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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

理穂さんのストッキング

2021年08月23日(Mon) 11:24:31

婚約者の理穂さんが、吸血鬼に襲われた。
出勤途中、路上で襲われて、したたかに生き血を吸い取られたのだ。
幸い、生命は取り留めたが、息をするのがやっとの程の貧血ぶりだった。
あとで聞いたところでは、当地の吸血鬼は、襲った女性を吸い殺すことはないのだという。
ということは、理穂さんが吸い取られた血液の量は、彼らにとってマックス――
それだけ、理穂さんの生き血が彼の気に入ったということらしかった。

見舞いに飛んでいくと、理穂さんは蒼ざめた顔に精いっぱいの笑みを泛べて、ぼくの来訪をよろこんでくれた。
彼女の家に着くまえに、病院で薬をもらって帰る彼女の帰り道で出くわしたのだ。
ところがそれより少しあとに、当の吸血鬼が現れた。
理穂さんは縮みあがって、ぼくの後ろに隠れた。
迫ってくる吸血鬼に、ぼくはいった。
彼女を襲わないでください。貴男に血を吸われ過ぎて、疲れているのです。
吸血鬼はぼくと目線を合わせると、ちらと憐憫の色を泛べて、理穂さんを見た。
理穂さんは目線を合わせようともせずに、ひたすら怖れていた。
「迷惑をかけた」
男の当たり前のはずのひと言を、ぼくは茫然と受け止めていた。

「わたし、やっぱりあのひとに、血をあげようと思うの」
家に着いた理穂さんの口を突いて出た言葉は、意外なものだった。
「え?どういうこと!?」
喉渇いているんでしょう?だから、わたしの血で慰めてあげたい――
咬まれたときに注入された独で、理穂さんはすでにたぶらかされていたのだ。

彼女から託された紙包みを手に、理穂さんの家を辞去したのは、夕方のことだった。
「今朝穿いていたストッキング。あのひと、欲しがると思うの。
 もしも途中で遭ったら、あなたから渡してくれないかな」
理穂さんの履いていたというグレーのストッキングには、
ところどころ血が滲み、大きな裂け目を走らせていた。
胸を痛めながら、裂け目の数を勘定したが、数えきれないほどだった。
このぶんだけ、彼女は苦痛を覚えたのか。
ぼくの胸に生まれかけた怒りを、彼女は敏感に察して、すぐに打ち消した。
「きっとそれだけ、切羽詰まっていたのよ」

襲われた女性の身に着けていたものを相手の吸血鬼に与える行為は、
彼女と吸血鬼の交際を認めることを意味する――
けれどもぼくは、帰り道に出くわしたそいつに、おずおずと紙包みを手渡してしまっていた。
幾分かの昂りさえ、胸に秘めながら。
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