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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

年下の少年吸血鬼に、彼女の血を捧げてみた。

2020年12月20日(Sun) 18:23:38

いつも学校に履いていく黒のストッキングの上に、
恵は紫のラインの入った白いハイソックスを重ね履きしていた。
その重ね履きをしたハイソックスを、丁寧にずり降ろし、
少年Aはストッキングに透けるふくらはぎに唇を近寄せる。
ぼくはだまって、恵に対する彼の仕打ちを見守るだけ。
それが、その場に居合わせるための条件になっていたから。

すでにぼくも、Aによって血をたっぷりと抜かれてしまっていた。
体操着の襟首にはどろりとした血潮が付着していて、
脛の半ばまでずり落ちたハイソックスは、
ふくらはぎのあたりをなん度も咬み破られて、やはり真っ赤に染まっている。
痛みはない。
むしろじんじんとした疼きが、心地よいくらいだった。

吸血されることに慣れてしまったぼくが回数を重ねることを、
彼女の恵は心配してくれた。
そしてなん日か経ったある日、恵のほうから言い出したのだ。
「あたしもAくんに、血をあげようかな」
「え?そんなことする必要ないよ」
ぼくはいった。
けれどもぼくは、彼女の言い分を渋々認めざるを得なかった。
「だって、彩輝(あやき)くんが血を吸い尽くされちゃったら嫌だもの」

この街の吸血鬼は、人の生き血を吸い尽くさない。
適度に吸って快感を与え、献血を習慣化させてしまうのだ。
そんなことは彼女も百も承知のはずだったけれど、
彼女を介さない濃密な関係を、
たとえ同性同士であっても女の本能が許せなかったのだろう。

「ぼくの彼女の血を吸うかい?」
おずおずと訊ねるぼくに、Aはこともなげに「ぜひ欲しい」と応えを返してきた。
きみだけだと量が足りないから助かる・・・という本音に、
ほっとしたような、彼女の血をぞんざいに扱われたような、複雑な気分になった。

それが、目のまえの光景にいたるまでの経緯だった。

ぼくはふらふらとする酩酊感を愉しみながら、
同時に彼女を吸血されるほろ苦い苦悶を愉しんでいた。
すでに彼女のふくらはぎには深々と、ぼくの皮膚をも切り裂いた牙が埋め込まれていた。
太くて尖った牙は、圧しつけられた唇に隠れて見えなかったけれど、
その唇は彼女の皮膚にヒルのように貼りついて、
キュウキュウという生々しい音を立てて、十四歳の血潮を吸い取ってゆくのだった。

ひとしきり恵の血を吸い取ると、少年Aは牙を引き抜いてひと息ついた。
「美味い?」と、ぼくが訊くと、
「旨い」と即座にこたえた。
そして、ぼくのほうなど目も合わせようともせずに、
すねの半ばまでくしゃくしゃにずり降ろしたハイソックスを、
こんどは丁寧にひざ小僧の下まで引き伸ばした。
咬み痕に、かすかに紅いシミが滲んだ。
Aはちゅるり、と、舌なめずりをすると、
そのシミを目印にするかのように、もういちど恵のふくらはぎに食いついた。
同じ年恰好の子どもが、トウモロコシにかぶりつくように、無造作に。

恵は思わず脛を引きつらせた。
けれどもAは許さなかった。
彼女の太ももを抑えつけると、なおも縫いつけるようにして、牙を埋めた。
ちゅううう・・・っ
忍びやかな吸血の音に、恵の抵抗が熄(や)んだ。

もう片方の脚にも、同じ“儀式”が執り行われた。
重ね履きをしたハイソックスを丁寧にずり降ろし、
ストッキングに透けるふくらはぎに唇を近寄せる。
吸いつけられた唇の下、淡い墨色のストッキングはぱりぱりと頼りなげに破れ、
その破れを面白がるように、Aはなおも恵の脚に喰らいつく。
ヒルのように吸いつけられた唇のすき間からは、キュウキュウという生々しい吸血の音。
恵はその音が上がるたび、
発育の良い十四歳の身体をくねらせ、悶えさせる。
みるかげもなくなるほどにストッキング破りを愉しんでしまうと、
すねの半ばまでくしゃくしゃにずり降ろしたハイソックスを、
丁寧にひざ小僧の下まで引き伸ばした。
まっしろなハイソックスに赤いシミがかすかに滲むと、
にやりと冷やかな笑みを泛べて、そのシミのうえへと唇を重ねる。
始めは咬まずに、しっかりとしたナイロン生地の舌触りを愉しむように、
なんども舌でいたぶってゆく。
太めのリブがしなやかに流れるハイソックスに唾液が沁みつけられてゆくのを見ていると、
まるでぼくもいっしょに侮辱されているような感覚が、
マゾヒスティックな歓びとなって、
ぼくの胸の奥をどす黒く蝕んでゆく。
やがてかれが我慢できずに咬みつくと、
白いハイソックスに真っ赤なシミが、じわじわ、じわじわと、拡がってゆく・・・
しっかりした性格の恵の理性さえ、侵蝕してしまうのが。
ハイソックスに拡がるシミの妖しさが、そう告げていた。

帰る道々、ぼくは恵の足許が気になってしょうがなかった。
だって彼女は、ハイソックスの重ね履きをそのまま続けていたから。
真っ白なハイソックスは、紫のラインを塗り込めるように、赤黒いシミで汚れていた。
汚された彼女を伴って歩くぼくのことを、
すれ違う街の人たちは、なにが起きたのかを察しているらしい。
からかわれているような気がする。
同情されているような気がする。
いけない男子ねぇ、と、咎められているような気がする。
いすかない男の子だねぇ、と、薄笑いされているような気がする。
じつはぼくも経験あるんだよ、という顔をして通り過ぎていく人がいる。
まるで宙を歩いているような、おぼつかない足取りになっていた。
初めて恵と2人きりで歩いた時と、同じような気分だった。

ぼくはいった。
「今度から、レッグウォーマー持って来いよ」
「レッグウォーマーは関心ないんだよね」
恵は屈託無げにこたえた。
張りのある声色に、喪われた血の量が深刻なものではないことを知り、
ぼくはちょっとだけ、安堵した。
「でもいいよ、あたしも血の着いたハイソックス履いて、アヤくんと歩く」
気がついたら、ぼくの足許も、吸い取られた血潮に濡れたままだった。
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