淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・
ホテルでの再会
2021年10月07日(Thu) 07:37:34
前作のつづきです。
山村の純朴な青年に彼女の純潔をプレゼントしたあと。
彼は親切にも一夜の宿を貸してくれて(もちろん彼女は、独り占めにされちゃったけど・・・)、
見せつけられてしまった昂奮で寝不足気味のぼくに、彼はいった。
きのうは、きみの彼女を狩らせてもらったけど。
こんどはぼくが彼女を狩りに、都会に行くよ。
楽しみに待ってる・・・と口走ってしまったぼくは、
自分の口走ってしまった言葉に、なんとなく納得してしまっていたし、
そんなぼくのことを嬉し気な上目遣いで振り向く彼女の視線が、たまらないほどくすぐったかった。
彼がぼくの目のまえで、彼女の連絡先を訊くのを、
ぼくはやっぱり、くすぐったそうに見守ってしまっていた。
そんな彼から不意の電話が来たのは、土曜の昼間のことだった。
「こんにちは、憶えてる?ぼくのこと」
「忘れるわけないよ。彼女の純潔を捧げたんだから」
とっさにそんなふうに受け答えするほど、ぼくたちは打ち解けてしまっていた。
彼とはあの山道が初対面だったはずなのに、
三人のなかではいつの間にか、ぼくが彼に、彼女の純潔をプレゼントするためにあの山道に迷い込んだ――ことになっていた。
そう、奪われたのではなくて、お願いして奪ってもらったのだ。
すべては、ぼくの意思から出たことで、ふたりはそれをきっかけに、仲良くなったんだ。
「彼女にデート断られただろ」
彼のことばは、とうとつだった。
「どうしてそんなこと、知ってるの?」
「だって、彼女は俺との先約があったんだもの」
都会に彼女を狩りに来る――
別れ際の約束をすぐ思い出したぼくは、「都会に来てるの?」と訊き返した。
「ウン、これから来るかい?」
いなやはなかった。
ぼくは彼の泊まるホテルへと、出かけていった。
一時間後。
ぼくは彼の部屋のクローゼットに閉じ込められて、ぐるぐる巻きに縛られていた。
山小屋のなかの空気は埃っぽかったけれど、お陽さまの匂いがした。
ここではお陽さまの匂いはしなかったけれど、空調に整えられた空気があった。
クローゼットの扉は細目に開かれていて、そのままベッドの様子がわかるようになっていた。
「こういう間取りの部屋、さがすのに苦労した」
彼は、都会に出てくるのは初めてだった。
それからすぐに、ぼくとのデートを理由も告げずに断った彼女が、
彼の部屋の入口に、人目を忍ぶような顔つきをして、佇んでいた。
よくデートのときに着てくる、こげ茶色のブラウスに、細かいプリーツの入った薄茶のロングスカート。
スカートのすそから控えめに覗くふくらはぎは、茶色がかったストッキングに透きとおっていた。
ストッキングの脚をしつこくいたぶる彼の好みを、ありありと思い出していた。
彼女は、彼の好みに合わせて装ったのだ。
セミロングの黒髪を揺らして部屋に入ってくる彼女を見て、
ぼくの血は被虐の悦びに湧きたった。
彼女はぼくにも告げずに、彼に逢いに来た。そう、ぼくを裏切る行為のために。
ためらいながらも彼の好みに合わせた服装をし、気に入りのハンドバッグを提げて、
秘密の待ち合わせ場所に歩みを進めてきた彼女—―。
それなのに。
ぼく自身が彼の立場で、躍り上がるほどの歓びを感じてしまったのはなぜだろう?
