淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・
遠い昔の追憶
2022年01月09日(Sun) 20:41:27
なん年、なん十年昔の記憶だろうか。
白く乾いた路上を、セーラー服の冬服を着た女学生がひとり、こちらに向けて歩いてくる。
三つ編みのおさげを肩に揺らして、良家の子女らしい楚々とした足どりだ。
丈の長めな、ひざ下まである濃紺のプリーツスカートが、微かな広がりをみせて足どりに合わせて揺らぎ、
スカートのすそから覗く脛は、肌の蒼白く透ける薄黒のストッキングに包まれている。
そのころは、黒のストッキングは女学生のステータスだった。
そして、まだ稚なかった彼にとって、年上のお姉さんの足許に舌を這わせるのは、なによりも楽しいイタズラだった。
「お姉ちゃん、お帰り」
彼はわざとらしく神妙な顔を作って、彼女を迎えた。
三つ編みのお下げに挟まれたおとがいがほのかに笑んで、少女はイタズラっぽく白い歯をみせた。
「また、あたしの足許狙ってるのね?」
人間の少女にとって、いかに年下とはいえ、吸血鬼の少年は脅威のはずだった。
処女の生き血を吸い取られ、いいように弄ばれてしまいかねないのだから。
ところが彼女はそうした分け隔てなく、まるで姉弟のように彼と親しんだ。
そして、色気づいて彼女の履いている黒のストッキングをイタズラしたがる彼の前、
むき出された稚ない牙に、黒ストッキングの脚を圧しつけるようにして、惜しげもなく破らせていった。
年上のお姉さんの履いているストッキングを咬み剥いでいくのは、
色気というものをなんとなくわかりかけた少年にとって、冒瀆的な愉悦をもたらした。
誇り高く気高いナイロン生地は、ほんのちょっと触れただけで、パリパリと裂け目を拡げ、
白々と滲んだ素肌をいっそう、妖しく引きたてるのだった。
「やだ、またすぐ破っちゃうのね?」
少女は批難を籠めて彼を睨んだが、その目線に毒気はない。
「こんなこと、他の子に無理やりしちゃダメだよ」
とたしなめながらも、軽い貧血にぼうっとなりながら、見る影もなく破り取らせてしまうのだった。
若い女性が節操を重んじた時代だった。
彼女はやがて大人になり、近隣の街の開業医の跡継ぎのもとに、嫁いでいった。
齢の離れた彼女の妹がセーラー服を身に着けるようになったのが、ちょうど入れ違いだった。
「いけないお兄ちゃん、またあたしのストッキング破きたくて、待ち伏せしてたのね」
姉とよく似た言葉遣いと声色で、少女は白い頬を潔癖そうにこわばらせたけれど、
それでも健気にも黒のストッキングの脚を差し伸べて、
引っ掻くように圧しつけられる牙の好むまま、薄地のナイロンを引き破らせていった。
少女が脚に通すストッキングをなんダース台無しにしたことか、もはや記憶にない。
妹娘は街に残って、短大を出ると地元企業のOLになった。
その勤め帰りを、彼はしばしば待ち伏せをした。
就職した彼女の帰りは遅く、しばしば深夜になったけれど、
彼はそれをもいとわずに、獲物を待ちつづけた。
「まだいたの?だれも獲物にできなかったんだ~」
妹娘はパッドの入ったスーツの肩をそびやかし、自分を待ち伏せた吸血鬼をからかいながらも、
ショッキングピンクのスカートのすそから覗く、肌色のストッキングに包んだ脚を、むぞうさに差し伸べてゆく。
ほんの数年の違いだったが、その間に技術は進歩して、サポートタイプのストッキングが全盛を迎えていた。
カリカリと引っ掻く牙を通して伝わってくるナイロン生地の感覚が、目だって硬質なものになっていて、
淡い光沢をよぎらせたルックスともども、男を刺激的な想いへと駆り立てた。
「あっ、イヤだ・・・」
昂奮のあまり押し倒した彼女に馬乗りになって、首すじにがぶりと食いついてしまったとき。
うっかり、白いブラウスにバラ色のしずくを撥ねかしてしまっている。
「いけねぇ――」
吸血鬼は自分の撥ねかした血潮に、頓狂な声をあげた。
「ばかじゃないの?」
女はいった。
どちらが吸血鬼かわからないような不敵な目線が、押し倒された下から睨(ね)め上げてくる。
「あなた吸血鬼でしょ?血が怖くてどうすんの」
「怖いわけじゃない」
吸血鬼は弁解した。
「新調したばかりだろ、そのブラウス」
「新しく買えばいいわよ」
景気の良い時代だった。
勤めていくらも経たないOLでも、かなりの贅沢が許されていた。
「そういう問題じゃないだろう」
男はなおも言い募った。
