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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

怜悧な喪服。~「相姦」の罪。~

2022年01月31日(Mon) 22:25:42

妻の貞操を惜しげもなく与えてしまったあのお通夜の席で。
わたしは、隣町に嫁いでいった従姉の雅恵に出会っていた。
お久しぶりのひと言を、彼女の唇から省略させるくらい、
わたしのいでたちに、彼女の目線は吸いつけられていた。
幼なじみに従弟が、婦人もののブラックフォーマルに装った姿で現れるとは、思いもよらなかったのだろう。

びっくりしたわ。
そんな言いぐさには不似合いなほど、雅恵の口調は穏やかで、落ち着いていた。
もともとそういう女だった。
虫も殺さないような顔をしたああいう娘(こ)がね、男を刺すのよ。
母はそういって、忌まわしいものでも見るように、姪を睨んでいた。
どういうわけか昔から、母は雅恵を毛嫌いしていた。
でもわたしは、姉のように気品のある落ち着きをまとった従姉に、密かな憧れを抱いていた。

まさか、あなたにそんな本能があるとはね。
趣味、とはいわずに、本能、といったあたりに、彼女がわたしの女装に対する感情をこめているような気がした。
良い感じよ。似合ってるじゃない。
雅恵はどこまでも穏やかな顔つきと眼差しで、洋装のブラックフォーマルに装ったわたしを見た。
憧れの女性と肩を並べ、黒のストッキングに染まった脚を並べて和やかに語らう日が訪れるとは。
わたしを初めて咬んだ吸血鬼は、わたしをどこまでも、”女”として扱ってくれた。
なので、生き血を吸い取られたいまでも、彼のことを怨みには思っていない。
妻を襲われ、生き血を吸われ、犯されたことさえも。
最愛の妻を気に入ってくれたこと、彼女の生き血に酔い痴れてくれたことを、誇りにさえ感じていた。

雅恵が隣町に嫁いでいく直前。
彼女はわたしを呼び出して、告げた。
ほんとうは、貴男に初めて犯されたかった。結婚したかった。
けれどもね――それは現世ではかなわないことなの。
だって。
あたし、貴男のお父さまと母との間に生まれた子供なんだもの。
いっしょになれば、姉弟婚になる――なにかを怨むような目で、雅恵はわたしにそう告げていた。

彼女の母は、父の妹だった。
兄妹の契りで生まれたことを、雅恵はもうひとりの自分を見つめるような冷やかな言葉つきで、ひっそりと語った。
そのうえで、わたしを夫としたら・・・どれほどの相姦の罪を犯すのだろう。
そのころはまだ若く、汚れを識らない年頃だった・・・はずだ。
けれどもわたしはむしろ、雅恵との距離が近まったという、奇妙な錯覚にとらわれていた。

わたしはこたえた。
結婚できなくても――犯すことならできるさ。
渾身の力を籠めて押し倒されたピンクのスーツ姿は、抵抗を忘れたように、草むらの褥に淪(しず)んでいった・・・

ひとしきり嵐が過ぎ去ると。
わたしの下に組み敷かれた女は、他人ごとのように囁きかけてきた。
「姦(や)っちゃったわね」
結婚前の身を汚つ罪を犯した自分の罪ではなく、相姦の罪を犯したわたしのことをいっているのだと、すぐにわかった。
見あげてくる怜悧な目線が、わたしの心の焔を、いっそう掻き立てていた。
「遅くなるわ」
怜悧な女が再びつぶやいたときにはもう、夜中近くになっていた。
あのとき姉が脚に通していた白のストッキングを、
ぼくの精液と彼女の初めての血しおとで彩ったことは、いまでも後悔していない。
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告げ口をする喪服。~絡まり合う、相姦の糸。~
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