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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

生き血を吸われる婚約者 (副題:花婿の実家、崩壊す)

2022年01月19日(Wed) 19:47:53

婚約者の喜美枝さんには、吸血鬼の彼氏がいる。
女学生のみぎりから血を吸われ初めて、彼らの好物である処女の生き血を提供し続けているという。
初体験は、小学校の卒業式の帰り道。
謝恩会帰りの晴れ姿を襲われて、真っ白なハイソックスを血に浸したのがさいしょだった。
服フェチな吸血鬼の嗜好に合わせて、いまは勤め帰りのスーツ姿を好んで襲わせているらしい。

じっさい、ぼくも視てしまった。

夜の公園の街灯の下。
ピンクのスーツ姿の喜美枝さんが、
吸血鬼と思しき男に立ったまま抱きすくめられ、首すじに唇を吸いつけられていた。
男の齢はわかりかねたが、白い首すじを這いまわる唇はヌメヌメといやらしく、
喜美枝さんは初々しい頬に薄っすらと羞じらいを過【よぎ】らせつつも、
ぴったりとあてがわれる男の唇を厭うふうもなく、喉を鳴らしてうら若い血潮を飲み味わわれてゆくのだった。

すき間のないほどに密なこのふたりのあいだに、ぼくが割り込む余地があるのだろうか?
少なからず意気沮喪したぼくは、仲人である叔父を訪ねてみた。

この街は、吸血鬼との親和を標榜している。
吸血奉仕条例なるものを発した当地では、市を中心に、彼らに提供可能な血液の供給を増やそうとする動きが活発化している。
市役所職員は、吸血鬼に望まれれば本人および家族を対象とした吸血行為を受け入れることを義務付けられていて、
すでに職員の半数近くが、何らかの形で自身の家庭に吸血鬼を迎え入れている。
ぼくの縁談も、その一環だった。
いかに喜美枝さんが清楚な美人でスタイルも良く、真面目で堅実な女性だとしても、
吸血鬼に魅入られた娘を嫁に迎えるなど、想像するだにおぞましいことではないか。

「大丈夫」
叔父は拍子抜けするほどあっさりと、ぼくの懸念を打ち消してくれた。
「先方は、喜美枝さんが人妻になることを望んでおいでなんだ」
これほどの娘が一生独り身とはあまりにも不憫。
婿を持たせて家庭をつくり、いずれは子供たちを導いて家族をあげての献血に励むことになるだろう・・・というのだった。
そうすると、ぼくの子供たちは皆、吸血鬼の餌食ということになるのですね?
ぼくは訊いた。
なんという輝かしい未来図だろうか。
「この街に残った以上仕方がないよ」
叔父はぼくを慰めるようにいった。
「うちの繁子叔母さんも奈々枝のやつも、毎週相手を変えて、吸血鬼と愉しんでるぜ」
叔父の慰めは、もはやなんの慰めになっていなかった。
従妹の奈々枝は17歳。
この縁談がなかったら、もしかするとぼくと結婚していたかもしれない娘だった。
それがいまは、学校帰りの制服をはだけられて乳房を吸われ、紺のハイソックスの脚を大きく拡げ、
好色な年配の吸血鬼を、娼婦のように迎え入れているという。
どのみち、ぼくの花嫁となるひとは、彼らに犯される運命にあるらしい。


お見合いの席には、地味なチャコールグレーのスーツで現れた喜美枝さん。
鮮やかな朱をはいたノーブルな薄い唇を開いて告げてきたのは、残酷な事実だった。
「すでにお聞き及びのことと存じますが、わたくしには吸血鬼のお相手がおりますの。
 十代の初めからそのかたに、処女の生き血を差し上げてまいりました。
 貴方との結婚を控える身になったとしても、それは続けるつもりでおります。
 女としての初めての経験も、そのかたにお許ししようと思います。
 つまり貴方はわたくしの夫でありながら、そのかたに花嫁の純潔を盗られ、
 新居のじゅうたんに新妻の不義の相手の精液を沁み込まされてしまうことにおなりです。
 お気の毒には存じますが、いまからそのお心積もりでいらしてくださいませ」

大丈夫・・・そう告げた叔父の横顔が思い浮かんだ。
でもこのひとは、夫を求めているのだ、と。
ぼくはこたえた。
「ご事情は承りました。そのかたは、貴女にとってとても大切な男性・・・と受け止めても宜しいのでしょうか?」
「エエ、あのかたに求められるのなら、先々夫となる貴方を裏切ることも、躊躇うことも厭うこともなくし遂げることと存じます」
目の前のひとは、気品のある目鼻だちに、微かな微笑みさえ浮かべ、
夫となるぼくのことをも、躊躇なく裏切るといった。
ぼくの心の奥底に眠るマゾの本能に火がついたのは、そのときだった。

