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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

喪服の女。

2021年03月21日(Sun) 08:57:19

雨の日だった。
クリーニング店の軒先をくぐると、おかみさんがいつものように不景気な顔つきで、カウンターの前所在無げに佇んでいた。
志摩子の姿に気づくと「あら、いらっしゃい」と、急に愛想笑いを浮かべ「クリーニングですね」と、言わずもがなの問いを発した。
おずおずと差し出された風呂包みを丁寧にほどくと、きちんと折りたたまれた喪服が一式、行儀よくうずくまっている。
洗濯もののかごに放り込む前に、喪服にシミや汚れがないかを申し訳のように点検すると、
スカートの裏地に薄ら白いシミが拡がっているのが見て取れた。
おかみさんは、志摩子の顔をふと盗み見た。
志摩子はそれに敏感に気がついて、さりげなく目を逸らす。
おかみさんは何もみなかったような顔をして、染み抜き300円追加になりますが、とだけ、言った。

代わりに受け取った洗濯物も、喪服だった。
こちらは、夫を弔うときに着ていたものだった。
クリーニングに出した方は、そのあとに新調したもの――いまつき合っている男の趣味だった。

貞操堅固な未亡人でいるつもりだった。
けれども、状況がそれを許さなかった。
娘夫婦に吸血鬼がとりついたのだ。
不覚にも娘はあっという間に血を吸い取られ、あまつさえ吸血鬼の愛人にされてしまっていた。
まだ、子供のできる前の身体だった。
志摩子未亡人は、身代わりを申し出た。
それでは婿があまりにもかわいそうだからと。
吸血鬼は、意外にも情のある男だった。
血液さえ確保できれば、相手は若妻でなくても良い、と考えていた。
私は未亡人ですから、どこにも迷惑は掛からない――志摩子はそういって、娘の身代わりを引き受けた。
間もなく、娘の夫は転勤になって、この土地を離れた。
どちらにしてもよかったのだ――と、志摩子はおもった。

いつも情事を行うのは、床の間のある部屋だった。
男は、仏間での交接を望んだ。
人妻をものにするとき、夫に見せつけたがるという、よろしくない趣味をもっていたのだ。
もっとも夫の苦痛を軽減するために、まず夫の血を吸ってたぶらかしてしまうことも忘れなかったのだが。
志摩子は未亡人だったから、そんな気遣いさえも、無用だった。

その夜の床の間には、盆栽がしつらえられていた。
夫が生前、丹精していたものだった。
その前は、蔵書だった。
そのまたまえは――やはり夫が自分自身とおなじくらい大事にしていたものだったはずである。

自分は人妻なのだと片時も忘れたくなかったのだ。
つい夢中になってしまいそうな自分が、怖かった。

その夜も、吸血鬼はひっそりと、忍んできた。
未亡人は、黒一色の喪服姿に身を包んでいた。
男が喪服を好んでいたとは、襲われた後に知ったことだった。
自分自身の喪に服する気持ちで、初めての逢瀬で喪服を身につけて行ったのは、誤算だったのだ。
今は、そうと知りながら、かれの好みに合わせて喪服を装っている。
男は、薄黒いストッキングに包まれたつま先を、チロチロと舐めた。
情事の始まる合図だった。

その晩、未亡人はいつにない昂奮を覚えた。
もうがまんできないと、はっきりと悟った。
そして、吸血鬼に告げていた。
わたくしを、貴男の愛人のひとりにお加え下さいと。
吸血鬼はいった。
とっくに加えておる――と。
二人は初めて、心からの接吻を交し合った。

息子夫婦が、再び転勤になって、街に戻ってくるという。
子どもを作るのはもう少し待つから、お義母さんにこれ以上負担をかけたくないというのだ。
新妻がどういうあしらいを受けているのかを薄々察しているくせに、寛容な婿だと思った。
母娘で愛人になりましょう――志摩子はそう返事を書き送っていた。
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コメント

喪服を抱く男、喪服で抱かれる女(女装子を含む)、誰もが喪服姿での情事に興奮を隠せない。
喪服には、不思議な魅力、魅惑、誘惑がありますね。
by ゆい
URL
2021-03-22 月 13:18:39
編集
ゆいさん
喪服と制服には、共通点があります。
本来の用途とは裏腹なものをそそってしまうこと。
本来の用途が真面目な意図だから、かえってそうなるともいえるかもしれませんが。。
by 柏木
URL
2021-03-25 木 18:57:15
編集

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