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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

強いられて 染められて ~吸血鬼の愛人となった妻~

2021年07月03日(Sat) 11:11:32

「清川くん、ちょっと」
上司に呼ばれて別室に招かれたわたしは、とうとうきたな、と思った。
当地に転勤してきて、一週間たっていた。
オーナー社長の出身地であるこの街は、吸血鬼に支配されていて、
過疎化の進む故郷に棲む彼らに若い血液を提供するために、
社員とその家族たちが、次々とこの任地に送り込まれていた。

席に着くと上司は言った。
「きみの奥さんを見て、気に入ったという人がいるんだが」
否やはなかった。
妻の貴美恵は36歳、まだ子どものいない夫婦だった。

言いにくそうにしている上司の言わんとしていることは、すぐにわかった。
わたしの役目は、貴美恵をその人に引き合わせ、献血させること。
そして、既婚女性を相手に行われる献血には、ほとんど例外なく性行為を交えるのだ。

お相手のお邸は、何丁目のはずれの大きな洋館、きみの家からはちょっと離れているね。
きみ、車を持ってきているね。送り迎えをしてあげるといい。
わたしが上司から仰せつかったのは、強制的に不倫させられる妻の、送り迎えだった。

上司はさらに言いにくそうに、つけ加える。
「お相手の男性は、うちに勤務する社員の奥さんや娘さんを、なん人もモノにしている。
 私の家内も――彼の愛人のひとりに加えられていてね。
 きみの奥さんのことを家内に話したら、
 “若いひとがライバルになるのは、おだやかじゃないわ”と、笑っていたよ」

部屋から出ると、事務所の面々のそれとない視線を感じる。
だれもが、部屋の中でなにが話し合われたのかを、感づいているのだろう。
そしてだれもが例外なく、妻や娘をこの街の吸血鬼の餌食に供している。
わたしも彼らの、仲間になるのだ――


帰宅するとわたしは、明日の夜車で出かけることを、事務的な口調で妻に伝えた。
いつもよりおめかしをして、ストッキングを穿いていくように――
さりげない言葉を口にするときに、ふと声が震えた。
ストッキングを穿いた脚に咬みつくのが、彼らの好みだった。

「わかりました。そのひとのところに行って、献血して来れば良いんですね」
妻は、感情を消した顔をして、必要なことだけをこたえた。
献血だけではすまないことをお互いに知りながら、ついにその話題は口にされなかった。
「あーあ、もう三十半ばだし、おいしくないって言われたら悲しいわね」
妻はわざと人ごとのように、のんびりと呟いた。
おいしいかどうか――もちろん、血液の味だけの意味ではないのを、
わたしは聞き逃さなかった。


夜。
勤務を終えたわたしは早めに帰宅して、妻を車に乗せて街はずれの邸へと向かった。
勤め帰りを迎えた妻は、よそ行きのスーツ姿。
いつもより濃いめの化粧が、彼女の決意を感じさせた。
薄茶色のストッキングは、きっと真新しいものなのだろう。
ツヤツヤと微かに輝いて、妻の足許を艶めかしく染めていた。
門の前に車を停めると、妻は助手席から降りてわたしに一礼した。
これから夫を裏切ることを、謝罪するようにみえた。

細い指がインターホンを押すと、その音に応じて邸の主が姿をみせた。
上司よりも年配の、冴えない感じの男だった。
妻の相手がわたしたちよりもはるかに年上であることと、
風采のあがらない男であることに、なぜか少しだけ安堵した。

彼は妻の傍らに寄り添うと、慇懃にお辞儀をしてきた。
わたしもお辞儀を返していた。
吸血鬼に促されるままにドアの向こうに姿を消す直前、
妻はこちらをふり返り、もう一度わたしに向かってお辞儀をした。
深々としたお辞儀はどことなくよそよそしくて、
悪い予感を振り払うのに、かなりの苦労を伴った。

