淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・
咬まれる喪服。~不倫の逢瀬の、忌むべき帰り道~
2022年01月31日(Mon) 22:49:17
雅恵は、通夜の席にひとりでやって来た。
夫は仕事の都合で、来れないという。
誘いかけられた――そう感じたわたしの感覚は異常だったかもしれないが、
それは、雅恵の思惑を外さないものだった。
女学校に通っていた雅恵のところに、遊びに出向いた時。
わたしはいつも、彼女の下向よりも少しだけ早く、雅恵の家を訪れていた。
まだ少年だと見なされていたわたしは、雅恵の部屋に自由に出入りすることができた。
そこでわたしは、雅恵のスカートを腰に着け、
いつも雅恵が学校に穿いていく黒のストッキングを脚に通して、
しばしいけない昂奮に耽るのだった。
ある日、わたしは雅恵の帰宅に気づかずに、雅恵の服を身に着けて、自ら戯れていた。
つい昂りすぎて、雅恵の気に入りのチェック柄のスカートに、白濁したしずくを滴り落としてしまったとき。
わたしは細目に開かれたドアのすき間から、怜悧な視線が静かに注がれていることを初めて自覚した。
冷や水を浴びせられたように慄(ぞっ)と身をこわばらせたわたしに、雅恵は「シッ!」と鋭い囁きを放って、
「声をあげたらだめ」とだけ、いった。
そしてスカートに落ちたしたたりを素早くぬぐい取ると、
「悪戯は良いけど、汚されるのは困るから」とみじかくいうと、
「いまからその恰好で、おうちに帰りなさい。その代り、その服はあんたにあげるから」
潔癖な批難と嫌悪を籠めた視線の代わりに、
事態を面白がっているような悪戯っぽい笑みが、彼女の控えめな目鼻立ちをよぎっていた。
「あれで懲りたと思ったんだけど」
さいしょの通夜の席で、雅恵はいった。
結婚を控えたあたしを押し倒すくらいだもの、そっちには絶対、いかないと思い込んでいた――と。
両刀使いかもしれないわよ。
わたしはわざと女言葉をつかって、雅恵の耳を囁きでくすぐった。
そのときにはきっと、雅恵はわたしに抱かれる気持ちになっていたに違いない。
なにも、親のこういう日を択ばなくたって。
咎めるわたしの囁きを、雅恵は軽く受け流した。
熟しかけた女の不純な手際の鮮やかさを、頼もしいと感じた。
これではまるで、百合の園だわ。
言い得て妙だった。
お互い婦人もののブラックフォーマルを着崩れさせていたし、
二着のスカートは見境なくしぶいた透明な粘液をほとばしらせて、
謹直な衣装の意図と正反対の、淫らな彩りに濡れていた。
時々逢いましょ。
雅恵の提案に、わたしは無言で肯いていた。
結婚しなければ、問題ないから――
なぜか女は寂しげに、ぽつりとつぶやいた。
情欲にやつれた蒼白い頬が、ひっそりと輝いていた。
着崩れた喪服を身に着けたまま、雅恵がふらふらと家の裏口から抜け出してゆくのを、
わたしは二階から見送っていた。
「ああッ!!」
だしぬけな叫び声が突如、雅恵の口を突いて出た。
あっ、とおもった。
あいつが。
妻を弥陀fらな情婦に塗り替えてしまったあの男が、
背後から忍び寄って、雅恵を咬んだのだ。
この街では、夜に女の酒ぎ声が聞こえても、だれも助けに行こうとしない。
なにが起こったのかを、察するからだ。
夫でさえも、行こうとしない。
妻に向けられた吸血鬼の恋情を受け容れさせられて、
長年連れ添った妻の肉体を、無償で提供させられてしまう。
それがこの街に残った夫たちの務めだから――
夫ならぬ愛人であるわたしが、雅恵と彼のためにするべきことはひとつだった。
首すじを咬まれ、喪服を血潮に濡らしながらうろたえよろめいてゆく雅恵が路上で犯されてゆくのを、
わたしは昂りながら、見届けてゆく。
かつて、自分の母親が、雅恵の父に迫られて、そうされていったときのように・・・
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