淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・
レトロな喫茶店の女・続
2021年03月29日(Mon) 08:05:35
薄い薄い黒のストッキングのつま先を、
おっかなびっくりたぐり寄せて、
自分のつま先に合わせると、
慎重にゆっくりと、上へ上へと引き伸ばしてゆく。
ストッキングの片脚を太ももの高さまでひきあげると、
もう片方の脚にも、同じように通してゆく。
襟足だけが白い黒一色のブラウスに、
真っ白なエプロン付きのミニスカート姿。
仕上げに紅をすこし濃いめに刷いて鏡に向かい、
すこしだけ出し惜しみに微笑んで見せる。
なん度か表情を変えてみてから、やっと得心がいったらしく、
よし!と心のなかで気合を籠めて、店に通じるドアを開いた。
「よっ、待ってました」
二、三人いるお客はそれぞれ、すでに淹れられたコーヒーを片手に、
ウェイトレスのご入来を待ちかねていたらしい。
こちらにいっせいに視線を向けると、ちいさく拍手せんばかりにして、
ミニスカートの下の美脚に、視線を集中させた。
「捨てがたいねぇ、ミスター・華子」
とっさの揶揄にウェイトレス姿が固まると、べつの客が助け舟を出した。
「よせやい、華子姐ぇの留守中に、一生けんめいやってくれているんだから」
そう、きょうのウェイトレスは、マスター自らが、勤めていた。
「ミスター・華子でいいですよ、良い呼び名だと思います」
穏やかでクールなマスターは、ウェイトレスの身なりのままカウンターの中に立ち、
追加のコーヒーを淹れはじめる。
慣れた作業をしていると、身なりのことは忘れるらしい。
黒のストッキングに包まれた、男にしてはきれいな脚を、
惜しげもなくお客たちの眼の前にさらけ出していた。
店の出入り口のドアが開き、華子が戻ってきた。
「いらっしゃいませ~」
お客たちに通りいっぺんの挨拶を投げると、華子はつかつかとマスターのほうに歩み寄って、
「代わろうか?」
といった。
マスターは、
「いや、このままでいいよ」
とむぞうさに言って、淹れたてのコーヒーを
「皆さんにサービス」
と、妻に引き継いだ。
「あ、クリーニング店の善八郎ですが」
かかってきた電話をとると、受話器の向こうから聞き慣れた声がした。
「さっきは奥さんを、どうも」
「いえいえ、こちらこそ」
マスターはよどみなく応える。
じつは内心は、ドキドキである。
何しろ相手は、さっきまで妻を犯していた男なのだから。
けれどもマスターは、生来の血なのだろう、どこまでもクールで穏やかだった。
むしろ善八郎氏のほうが決まり悪げにもじもじしているので、
マスターのほうが、落ち着きを取り戻して、にんまりとしてしまった。
どちらが妻を犯されているのか、わかったものではない。
喫茶店”昭和”は、午後六時が閉店である。
マスターの妻兼ウェイトレスの華子は、きょうも「準備中」の札を玄関に出した。
「もうじき来るわね」
「そうだね」
「血を吸われるの、怖くない?」
「きみと同じ経験がしたいんだ」
亭主の応えに満足した華子は、ウフフ、と、笑った。
閉店後の店内に現れたのは、善八郎氏と、その妻の情夫だった。
吸血鬼は自分の正体を隠して、なん度かこの店の客になっている。
客の顔を覚えることに長けていた華子は、吸血鬼の顔を見ると「あら」といった。
電話をかけてきた善八郎氏の言い草は、こうだった。
――お宅のお店の風情が気に入った。それで、その、なんというか、
失礼でなければ、お店のなかで奥さんを頂戴したいんですが・・・
おかしいわね、クリーニングのだんなはうちに来たことないんじゃない?
情交帰りの妻に指摘され、マスターもそれはそうだと思った。
小さな謎は、吸血鬼の来訪とともに、すぐに解けた。
喫茶店の風情を気に入ったのは、吸血鬼のほうだったのだ。
はぁ、はぁ・・・
ふぅ、ふぅ・・・
テーブルが取り払われた向かい合わせのソファに一人ずつ、
二人のウェイトレスは、ミニのスカートをたくし上げられた格好で、
招かざる客たちに、押し倒されていた。
マスターの穿いているミニスカートから伸びた黒ストッキングの脚に目を留めた吸血鬼が、
「わしはこちらのご婦人がよい」
と告げた。
「ご婦人」といわれて、マスターも悪い気はしなかった。
この吸血鬼が、善八郎氏とぐるになって、妻を代わる代わる犯していると知りながら、
すべてを許す気になってしまっていた。
「すべてを許す」証しが、そのあとの情交だった。
吸血鬼の剛(かた)い一物を股間に突き込まれながら、
マスターは、妻が堕ちたのは無理もない、と思い、
傍らの妻が夫婦の営み以上に萌えている姿を横目にしながら、
自らもまた、昂奮のるつぼに堕ちていった。
――お話に登場する人物、店舗は、実在のものとは関係ありません。念のため――
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