FC2ブログ

妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

謎のハーモニー

2020年09月28日(Mon) 18:58:23

部室のドアを開くと、妙なる歌声が折り重なって、
いままで聞いたことの無いハーモニーをかもし出していた。
きょうは週一回、四人の部員が全員そろう日。
だれかが週一で吸血鬼のお相手をつとめて、
その次の日は学校を休むほど若い血を気前よく振る舞ってしまうこの合唱部では、
四人全員がそろうのは、水曜日しかなかったのだった。
きょうはきっと――やつはどこか別のクラスで女の子漁りをしているに違いない。
合唱部の部室で女の子の妙なるソプラノやアルトを響かせることの好きな男は、
教室で「ひー」とか「きゃー」とかいう叫びをあげさせるのも、大好きなのだから。

それはともかく、先着の三名が醸し出している、妙なる歌声のほうである。
いままで聞いたこともない、風変わりな和音だった。
前衛的な現代曲?それともどこか外国の土俗信仰の産物?
いやいや、この研ぎ澄まされたような清澄な和音は、もっとかけはなれたもののよう。
古い宗教曲かもしれない、と、水橋日奈はおもった。

遅れて入ってきた水橋日奈に、部長の日高晶子が声をかけた。
「ああよかった、やっとソプラノが来た」
これで全員で音合わせができるね、という顔つきだった。
ソプラノ、アルト、テナー、バリトンの四声の楽曲を女子だけで歌うには、無理がある。
ひとりだけ1年生の水橋日奈がソプラノ。
副部長の佐奈川百合絵がアルト。
部長の日高晶子がテナーの代わり。
そして、もと男子の餘部貴恵がバリトンの代わり。
どこの学校の合唱部でも、男子不足が構造的な問題になっているので、
貴恵のような子はこういう世界でも歓迎されることがある。

それにしても、
どういう曲――?
みんながいちように、日高晶子のほうをみた。
この曲をもちこんだのは、彼女だったから。
日高晶子は、暗誦するように、曲の由来を説明し出した。

フランスのサン・モール侯爵の邸宅に古くから伝わる曲集、プルミエ写本のなかで、
一曲だけ楽譜を袋詰めにされ、厳封された形で発見された曲。
題名は楽譜に書き入れられていない。
発見された状態から”封印された哀歌”とも、”禁じられた哀歌”とも呼ばれる。
古代ケルト語か古代アラム語で描かれたと言われているが、
歌詞の内容は一切不明。
そして、内容があまりにも異端的であるので、翻訳することを禁じられているという。
もしも翻訳をした場合には、悪魔が現れて居合わせた全員を取り殺すとさえ伝わっている。
吸血鬼がヨーロッパ大陸に滞在していた時、
不遜にもそれを写し取ってきて、ここにもたらして来た――

「あいつ、ろくなことしないよね」
副部長の佐奈川百合絵が思わず口走ると、
「だめだって」
と、餘部貴恵がたしなめる。
「いけねぇ」
部長の尽力?に敬意を表することを忘れた副部長は、
大げさに舌を出して自分の失策を恥ずかしがった。
「これ、こんどの文化祭で四人で歌うから」
「えーっ!?」
全員が、声をあげた。
文化祭まで、あと一ヶ月もない。
「ただし、訳しちゃだめだよ」
日高晶子が三白眼になって、念を押した。

「だいじょうぶだよ、あたし、英語だって苦手だし」
「ほんと、何語なんだろうね」
「発音は、ローマ字読みでかまわないそうよ」
「でも、独特でいい曲じゃん」
いちばん積極的なのは餘部貴恵で、
早くもエキセントリックな曲調に興味を覚えたらしかった。
「この楽譜、家に持って帰ってもいい?」
「だめ、部室からは持ち出し禁止だから」
部長はあくまでも、曲の取り扱いには厳しかった。
家での練習も禁止と言われて、副部長がいった。
「時間ないじゃん~」


9月21日着想
前の記事
謎のハーモニー 2
次の記事
入学の条件

コメント

コメントの投稿

(N)
(B)
(M)
(U)
(T)
(P)
(C)
管理者にだけ表示を許可する
トラックバック
http://aoi18.blog37.fc2.com/tb.php/4031-8ae7ee92