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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

濡れ堕ちる喪服たち。~交わり合う淫らな影絵~

2022年02月01日(Tue) 00:15:44

視られてしまった。

泊まっていくと雅恵がいったとき、いやな予感がした。
夫が娘を寝かしつけているとき、彼女は風呂上がりの身体にわざと喪服をまとって、わたしのまえに現れた。
湯上りに火照った首すじは淫らなピンク色に輝き、黒のストッキングに透けた脛も、活き活きと輝いていた。

あたし、若返ったかもしれない。
雅恵がしずかに呟く。
たしかに、そうかもしれない。
だとするとそれは、吸血鬼に咬まれたあとのことだった。
主人にもこのごろ、よく需(もと)められるの。
夫婦生活まであけすけに語るほど、彼女との仲は近まっていた。
ひっそりやりましょ。
わたしの首に腕をまわしてそう囁く彼女の瞳が、ひたと見すえてくる。
牝豹のような輝きだと、わたしはおもった。

同じ屋根の下。
妻の真紗湖はきっといまごろ、吸血鬼に抱かれているはずだ。
昼間からそのつもりだったのだろう。
漆黒の重たげなスカートの下、地味に透けるはずのストッキングは、妖しい光沢をよぎらせていた。
わたしたちも・・・ね?
稚な児(ご)に言い聞かせるように顔を覗き込んで、彼女は唇を重ね合わせてきた。
熱い唇だった。
地獄の底まで引きずり込む力を持った唇だった。
潤いを帯びた肉厚の唇に見せられたように吸い返し、ヒルのように吸いつづけた。

そのときだった。
ふすまがしずかに、開かれたのは。
「やっぱり・・・」
妻に似て穏やかで静かな声が、降ってきた。
見返さなくてもわかった。
声の主は、雅恵の夫だった。

ふたりとも、洋装のブラックフォーマル。
わたしだけはスカートを取り、彼女はスカートを着けたままだった。
そして、わたしの体液は生温かく、雅恵のスカートを濡らしていた。

ふつうなら。
息を止め、動きをも止めるところだろう。
なにしろ、不倫の現場を夫に抑えられたのだから。
けれどもわたしたちは、どちらとも、行為を止めようとはしなかった。
もう少し待って欲しい。
そんなせつじつな願いさえ、はじけさせていた。
ちょうどわたしのペ〇スが、スカートの奥に秘められた茂みに触れたところだった。
ため息をする彼女の夫の前、わたしはためらいもなく、雅恵のなかに精液をはじけさせていた。

息せき切った上下動が、しばらくつづいた。
ものを投げられても、鈍器を振り下ろされても、除けようのない態勢だった。
なのに、雅恵の夫は、そうする資格を持ちながら、わたしを攻撃しようとはしなかった。
ひとしきり嵐が過ぎてからやっと、彼女の夫は妻に声をかけた。
「気が済んだの?」

「奥さんを借りてます」
わたしは臆面もなく、いった。
「わかっています」
彼女の夫は、冷静にこたえた。
「別れることはできそうにありませんか」
あくまでも紳士的な問いに、あくまでも礼儀正しくこたえた。
「たぶん、難しいと思います」
「ひと言、妻とは別れるとさえ言ってくれれば・・・」
「偽りのお約束をすることで、あなたを余計に侮辱することになるのを恐れます」
「そうですか」
男はあきらめたように、いった。
「私を侮辱したくてそういう関係を結ばれたとは、おもっていません」
「わたしも、あなたを侮辱したくて雅恵を抱いたつもりはありません」
むしろあなたを、雅恵のご主人として尊重したい気持ちです、と、わたしはいった。
雅恵の夫を尊重することと、雅恵を抱くこととは、矛盾しないと感じていた。
理屈に反しているはずのわたしの感情を、どうやら雅恵の夫は理解したらしい。
それならば、わたしも雅恵と貴男との交際を、尊重することにいたしましょうと、彼は言ってくれた。

「良い心がけですな」
別の方角から、声がきこえた。
三人がふり返ると、そこには吸血鬼がいた。
「きみの奥さんを借りていた」
わたしが雅恵の夫に言ったのとおなじことを、吸血鬼はわたしに向かって口にする。
あっけに取られる雅恵の夫に、手短に説明した。
ある法事の帰り道がご縁になって、このひとは妻の恋人になってくれたのだ――と。
自分の妻に恋人ができることを、あなたは忌まわしいと思わないのですか、と、雅恵の夫はいった。
思ったほど、忌まわしくはないのではないのですか?と、わたしは逆に彼に訊いた。
まだそこまでは、思い切れていません――と、彼は正直にわたしに告げた。
彼の嘆きは、もっともだった。