ぼくはこたえた。
まるで自分ではないかのような、すらすらと流暢な言葉つきで。
「そのかたに、逢わせてください。
 貴女を伴侶とする以上、そのかたはぼくにとっても重要な存在になるはずです。
 ぼくの意思で、結婚を控えた婚約者と二人きりで逢わせて処女の生き血を愉しませたり、
 花嫁の純潔を捧げたり、夫婦のベッドも自由に使っていただくのですから、
 両親以上に尽くす相手となるはずです。
 できればいまから、良い関係を作りたいのです。・・・間違っていますか?」
彼女は婉然と微笑んだ。
「願ってもない、ご立派な態度だと存じます」


初対面のぼくに、彼は相好を崩し、ごく好意的に接してくれた。
ぼくよりも、ほんの少しだけ年上の感じの彼は、血を吸われて吸血鬼になったときに、齢の進行が止まったのだと教えてくれた。
彼女を吸血しているところを視てしまったと伝えると、それなら話が早いなと、喜美枝さんを見ていった。
そうね、と、喜美枝さんは応えると、
ぼくの隣からスッと立ち上がり、招き入れられたドアに閂【かんぬき】を下ろした。
花嫁を吸血鬼の自由にされる哀れな男の運命は、こうして定まった。
ぼくは喜美枝さんの目の前で、彼に一対一で襲われて、与えることができる生き血を、一滴余さず啜り採られた。

 仲良しのきみに、未来の花嫁を紹介するよ。
 そのまえに、からからに渇いたきみの喉を、ぼくの血で潤してあげよう。
 白いワイシャツを彼女のブラウスみたいに真っ赤に染めて、
 紳士用の薄い靴下を、彼女のストッキングみたいに咬み破かれて、
 抱きすくめる猿臂のしつようさに、きみの好意を感じながら、
 ぼくの刻を止めてくれ。
 ぼくの血を旨いと言ってくれたきみの好意に報いたいんだ・・・

体内をめぐる血液が刻一刻と喪われてゆくことに、妖しい充足感を覚えながら、ぼくは意識を途切らせていった。


両親と妹のいる実家に顔を出したのは、その約一週間後のことだった。
ぼくの顔色と、首すじに鮮やかにつけられた吸血の痕跡に、三人は色を失った。
さすがに父だけは、一家の長としてどう振る舞うべきかを、すぐに察した。
「後悔はしてないね?」
念を押すようにぼくに問い、
「ぼくの血は、このかたのお口に合ってしまったようです。
 なので、父さんの息子として恥ずかしくないよう振る舞いました。
 いまの境遇を与えてくれたことに、感謝しています。
 それから彼は、ぼくと同じ血を宿しているひとの生き血をお望みです」
ぼくがそうこたえると、納得したように笑った。

父は喜美枝さんにも問いを投げた。
「家内や娘は、見逃してもらえないのだろうね?」
喜美枝さんは美しい頬に冷然とした笑みをたたえて、
「お義父さま、それは難しい相談ですわ」
とこたえた。
切って捨てるような態度だった。
「・・・そのおつもりで、お揃いで見えられたということですな」
父はいった。
「このひと、自分がモノにした花嫁のお姑さまは、ご自分の所有物だと思ってますの。
 それに、お嫁入り前にわたくしを犯してしまうおつもりなので、代わりの処女を確保したがっておりますの。
 お宅であれば、そのどちらも叶えてくださりそうですわね」
「わたしも市役所の職員です。
 吸血鬼と懇親することがわたしどもの役割です。
 貴男を慶んで、わたくしの家庭にお迎えしましょう。
 当家でできる限りのおもてなしを致しましょう。」
母と妹の奈美は、顔を蒼白にしながら、父とぼくの花嫁とのやり取りを聞いていた。
「せめて奈美だけでも!」
母はそう言い募ろうとしたが、父がそれを制した。
「進一郎の血がお気に召したのだ。もはやだれも逃れられないよ」
父はぼくを見て、
「親子で女房を同じ男に獲られることになるとは思わなかったネ」
と笑い、
「支度をするので、すこし時間をください」と、自分の妻や娘を犯しに来た男に告げると、
「跡取りが亡くなったのだ。盛大に弔いをしよう。母さんは喪服。奈美は学校の制服に着替えてきなさい」
と、一家の長らしく促した。
いまはこれまでと、母がいつもの気丈さを取り戻して眉をあげると、
「では、当家の女たちの振る舞いを、とくと御覧くださいね」
と、家庭内に忌むべき吸血鬼を引き入れた嫁を、屹【キッ】と睨みすえるようにして、形ばかりほほ笑んだ。
「この方々は、ご婦人の黒のストッキングがお好みだ。
 母さんは肌の透ける薄いのを履くように。
 奈美は・・・紺色のハイソックスですが、お気に召しますかな?」
と、吸血鬼に声を投げていた。