いちど抱いた女をそそのかし、婚約者を裏切らせて、
密会の場に現れた女を目にしたときの満足感。制服達成感。
彼の立場でありありと、彼の得意が伝わってくる。
それでもぼくは、彼がぼくの彼女をゲットしたことを、彼の立場で歓んでしまっている。
「よく来たね、彼氏にはなんて言ってきたの」
「・・・話してないから」
目を背けて口ごもる彼女にも、通りいっぺん以上のやましさはあるのだろう。
ぼくはといえば、傍らに置こうとするハンドバックを軽々と受け取って、鏡台のまえにきちんと置いた彼のことを、
意外に紳士的な奴だと感心してしまっていた。
「悪い子だね、こんどは彼に正直に話して逢いに来てね」
婚約者にむかって、これから浮気をしに出掛けてくる――そんなことを言わせようとする彼は、
素早く彼女の傍らに寄り添って、後ろから羽交い絞めにするようにして、彼女の方に腕をまわしている。
ぼくに覗かせながら傍若無人に振る舞う、わがもの顔なその態度に、ぼくのペ〇スはゾクッと鎌首をあげた。
「いい子だね、素敵な肌だ。透きとおるみたいに輝いていて・・・」
もっと見せて・・・と言いたげに、ブラウスの襟首に手をやる彼に、
彼女は目を瞑って、ブラウスの釦を好きにさせた。
胸もとから覗く黒のスリップが、彼女の覚悟を示していた。
――今夜は割り切って、娼婦に堕ちる。
きっと彼女は、そんなつもりで出かけてきたはず。
「首尾一貫しませんね」
悪い子といわれたすぐあとに良い子といわれたことを、彼女はちょっとだけ、根に持っている。
そして吹っ切るように、彼を見あげて、
「悪い子になりに、来ちゃいました」
澄んだ瞳が、いつも以上に魅惑的に、輝いていた。
彼は彼女をベッドに腰かけさせて、細いプリーツの入ったロングスカートを、そろそろとたくし上げてゆく。
ぼくも彼も見たかった、ストッキングに包まれた彼女の脚—―
薄地のナイロンは、かすかな光沢をよぎらせて妖艶に透きとおり、すらりとした彼女の脚をなまめかしく彩っている。
あっ、無作法な・・・
彼女はとっさに口を開こうとし、ぼくも声をあげそうになった。
透きとおる薄地のナイロン生地ごしに、飢えた唇がねっとりと吸いつけられたのだ。
「うふ・・・ふ・・・うふふふふっ・・・」
彼女の足許にくまなく唇を這わせてゆきながら、彼は満足げに、くすぐったそうな笑い声を時おり洩らす。
「すべっこい、すべっこいなぁ・・・」
山小屋のなか、藁まみれにされた彼女の足許に取りついて、
都会育ちの娘を押し倒していったときとおなじ呟きを、都会のホテルの一室で、ふたたび聞かされている。
じょじょに征服されてゆく彼女のことを、
クローゼットのなかで、ぼくは歯噛みし、嫉妬し、なおかつ昂りながら見届けてゆく。
彼女はぼくに告げずに、彼と密会の場を持っている。
その意味で、彼と彼女とは、共犯者。
彼女はぼくの存在を知らない。
その意味で、彼とぼくとは、共犯者。
二重の共犯関係が、ぼくたちをがんじがらめにしていた。
そして彼は、不倫のベッドのうえで、彼女に対する欲望を遂げてゆく――
片脚だけ脱がされたパンティストッキングがふしだらに弛み、ひざ小僧の下までずり降ろされているあの光景が、いまでも忘れられない。
あとがき
肝心のところを掻けよ・・・といわれそうですが、時間切れです・・・ーー;
密会の後の彼氏いわく、
スカートを脱がされて、パンティストッキングを半脱ぎにされた彼女は、
お尻の奥の奥までむさぼられてしまいました。
ブラウスだけはきちんと着けているのが、むしろいやらしく映りました。
かれはどこまでも、ぼくに見せつける演出を怠らずに、
ベッドのうえの彼女を夢中にさせて、
クローゼットのなかのぼくまで昂らせてしまったのです――と。
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