淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・
善良な、クリーム色のストッキング
2022年02月12日(Sat) 03:09:58
しなやかなサポートタイプのストッキングがぴっちりと脚を包む感触に、われ知らずうっとりとなっていた。
外気に触れた薄々のナイロン生地を通して、そよ風がさらりと足許を優しく撫でてゆく。
きょうは、クリーム色のストッキング。
めったに穿かない色だった。
でも、白と黒の千鳥格子のスカートに、薄茶のパンプスには、むしろ色の薄いストッキングのほうが似合うと思った。
妻と張り合っているのかもしれない――と、ふと思った。
女の姿で吸血鬼に接し、女として扱われている夫をみて、
妻の真紗湖が敵愾心に似た嫉妬を募らせているのは、容易に察しがついていた。
けれどもそれは、わたしにしても同じことだった。
わたしがその日、クリーム色のストッキングを穿いたのは、
真紗湖が吸血鬼に迫られて、クリーム色のパンストを咬み剥がれてゆくのを目の当たりにしたためだった。
妻に成り代わってみたい。
妻に影を寄り添わせてみたい。
うり二つの装いをして、妻を浸蝕している者に、非礼な仕打ちを受けてみたい。
妻があしらわれるのと同じ手口で辱められて、歓びに咽(むせ)んでみたい。
夫を裏切って家名に泥を塗る妻とうり二つに、女として辱め抜かれてみたい。
邸のまえに佇むと、ひとりでのように鉄製のゲートが開いた。
そしてわたしは、吸い込まれるように、女の装いに包んだ身を、閉ざされていたドアの向こう側へと、
娼婦のようにすべり込ませていた。
迎え入れてくれた獣は、まだ口許に紅いしずくを滴らせていた。
妻の身体から吸い取った血液に違いない。
趣味の良い薄茶のスーツ、白のブラウスに包んだその身に巡っていた、うら若い血液。
まだお嬢さんっぽさの残る二十代の若妻の色香の名残りが、妖しく立ち騒ぐ。
「さっき、真紗湖を襲ってきた」
獣は、臆面もなくそういった。
「家内の生き血、お気に召したようね」
「あんたの血は、さらに佳い」
獣は、あくまでもこちらを立ててくれようとする。
佳い、という字はこう書くのだ・・・と、掌のうえをくすぐるように、なぞって描いてくれたことがある。
わたしはその形容句が、とても気に入った。
「初めて襲われたときから、ふたりは似合いだと思っていた。
家内を気に入ってくれて、嬉しいですよ」
わたしはこたえた。
言葉に嘘はなかった。
獣はさっきから、クリーム色のストッキングに包まれたわたしの脚に見入っていた。
「すまないが、愉しませていただくぞ」
彼はわたしの足首を掴まえて、おもむろに舌を這わせてきた。
薄地のナイロン生地のうえから、なまの唇があてがわれて、
生温かい唾液がしみ込んでくるのを感じた。
妻の穿いていたストッキングも、こんなふうにあしらわれたのか。
善良なクリーム色のストッキングが、いやらしくヌメる舌に、唇に、辱められてゆく。
脛やふくらはぎの輪郭をすべるように這いまわる舌が、唇が。
貴婦人の装いを娼婦のそれに変えて、
ナイロン繊維のざらついた感触を淫らに増幅させて、
わたしの理性を、いびつに歪めてゆく。
妻も、同じようにされたのか。されたのだ。
そして、善良なクリーム色のストッキングを淫らに堕とされて、娼婦になり下がっていったのだ。
わたしは、わたしなのか。それとも、妻なのか――
わからなくなってゆく。
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