「お察しします。わたしはあなたに、たいそうなご迷惑をおかけしていますね」
わたしは慰めるように、いった。
どうやら彼に、兇暴な意図はないようだった。
だから彼に対するわたしの態度も、余裕を取り戻したものになりつつあった。
「あなたはいつからそのように、女性の服装を嗜むようになられたのですか」
彼の疑問は、もっともだった。
女学生だったころの雅恵の服を身に着けて、淫らに戯れているところを抑えられ、
彼女の服を着たまま帰宅したのがきっかけかな・・・と告げたとき。
なんとなくジグソーパズルのピースが、居心地よくはまったような気がした。

なん着か、彼女の服をもらって自ら慰むときに身に着けたのだ。
でも彼女は、わたしと結婚するとは言ってくれなかった。
彼女の母は、わたしの父と契って彼女を生んだのだから――
「だから・・・雅恵は貴男に、純潔を捧げたのですね?」
どうしてそれを・・・?
雅恵の夫は微苦笑して、着けていたスラックスのすそを、引き上げた。
薄地の沓下のふくらはぎに、ふたつの咬み痕がくっきりと、つけられていた。
「そのひとに、咬まれたんですよ。奥さんを咬んだ後、あなたのことが気になって仕方なかった・・・とか言われましてね・・・」
彼が自分の妻の不倫に寛大だった理由が、よくわかった。

わたしは雅恵が純潔を捧げた相手が貴男で、よかったと思っている。
謝罪をしてくれれば貴男と雅恵の関係を受け容れて、あとは視て視ぬふりをしてあげようと思ったのですが――
貴男も強情なかたですね。
そういって、雅恵の夫はしずかに笑った。
夫婦で、笑うとき語るときの風情まで、似るものか。
ふたりは穏やかにほほ笑み、怜悧に己の身を淫らな渦巻きに浸した。

「ひとつだけ、いっておこう」
吸血鬼はいった。
「雅恵とあんたは、血は繋がっていない」
え?と訊き返すわたしに、雅恵はそういうことか、と、納得したような顔つきになった。
雅恵の顔色を読むように、吸血鬼は自分の情婦のことを、良い勘だね、と、ほめた。

わたしの父と雅恵の母は、兄妹の関係でありながら契りを交わし、雅恵を生んだ。
自分の妻が相姦を遂げていたことに冷静さを失った雅恵の父は、わたしの母に挑んで、意趣返しを果たした。
意趣返しのつもりが、ふたりは本気で愛し合い――そして生まれたのが、わたしだった。

雅恵が貴男に純潔を捧げて良かった――といったのは、わたしの傾いた考えからではありません。
ほんとうは、ふたりは結ばれても良かった関係だったのです。
わたしは彼女の夫という座を、あなたから奪ったのかもしれない。
ですが――

雅恵の夫の言葉を、わたしは手を挙げて制した。
自信を持ってください。
あなたは、雅恵とのあいだに娘までなした、立派な夫、父親です。
わたしはあなたを尊重しつつ、雅恵を犯す。
あなたの妻を、自分の妻どうぜんにあしらわせていただく。
でもそれは、あなたにたいする侮辱ではない。
雅恵という女性を妻としているあなたへの敬意をこめて、これからも雅恵を愛し抜くつもりです。

ぜひそうしてください――
雅恵の夫は、言い終えるまでもなく、吸血鬼に組み敷かれ、首すじを咬まれた。
ジュッ!と、あたりに熱い血潮がしぶいた。
畳を濡らした彼の血潮を、わたしは舌を這わせて舐め取った。

女どうしの関係ですぞ。あくまでも――
女の姿で乱れあうわたしと雅恵を見つつ、吸血鬼は雅恵の夫に囁いた。
そうですね・・・そういうことで理解しましょう・・・
白目を剥いて絶息した雅恵の夫の血を、吸血鬼はなおも啜りつづけた。

自分の妻を生贄に捧げた夫は、自らも妻の仇敵の餌食とされて、半吸血鬼となる。
彼もまた、わたしと同じ道を歩み始めようとしている。


あとがき

なにやら、どす黒い衝動が押し寄せてきて、わたわたと何作も書き綴ってしまいました。
かなり冗長に流れてしまいましたが、ここまで読んでくださった方がいらしたら、心から感謝します。
雅恵の夫の寛容さを描いていたら、きりが無くなりましたね。(^^ゞ

つづきの構想もなくはないのですが、結実するかどうかは、今後のお楽しみ・・・ということで。
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