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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

母と継母

2005年12月27日(Tue) 07:52:34

机のうえにぽつんと置かれている、母の写真。
母はサクオが十四歳のときに、この世の人でなくなった。
血を吸い尽くされて、冥界に旅たった母が戻ってくるのはまだまだ先のことだと聞かされている。
父は母がいなくなった三年後、後妻をめとった。
母とはまるで似ていない、派手なタイプの女だと、サクオは思った。
洗練された服装も、おおぎょうな身振り手ぶりも、なにもかも気に食わなかった。
―――あんな女、血を吸ってしまおうか。
なんども、そう思った。
やめとこ。大事な牙が腐る。
そう呟いて溜飲をさげたことがいくたびか。
けれど、そうすることでなんだか自分がいっそうみじめになるような予感が心のどこかでしていたのもたしかだった。
継母はもちろん真人間で、彼が吸血鬼だということもまだ知らないでいる。

継母は決して、彼に冷たくはなかった。
むしろ、過干渉なくらいにかかわろうとしてくる。
それがかえって、疎ましかった。
若作りの服装も、ストレートのロングにした髪型も、
彼の気を惹こうとしているかのようにさえ思えることがあった。
いちど、継母の清楚な装いにゾクッとしたことがある。
とてもなよやかに頼りなく、しんなりとした色気を漂わせていたのだが。
つぎの瞬間、彼は激昂していた。
―――母さんの服を着るんじゃない!
それ以来、継母は母の服を箪笥の抽斗から取り出すことはしなくなった。
いまはもっぱら、サクオ自身が亡き母の箪笥をあさり、母の服を身に着けたりしているだけである。
それが彼にとって、日に日に面影を薄れさせてゆく母をしのぶためのささやかな慰めでもあったのだ。

「この人がお母さん?きれいなひとね」
ハッと顔をあげると、うしろに継母がいた。
身近に覚える息遣いが妙に女くさく、息が詰まるような気がする。
母の写真を見せたことは、ない。
だいじなものをあの女に見せることで、母さんまでが穢れるような気がするのだ。
だから今も、とても落ち着かない、いやな気分がした。
そんな彼の気持ちを読み取るように。
「ごめんなさい」
彼女はいつになく殊勝に、目線をおとしてゆく。
「イヤなんでしょう?貴方といっしょに、お母さんをしのんであげたかったのだけど。そんなのきっと、ご迷惑よね?」
継母は無言の肯定に背を向けかけたが、
「お父さんも、あのかたの写真、見せてくださらないの」
そう呟く声がひどく淋しげに響いてきた。

黒一色の衣裳。
そのなかで継母の白い肌がいっそうひきたって、ドキドキするほどぴいんとした緊張感さえ漂わせている。
父は継母と彼を床の間のある部屋に呼びつけて。
「うまくやるように」
意味不明なことばを口にすると、そそくさとその場を立ち去っていた。
父の去ったふすまの彼方をちょっとかえりみるようにすると。
「お父様に、貴方のために血を差し上げるよう言いつかってまいりました」
継母の声はいつになく、はりつめている。
かすかに震える肩が、怯えをみせていた。
それでも彼女はなにかを自分にいいきかせるように、
「どうぞ、ご存分になさってください」
気丈にもそのまま、畳のうえに身を横たえてゆく。
左の肩を上にして。
うなじを咬むのも、足首をイタズラするのも。
想いのままにできるポーズ。
その昔、中学に上がったばかりの彼のために、母がよく取ってくれた体位。
どうしてそれを彼女は知っているのだろう?

お嬢さんのようにすらりとしたふくらはぎの周りを、整然とはりつめた薄手の黒のストッキング。
母の履いていた地味なものとはちがって、薄っすらとつややかな光沢を帯びている。
昼とはいえ陽のささない部屋は薄暗く、てかりを淡く滲ませたナイロンはすこし淫らな趣きをたたえていた。
「失礼・・・・・・」
息を詰めて。喉を引きつらせて。
本能のおもむくままに、彼は継母の足許に牙をおろしてゆく。
ちゅうっ・・・
湧きあがるような、吸血の音。
初めての経験に心持ち身を固くして。
それでも継母は足許に刺し込まれたつねるような痛みに奥歯をかみしめながら。
サクオの熱っぽい振る舞いを反芻するようにして、じいっと耐えつづけている。

流れ込む血潮の熱さに酔い痴れて。
サクオはいつか、継母を横抱きに抱いていた。
さしむけられたうなじに深々と食いついて。
母があいてしてくれていたときそのままに、ちゅうちゅうと音をたてて血を吸い出してゆく。
「わたしの血、美味しいですか?」
いつもはうとましいだけの控えめな口調に強く頷きながら。
衣裳を破いたり汚したり。
子供っぽい悪戯心をあらわにする彼に、継母は心から協力的だった。
身をまろばすようにして、彼の吸いやすいように姿勢を変えつづける継母。
太ももに這わされた彼自身の熱い昂ぶりを知ると、口許に甘い苦笑を泛べながら。
すすんでそれをスカートのさらに奥へと導いてゆく。

―――こんど逢うときは、母さんの服を着てくれる?
おずおずと切り出した少年に、継母は優しく頷いていた。
あなたのお母様になり切って。どこまでなり切れるか分からないけど。
そういう継母に少年は、
―――いいんだよ。貴女は貴女のままで。
そう、囁き返していた。


あとがき
しょうしょうマザコンな少年です。
たいがい継母は悪役と相場がきまっているのですが。
父親も前妻の写真を見せていないそうですし、継母は父子の間になかなか入り込めずにいたようですね。
優しく接しようとしても過干渉とか、そういう受け止められ方をされてしまって。
秘密を共有するようになって初めて、めでたく家族として受け入れられたようです。
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