いまごろ妻は、リビングに招き入れられているのか。
いまごろ妻は、名前を名乗りよろしくお願いしますとでも受け答えしているのか。
いまごろ妻は、相手に背中を見せて、目を瞑っているのか。
いまごろ妻は、化粧を刷いた顔をしかめながら、首すじを咬まれているのか。
いまごろ妻は・・・
想像するのはよそうと想いながらも、
わたしは家に車を向けることもできず、
邸の正面の空き地に車を停めたまま、車外に出る勇気さえ持てずにいた。
あたりはすっかり、暗くなっていた。
結婚記念日に買ったあのまっ白なブラウスは、
抱きすくめられた猿臂のなかで、持ち主の血しおに染まってしまっただろうか。
妻が脚に通していた、あの薄茶色のストッキングは、
じゅうたんの上に転(まろ)ばされたふくらはぎから、咬み破られてしまっただろうか。

30分ほど車を停めていると、携帯が鳴った。
声の主は妻だった。
「献血、無事にすんだわ。あのかた、あなたに帰るように言ってる。
 私、ひと晩泊っていくことにしたから」
つとめて平静さをつくろった声色だった。
「だいじょうぶなのか?」
思わず投げた言葉に、「私は大丈夫」と妻は応えると、「早く帰って」とくり返した。
「ひと晩泊っていくことにした」という表現に、妻の意思を感じた。
その場で蹂躙され、夫とともに帰宅するのではなく、
もっと長い刻を相手と過ごすことを、妻は“女”として選んだのだ。
遠ざかるエンジン音を聞きながら、
きっと妻は、スカートをたくし上げられていくのだろう。
無人のわが家に戻ったとき。
ちょうどいまごろ、妻の貞操が蕩かされているのだと直感した。

想像のなかの妻は、歯を食いしばって男にしがみつき、夢中で腰を振っていた。
歯がみをしているのは屈辱のためではなくて随喜をこらえているのだ――
そう感じても、なぜかこみ上げてきたのは、怒りや虚しさではなかった。
不思議なことに。
わたしは想像のなかで、ひたすらがんばれと、妻を励ましつづけていた。

妻の生還を祈る気持ちでそうなったのか。
きっとそれもあるだろう。
生存に必要な血液まで引き抜かれてしまわないように、
わたしのいないところでも、なんとか身を守ってほしいと願っていたはず。
けれどもそのいっぽうで、妻が気にしていたように、
「若くないし、おいしくないって言われたら悲しい」
という想いも、心の片隅に泛んでいた。
そのためには、妻の血は吸血鬼を愉しませ、たっぷりと吸い取られなければならなかった。
つかの間の栄養摂取で終わってしまうのは、夫としても悲しいと思った。
男には、妻の血で悦んでもらいたかった。

妻が犯されることは、夫としては耐え難いはずなのに。
そのいっぽうで――
せっかく捧げた妻の貞操を、男が重宝してくれないのは無念だとも思った。
むぞうさな性欲処理で終わってしまうのは、夫としても悲しいと思った。
妻の女ぶりに魅了されてほしいと、心のどこかで願っていた。


長い長い夜だった。
こんな夜でも、独りで寝ていても、まどろむことができたのか。
わたしは車のエンジン音で目ざめた。
玄関に出ると、ちょうど妻が車の助手席から降りてくるところだった。
妻は、少し蒼ざめていたけれど、ふだん通りの妻だった。
向こうで化粧を直したのか、夕べのように濃いめの化粧を刷いていた。
そして、ストッキングを穿いていなかった。

運転席には、あの男がいた。
わたしにはわざとのように声もかけずに、妻がわたしの傍らに立つのを見届けると、
ふたたびエンジン音を轟かせて、走り去っていった。


「あの、これを・・・」
勤めに出るまぎわ、妻がわたしを呼び止めて、
細い指でつまむようにして、小さな紙包みを突きつけた。
「これを、あのかたにお渡しして」
きまり悪そうに視線を下げて、押しつけるように紙包みを差し出してくる。
脱がされたストッキングを相手の男性に与える行為は、
求愛を受け容れるという無言の証し。
上司からきいたとおりの作法を妻が見せたことに、わたしは息をのんでいた。
わたしはちょっとためらったけれど、妻からその紙包みを受け取った。
妻から託されたものを受け取る行為は、
妻の不倫を許し情婦として差し出すという、無言の意思表示。
「すみません」
と、頭をさげる妻に、
「いいんだよ」
と、こたえるわたし。
この街に入ると決めたときに、こうなることはわかっていた。
わたしにできる唯一のことは、この街の住人として、誠実に振る舞うことだけだった。


