤なスカート。
ミニ丈のスカートの下には、紫のラメ入りオーバーニーソックスが、足許を華やがせている。
薄いメイクをした保嗣の面ざしは、妻に似ていて、思わず男として、はっとなった。
そしてつぎの瞬間、そんな自分を恥ずかしく思った。

保嗣の着ているその服は、見慣れない服だった。
「ああ、、これ?小父さんに買ってもらったんだ」
すこし上ずった声色は、どことなく女っぽくさえある。
女の子の服装をすると、声までそうなるのか。
まだ経験のない由紀也には、そこまでの想像力を持っていない。
わかることは、妻だけではなく息子までもが、
家族のなかに侵入しつつあるこの男の色に染められ始めている――ということだった。

「あんまりおねだりするもんじゃないぞ」
連れの男に聞こえるようにそんなふうにいうのが、精いっぱいだった。
こちらが気遣っていることを、それとなく伝えたのだ。
あと、息子をデートの相手として連れ歩いていることを、
父親として気にしていないということも。
「息子さん、お借りしますよ」
という男に、
「エエどうぞ、ご遠慮なく」
とまで、こたえてしまっていた。

妻を犯し、息子までも犯している男に、会釈をしてしまった。
その事実になぜか、勃ってしまうほどの昂りを感じた。
こんなことがつい最近、妻を交えてあったのを思い出した。
通りを歩いているとだしぬけに、キッとブレーキ音を響かせて停まった外車。
助手席に座った妻は、イタズラっぽい笑みを浮かべて、小手をかざして手を振った。
運転席の男は、「奥さん、お借りしますよ」と、あのときとおなじことを言っていた。
「帰り、遅くなるから」
悪びれずそういう妻に、
「泊りでもかまわないよ」
と言ってのける。
「お昼までにはお送りしますから」
と、調子のよいことを言う、息子の親友の父。
そのときのことを後から思い出して、
やはり勃ってしまうほどの昂りを覚えた。

妻だけでなく、息子まで。
彼におかされ、彼の色に染められてゆく。
家庭を侵蝕されてゆくことに、歓びを感じこそすれ、
そこには家長としての威厳を犯されたことへの嫌悪感はまったくない。
伝わってくる心からの敬意が、そうした憎悪の感情を、完全に封じ込めてしまっているのだ。

彼に任せておけば、少なくとも血を吸われる気遣いだけはない。
吸血鬼や、彼に咬まれて吸血鬼化した達也とは違う。
達也の父は、あくまでも自分よりも年上の、心優しい親父だった。
そう、ついこの間までは、同級生同士の下校の道々、
息子はうなじを咬まれ、ふくらはぎを咬まれして、
貧血でふらふらになりながら帰宅したものだった。

そうするときょうあたりは――
嫌な予感が、頭の隅をかすめる。
美紀也は家への帰りを急いだ。


あうううううっ・・・
目の前で妻が達也に襲われているのを、
リビングの床に転がった彼は歯噛みをしながら見守るばかり。
さきに吸い取られてしまった大量の血液が、
いまごろ吸血鬼のエネルギーになって、のぼせ上らせているに違いない。
妻は、吸血鬼の腕の中。
喘いでももがいても、その猿臂をほどくことはできなかった。

ふと、背後から肩を叩くものがいた。
見覚えのある顔だった。
それが街はずれの写真館、緑華堂だと気づくのに時間がかかったのは、
失血のおかげで記憶力が薄れてしまっているせいかもしれなかった。
「良いチャンスですね」
チャンス――?
美紀也はいぶかしげに緑華堂を見返した。
そして、すぐにおもった。
ああ、そういうことか。
いまなら撮り放題というわけだ。
被写体はむろん、犯され抜いている妻――
「これをお使いなさい。デビュー記念に差し上げます」
渡されたカメラは一眼レフ。
初めて持つ手には、ずっしりと重たかった。

震える手でなん枚も撮った、。
妻は撮られまいとして、顔を背け、やめてと懇願し、
けれどもどうすることもできないとわかると、
こみあげる性欲の虜になって、
当てられるフラッシュの閃光に身をゆだねるように、
本能のままに腰を振り、喃語を洩らし、耽り抜いてしまっていた。


やっぱり手振れがひどいね。
緑華堂は、できあがった写真を一枚一枚を丹念に点検しながら、いった。
穏やかで丁寧な話しぶりは、初めて本格的なカメラを持つものへの労わりに満ちていて、
美紀也はつられるように、つぎにはどんなふうにすればよいか?と訊ねていた。

まずは慣れることです。
愛する奥様が狼藉に遭っている。そこを堪えて撮るのですから、自分との闘いです。
でも、ご夫君にしか撮れないものが撮れるはずです。
私が撮って差し上げても良いのだが、
技術的には良くても、愛情の薄いものにしかならないでしょうから――

そこまで聞いて、美紀也はふと訊ねてみた。
どうしてそこまでして、妻が侵される写真を撮らなければならないのでしょうか?
彼が欲しがっているのです。
――ああ、それはわかるような気がするな。
美紀也はふと相手の立場になってそう思った。
夫でありながら、なんともうかつなことであったが、
妻を日常的に犯している男が、現場の写真を欲しがる心理がなんとなく理解できたのだ。
ところが緑華堂は、さらに奥深いことを口にする。
「どうして欲しがるか、わかりますか?」
「戦利品にしたいのでしょう」
「よくおわかりですね、と申し上げたいところですが、もうひとつわけがあるのです」
「わけ――というと・・・?」
「貴方を脅かすためですよ」

人妻を犯すところをその夫に写真を撮らせ、
撮った写真を巻き上げて、「女房の恥をさらしたくないだろう?」
と、人妻との継続的関係を迫る――などと。
どこまでもあつかましいのだろう。
けれども、どこまでも恥知らずなのだろう。
彼ではなく、自分が、である。
あまりのことに勃ってしまっている自分自身を自覚しながら、
その自覚を目の前の男が「わかりますよ」といわんばかりににんまりと笑むのを見ながら、
美紀也はこらえきれずに、ズボンのなかに射精してしまっている。

8月31日構想 さきほど脱稿。
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コメント

 「緑華堂」、久しぶりのお話upですよね。この写真館の妖しさが好き。
「美紀也はこらえきれずに、ズボンのなかに射精」してしまうのもわかるなー

ちょっと遡って読みましたが、2006年からなんですね。
私も着飾って、緑華堂に出かけてみたいって想っちゃった。
by ゆい
URL
2020-09-10 木 08:59:20
編集
ゆいさん
緑華堂のお話、気に入って下さり嬉しいです。
今回は、春ころにやっていた同性ものとコラボしてみました。
前回が写真術のお話だったので、ここは彼の出番だろうと。^^

写真の良さは、技量+愛情だと思うのですが、いかがでしょうか?
by 柏木
URL
2020-09-11 金 20:23:27
編集

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