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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

法事のあと。

2021年07月13日(Tue) 06:48:37

華恵の一周忌は、存外盛大だった。
ふつうなら親戚くらいしか集まらないものが、職場の者まで大勢参列したのは、華恵の人気によるものだろう。
同時に、白藤がいまの華恵のポジションで、うまくやっていることの証しでもあった。
男性社員がОLになって、妻のポジションで働く。
そんなことを可能にするのに、どれほどの実行力が要ったものか、
俺は白藤の成功に満足しながらも、やつの手腕を改めて見直す思いだった。

華恵と白藤の会社は俺の取引先で、かねていろんな”腐れ縁”があった。
参列した社員のなかにも、過去に引っかけた人妻の夫がなん人もいた。
わけても部長夫人などは、いまでも旦那公認の付き合いがあった。
そんな彼女たちが、細い脚太い脚に、濃い薄い黒のストッキングをまとって大勢現れたのは、なかなかの眺めだった。

白藤は女の喪服姿で、甲斐甲斐しく立ち居振る舞いをしていた。
レディススーツを着こなした白藤を見慣れていた勤め先の人たちと違って、
親戚の人々はいささか困惑気味だった。
けれども、心無い言葉を吐くものがだれもいなかったのは、家柄なのか白藤の人柄だったのか。
わけても白藤の齢の離れた妹は、俺の目を惹いた。
「妹は結婚を控えているんです。それでよければ、今度紹介しますね」
忙しい立ち居振る舞いの間に、白藤はそんなことまで耳打ちしてきた。
結婚を控えたおぼこ娘を導いてやるのも悪くない、と、ふと思い、ほくそ笑んでしまった。

弔問客が去ると、寺には静寂が残った。
白藤ゆかりのこの寺は、小ぢんまりとしていて、かつ静かだった。
ふだんでも、来て良いと思うほどだった。
「こんどゆっくり、お邪魔しましょうね」
まるで妻のように傍らに寄り添う白藤の手首を、俺は思わず握っていた。
「ここでは・・・ちょっと・・・」
困惑する白藤の首すじに唇を当てながら、畳のうえに押し倒していって、
妻を弔うために脚に通した薄墨色のストッキングを、ゆっくりと、脱がせていった。

妬きもちを焼かれたくなかったので、ことを遂げたのは、華恵の位牌の置いてある隣の部屋だった。
「ぼくが先に逝っていたら・・・って、結婚してすぐのころから思っていました」
白藤が言った。
「そうしたら華恵のやつ、一周忌まで待たなかっただろうな」
「そうですね、きっとお通夜の夜に、ヤっちゃっていたでしょうね」
俺と白藤は、声をあげて笑った。
「でもそのときにはね、ぼくならぼくの前でして欲しいと思ってました。
 仲間外れは、寂しいですから――
 華恵さんとの違いは、しいて言えばそこかも知れないですね」
白藤の見せる白い歯をふさぐように、俺はもういちど彼に口づけをする。
まるで新婚妻のように口づけを返しながら、白藤はいった。
「お掃除しなくちゃいけませんね」
そういって甲斐甲斐しく、俺が噴きこぼしたまだ生温かい粘液を、手近な布巾で拭ってゆく。
「家でもよく、していたんですよ。
 華恵さんはお転婆でしたから、わたしの留守中よく貴男のことを家にあげましたよね」
「ばれたか」
「そのあとの後始末は、わたしがしていたんです。華恵さんお掃除苦手だったから」

妻の情事のあとを、お転婆のひと言で片づけて、あと始末をする亭主。
そのマゾヒスティックな歓びが、なんとなくわかるような気がする。
俺なら絶対にゴメンだが。
そんな甲斐甲斐しい白藤の漆黒のスカートの裏側に、俺の粘液が粘りついていることを、
俺はやっぱり自慢に思ってしまうのだった。
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