出社したわたしは、タイムカードを押すと社を出た。
夕べの邸を訪れると、邸の主はわたしを家にあげてくれた。
思ったよりも広く、こぎれいなリビングだった。
この部屋で、“儀式”は執り行われたはず。
まっ赤なじゅうたんは、妻の血を吸ったのだろうか。
じゅうたんに点々と散った白い斑点は、妻を汚した精液のなごりだろうか。
わたしは男に無言で、妻から託された紙包みを手渡し、
男も生真面目な顔つきをして、それを受け取った。
そしてむぞうさに包みを破ると、中身を取り出した。
細長い薄絹が、蛇のようにおどろおどろしく、姿を見せた。
男はそれに軽く頬ずりをして、大きく裂けたあたりに口づけをした。
まるで妻自身にそうするように、熱烈に。
「家内の血はお気に召しましたか」
「おおいに気に入りました」
男はいった。
「まんまとやられてしまったようですね」
「あなたのおかげでもあります」
「え」
「車で、連れてきてくださったではありませんか」
そう、妻に強制的に不倫をさせることに、わたしはたしかに片棒を担いでいた。
「今夜は、ご自身の脚で歩いて見えられますよ」
「え」
「私がお招きしたのです」
男はひどく、手回しが良かった。

インターホンが鳴り、男が席を起って、それに応じた。
ドアを開けて、伴ない招き入れたのは、まぎれもなく妻だった。
濃いめに化粧を刷いた妻が、ちょっと驚いた顔をした。
はち合わせになるとは、思っていなかったのだろう。
わたしの勤務中に、妻は不倫を遂げにここに来たのか。
妻は夕べと同じように、真新しいストッキングを脚に通していた。

わたしは、物分かりの良い夫になるしかなかった。
「今夜も家内を泊めてもらえますか」
とわたしが問うと、
「ご主人さえご迷惑でなければ、ぜひそうしたい」
と、男。
「ぜひ泊めていただきなさい」
とわたしが促すと、
「そうさせていただきますわ」
と、妻。
「おめでとう」
と言い残して立ち去ろうとしたわたしは、ふたりに呼び止められた。
そして、強制不倫が婚外恋愛にすり替わったことを、ひと晩かけて見せつけられた。
夫婦で吸血鬼の邸に泊った夜。
妻は美々しく装った盛装を惜しげもなく剥ぎ取らせ、
二足目のストッキングを、わたしの前で脱がされていった。


あとがき
自分の妻を狙う吸血鬼が、先に上司の奥さんを陥落させちゃったり。
妻の血を吸わせ抱かせるために、送り迎えをさせられちゃったり。
それでも妻が気に入られるように、願っちゃったり。
初めて抱かれたときに穿いていたストッキングを託されちゃったり。
それを妻を抱いた男に、届けちゃったり。
夫のほうが、主人公になっていますね。いつものことながら。(笑)
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コメント

だって
この夜
彼も奥様の目の前で・・・なのでしょう?
それとも、それは翌日の晩のことなのかしら。

「おめでとう」
by 加納祥子
URL
2021-07-04 日 13:35:01
編集
祥子さま♪
最愛の妻を、自分以外の男性の愛人として捧げる行為には、特別な感情が秘められていると感じます。
このお話を読んで祥子さまがそうとお感じになったとするのなら。
夫と情夫との間にはたぶん、そうした関係が結ばれたのだと思います。
描いた本人が、気づきませんでした。(笑)
by 柏木
URL
2021-07-06 火 08:01:23
編集

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