突然切り出された献血の要請に驚きながらも、父の振る舞いは善意に満ちていて、
自分たち家族全員の血を吸いたがる訪問客を満足させようと心を砕いているようだった。
そんな父の応対を、ぼくは心から誇りに感じた。
これから吸血鬼に取り憑かれた嫁をもらうぼくに、どのように振る舞うべきかを訓えようとしてくれたのだろう。

女ふたりが正装に着替えて戻ってきたとき、父はすでに首すじに毒牙を埋められていた。
声を呑む母に、騒がずにいなさいとたしなめると、息子に続いてそのまま、働き盛りの血潮を一滴余さず吸い取られていった。
吸血鬼は少しのあいだ、絶息した父に掌をあわせて、敬意を表してくれた。

わたくしを先に・・・と娘を庇った母が、次に犠牲となった。
ぼくを弔うために身に着けた漆黒のブラウスを、首すじを咬まれて撥ねた血でびしょ濡れに濡らしながらも、
奥ゆかしい令夫人としての気丈さを失わずに、夫の仇敵を悦ばせるために、華奢な身体に脈打つ血潮を舐め尽くされてゆく。
まだ若さを宿した血潮を誇るように首すじを差し伸べて、漆黒の喪装に潔く、真紅のしぶきを散らしていった。
がっくりと倒れ臥す彼女がかたくなに引き結んだ薄い唇からは、ただ辱められるわけではない――という、女の意地が見てとれた。
「怖くはないから・・・ね」
奈美にひと言笑いかけると、あとは極度の失血に促されるまま自然の摂理に身を任せ、意識を遠のかせてしまった。

「大丈夫よ、女のひとは殺さないの」
喜美枝さんはひとり遺された奈美に弄ぶような視線を投げて、無同情に嗤った。
そして、思わず後じさりをする奈美の背後にまわり込むと、羽交い締めにしておとがいを仰のけさせた。
怯える妹の胸元に、吸血鬼は力を込めて食いつくと、容赦なく奈美の身体からも血をむしり取った。
ぼくは恐怖に震える奈美の手を握りしめて、大丈夫だから、と、慰めるように囁いた。
残りわずかとなった羽根田家の血をがつがつとむさぼる吸血鬼の頬には、
父の、母の、そして奈美の血潮がほとび散り、目も当てられない有り様・・・
それなのにぼくときたら、三人が三人ながら、羽根田家の血を気前よく供給したことに、心から満足を覚えていた。
羽根田家の血は、気に入ってもらえたのだ。
ごくりごくりと生々しく喉を鳴らす音さえもが、彼の満悦を伝えてくるようだった。

まな娘の惨状を知らずにうつ伏している母は、このあと黒のストッキングをチリチリに咬み破られながら再び吸血されて、
漆黒のスカートの奥を我が物顔にまさぐられ、
父のために守り抜いてきた貞節を、一時の劣情を紛らすためだけに辱しめられてしまうのだろう。

ぼくと同じ半吸血鬼に堕ちた父は、やがて息を吹き返して、
淫らな悦びを覚え込まされてしまった妻が、日ごろの淑やかさとは裏腹な淫欲の虜となって、
破れ堕ちた黒のストッキングをひざまで弛ませたまま嬉々として下品な交尾をくり返すのを、ただの男として堪能してしまうのだろう。

そして潔癖な奈美さえもが、濃紺のハイソックスに淫らな唾液を沁み込まされる恥辱になれてしまって、
もう片方の脚までもおずおずと差し伸べていってしまうのだろう。

ぼくにこの縁談をすすめた叔父は、
吸血鬼に気前よく首すじを許した見返りに家庭を崩壊させられて、そうされたことへの歓びに目ざめてしまい、
同じ歓びを兄の家庭にももたらそうとしたに違いない。

いまは喜美枝さんとの新居をかまえ、夫を裏切る新妻の痴態を覗き見してドキドキ、ズキズキと昂りながら、
家族ぐるみで供血できたことを嬉しく誇らしく想いながら、幸せな日常を過ごしている。
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