どちらがブラウスを汚したのかも、もうよくわからない。
「いっそ、さぁ・・・」
女はいった。
「このままもっと、しちゃっても好いんだよ」
女は白い歯をみせて、笑った。
スカートに圧しつけられた股間が、びっくりするほどの勁さを帯びつつあるのを、女は敏感に感じ取っている。
「あたし、6月には結婚するんだ」
そうなのか?男は女を抑えつける手をゆるめた。
ではなおさら、そうはいかないだろう・・・
男がそう言おうとしたのを、女の掌が制した。
したたかに血を吸い取られた女の掌は、冷たかった。
その冷たさに男が言葉を失っていると、女はいった。
嫁ぎ先は、姉の弟のところなのだと。
弟は都会住まいの勤務医で、嫁いだらとうぶん、ここには戻れないという。
「しかし、嫁入り前の身で・・・」
男がいいかけると、女はいった。
「ばか律儀もほどほどにしなさいよ」
応える代わり、男は女のブラウスを、剥ぎ取っていた。
二人はどちらからともなく身体をからめ合い、ひとつになっていった――
――女がむぞうさに、処女を捨てる時代だった。
渇いた道はいつか舗装道路となり、周囲の邸はみなお二階をあげ、やがてマンションに建て替わっていった。
吸血鬼でも年老いるのか。
男はすでに、孫がいてもおかしくない齢だった。
その後人間の娘と恋愛し、両親の許しのうえで結婚した。
吸血鬼と人間との婚礼の席がどうなるか、両親ともに承知しながら。
一族同士の懇親を兼ねた華燭の典は、後半は淫らな絵図へとなだれ込んでいく。
新婦の母親の貞操は、吸血鬼の客たちのための、いちばんの引出物とされた。
参列した人間の身内の既婚婦人たちは例外なく、同じ憂き目を見た。
晴れ着を脱がされ、ストッキングを片脚だけ脱がされた格好で犯されてゆく妻たちを、
すでに妻の仇敵と意気投合してしまった夫たちは、うわべだけは制止しようとしながらも、いちぶしじゅうを昂りの目で見守っていた。
やがて歓びに目ざめた妻たちが、自分から腰を振って夫を裏切るようになるまでを。
その席には隣町の医者の兄弟も連なっていて、
その夜はかろうじて新郎に純潔を捧げ得た新妻の肉体も、新居を構えるそうそう、仲間うちで分かち合われた。
獣の兄弟が獲物を分け合うように、和気あいあいと、ピンクのスーツを剥ぎ取られていった。
街並みは現代的になったが、この街には吸血鬼が増え、人間と交わるものもまた、増えていた。
「おかえりなさい」
ふと投げられた声色は甘く、おだやかないたわりに満ちていた。
振り向くと、声の主がいた。
かつての姉妹がそろって、佇んでいた。
「あ――」
と声をあげかけると、
「しーっ」
とふたり、似通った顔を並べて、イタズラっぽく笑み返してくる。
進歩ないね、どこまでも律儀なんだから。
「あなたのために、取っておいたの」
二人はそれぞれの方角に、小手をかざしておいでおいでをした。
母親たちの手招きに従って現れたのは、いまどきのブレザー制服姿の少女たち。
「この子は姉さんの娘、今年中二になるの。こっちはうちの娘、中学にあがったばっかりなのよ」
それぞれ違う、都会仕立ての制服は、かつての女学生とは違ってスカートの丈も短めで、
色とりどりのチェック柄のプリーツスカートの下には、
姉の娘は濃紺のハイソックス、
妹の娘は黒のオーバーニー、
引き締まった脚のラインをびっちりと縁どる長靴下が、欲情に満ちた男の目を射た。
「この子たちは、街の子じゃないから。あなたが独り占めしていいんだからね」
「でも召し上がる順番は、齢の順にしてくださいね。この子たちにも、プライドあるから♡」
自慢の娘を差し出す姉妹は口々にそういって、ではごゆっくり、と、その場をはずしていった。
残された二人の少女ははにかみながらお互いを見つめあい、
姉の娘のほうが、「では私からお先に――」と、
紺のハイソックスの脚を差し伸べてくる。
いきさつはすべて、母親から言い含められているのだろう。
「大人の女にしちゃっても、かまわないのかね?」
吸血鬼の言い草に、「やだ・・・」と、羞ずかしそうに口を掌で覆いながら、
「ご自由に」といったのは、妹の娘のほうだった。
あのときの強気な白い頬を、男はもういちど、思い出していた。
あとがき
新春の一話は、ずいぶんと遅くなってしまいました。
でもまあ、少しは華やかなお話になったかどうか?
いや、相変わらず、歪んでおりますね・・・ 苦笑
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