淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・
挑戦者とチャンピオン ――八百長試合の裏で。――
2022年07月03日(Sun) 23:06:15
黒ちゃんの相手だけはねぇ・・・
そんなことが、声をひそめて交わされていた時代があった。
まだ彼らのことを、身近に目にする機会のないころだった。
チャンピオンシップのかかった前夜。
バット・ヴァンパイヤと名乗る挑戦者のの黒人選手は、女を欲しがった。
対戦相手は、白人選手のベリーハード・ショウ。
彼も女を欲しがった。
八百長試合に応じるための見返りだから、正当な権利というわけだ。
マネージャーはどうしても断り切れなくて、わたしの妻と母とを差し出すことにした。
彼の婚約者は別のクラスのチャンピオンに寝取らせてしまっていたので、
身内の女というと、ジムの共同経営者であるわたしの身内の女ふたりしかいなかったのだ。
母が白人選手の、妻は黒人選手の相手をすることになった。
場所を選ばない無法者だったので、
わたしの家がそのまま、濡れ場になった。
ひとつ部屋で、明日の対戦相手は、わたしの妻と母とをひと晩じゅう、愛し抜いたのだ。
母はあとになって、言ったものだ。
わたしが美紀さんの代わりに、黒ちゃんの相手をしようと思ったけど。
どうやらそうじゃなくて、よかったみたい。
――たしかにそうだったと、あとになって実感した。
逞しい褐色の臀部が、なん度となく、妻の細腰に迫っていった。
そのたびに妻の着ているよそ行きのワンピースのすそが、激しく揺れた。
黒髪をユサユサと揺らしながら、薄い唇にほろ苦いものを滲ませて、それでもグッと、歯を食いしばっていた。
ひとつ家のなか、妻の痴態を目にすることを強いられたわたしもやはり、密かに歯を食いしばっていた。
そんな妻やわたしの気持ちなど知らぬげに、
ヤマトナデシコ、オオ、イトオシイ・・・などと口走って、
褐色の鍛え抜かれた筋力を備えたけだものは、
几帳面に整えた黒髪がくしゃくしゃになるほど、指を挿し入れ揉みくちゃにしてゆく。
妻の自慢の髪の毛に加えられる凌辱は、犯される股間と同じくらい、わたしの目に灼(や)きついた。
傍らの母は、白人相手に身もだえしていた。
望まれて装った着物の襟をはだけられて、あらわになった胸を、どん欲に吸われていた。
奥ゆかしい和装の美女をねだったチャンピオンは、自分のリクエストがかなえられたことに目を輝かして、
夫以外の男性は初めてだという母を、有無を言わさず組み敷いていった。
ほどかれた紅い帯が、紅葉の流れる河のようにつづら折れになって、
白熱した惨劇を、いっそう惨酷なものにしていた。
弱々しくためらった抵抗は、なんなくねじ伏せられて、
母は自分の息子ほどの白人選手を、
妻は同年代の黒人選手の相手となって、
彼らを前にするといっそうか細く見える肢体を、秀でたしなやかな筋肉に制圧されて、
逞しい腰のどん欲な上下動に、貞操をむしり取られていった。
ひとしきり性欲処理を済ませると、ベリーハード・ショウはそそくさと服を着て、
礼も言わずに立ち去っていった。
そのいっぽうで。
挑戦者である褐色のコウモリ、バット・ヴァンパイヤは、
飽きもせずに、自分と同年代の妻を相手に、挑みかかっていった。
褐色の逞しい臀部は、飽きもせずに、上下動をくり返す。
ふとしたはずみに目に入った彼の陰茎は非常に太く、
あんなものを受け容れさせて妻が壊れてしまうのではないかと、わたしは本気で懼(おそ)れた。
けれどもはっきりしているのは、バット・ヴァンパイヤはわたしの妻を、しんそこ気に入っているということだった。
躍動する筋肉が、汗をぎっしり浮かべた褐色の皮膚が、獣のように荒々しく真摯な息づかいが、
それらすべてが、歓びに満ちていた。
地味なねずみ色のワンピースのすそに、白く濁った粘液を光らせながら、
妻は絶えず足摺りをくり返し、その都度都度に、身体の奥底までも、淫らな体液で浸されていくのだった。
ただただ、自分の倍はあろうかと思える獣に挑まれることに、うろたえながら。
地味な肌色のストッキングはむしり取られ引き破かれて、ひざ下まで弛んでずり落ちて、
ふしだらな引きつれに、皴寄せられていった。
一週間後。
ジムの裏部屋の扉が細めに半開きになった向こうから、
わたしは一対の男女を覗き見ていた。
どうしても見たいのなら教えてやるよと、マネージャーが配慮してくれたのだ。
でも邪魔をしたら、ワンパンチだからな、と、わたしに忠告するのも忘れなかった。
新たなチャンピオンであるバット・ヴァンパイヤが顔を合わせているのは、わたしの妻だった。
妻は今朝、友人に会いに出かけてゆく――といって、家を出たはずだった。
けれどもその刻限は、マネージャーが教えてくれた、新しいチャンプと日本女性とが密会をする時間と一致していた。
まさか・・・と思いつつも、わたしはマネージャーに頼み込んで、ジムのなかに入れてもらったのだ。
「チャンピオン獲得、おめでとうございます」
妻は表情を消して、棒読み口調でそう告げた。
「お祝いをくれるのかな?ミセス・エンドー」
それくらいの日本語は、操れるようだった。
応えの代わり、彼女はブラウスの胸もとの釦に手をやって、釦を二つ三つはずしていた。
「ナイス・アンサー」
チャンプは嬉しげに白い歯をみせ、妻もためらいながら愛想笑いを泛べた。
瞬間、妻の華奢な身体に、黒人の巨体が覆いかぶさった。
丸太ん棒のような褐色の逞しい腕のなか、妻は苦しげに身もだえをする。
けれどもチャンプはお構いなしに、薄い唇をこじ開けるようにして、キスをくり返し、重ねていった。
地味な無地の紺のスカートを腰までたくし上げられて、ねずみ色のストッキングは片方だけ脱がされていた。
妻がねずみ色のストッキングを穿いているのを、わたしは見たことがない。
肌色のストッキングしか脚に通したことのない彼女にとって、きょうはなにかが特別だったのだ。
片方だけ穿いたストッキングも、ひざ小僧の下までずり落ちて、ふしだらに弛み、くしゃくしゃに波打っている。
妻が堕ちたということを、乱れた着衣がむざんなまでにあからさまに、教えてくれていた。
夫の目を盗んで黒人男性と情交を遂げる妻のようすを、
わたしはただ棒立ちになって、見守りつづけていた。
「ユーのワイフはじつにナイスだ」
バット・ヴァンパイヤは、わたしに言った。
妻はとうとうわたしに気づくことなく、立ち去ったあとだった。
「チャンピオンになったのも嬉しいが、淑やかなジャパニーズレディをモノにできたのは更に嬉しい」
不思議と怒りは、湧いてこなかった。
この黒人選手は、ひとの妻を相手に性欲処理にしながらも、
ともかくも妻を愛し、時には庇い、時には虐げて、
理性を突き崩された妻は、めくるめく痴情に堕ちていった。
そのことは、同じ男として、認めない訳にはいかなかった。
「さいしょは強引にいただいた。
でもリピートするのは奥さん次第だ。
ユーのワイフは賢い女だ。
だんなを傷つけまいとしながらも、自分もしっかり愉しんでいった。
ワイフを怒っちゃだめだぜ。
あれは賢い女だ」
チャンプはしきりと、わたしの妻をほめた――どうやら本音らしかった。
「時おり来日する。そのときは、ユーのワイフをまた、抱かせてくれ」
Yes,sir・・・
強制された答えのはずなのに、真実味を籠めてしまっている。
差し出された掌を握りしめると、ぐっと力を籠めてきた。
もちろん、わたしの掌が壊れないよ う、加減をして。
「ユーのワイフを、完全に奪うことはしない、約束しよう」
妻を穢した男は白い歯をみせて、意味ありげにウィンクをした。
おなじ日。
未亡人である母のことを、かつてのチャンピオンが呼び出して、日本の淑女の木尾の姿を日がな一日愉しんだことを、
マネージャーはそっと、教えてくれた。
彼の妻はけっきょく、長いこと情夫であった別のクラスのチャンピオンからのプロポーズを受け容れて、
遠い国へと旅立つ決意を固めたのだと、なぜか清々しい顔をして、いっしょに教えてくれた。
世界的なタイトルマッチとは無縁の、地下の各闘技場――
白熱した八百長試合に目を輝かせた青年たちが、きょうもひきもきらず、ジムへと押し寄せている。
商売繁盛は、まちがいなしだった。
妻が密会するときの洋服代をかせぐため。わたしは仕事に精を出す。
黒いチャンプの餌食になって、悶えるための装いを――
あとがき
おひさしぶりです。^^;
ずっと興が乗らずに、ブログを放り出していました。^^;
このお話――すでにだいぶまえに書いたのですが、なんとなくあっぷしそびれていたんですね。
少しだけ直して、あっぷしてみた次第です。
鬼畜な話は嫌いなのですが、これはその一歩手前。
強いられていたはずの関係なのに、奥さんがご主人にうそをついてまで、自発的に出かけていった――というくだりがツボなのでした。
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