淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・
彼女のハイソックス 彼氏のハイソックス
2022年07月11日(Mon) 23:12:10
学校帰りのセーラー服の乙女たちが吸血鬼に襲われて、
ひとり、またひとりと噛まれて、地べたに膝を突いてゆくのを、この街ではだれも、止めようとはしない。
さいぜん品定めされながら血を吸い取られていった少女たちの親たちすらも、
娘たちがそのうら若い血で、吸血鬼の喉を悦ばせているのを、よしとしているようだった。
この街が、吸血鬼と共存を約してから、もう何年も経っている。
いまどき彼らのために、血を愉しまれたことが1度もない女など、たぶん一人もいないだろう。
どうしても妻や娘を穢されたくない。そう考える男たちは、とっくの昔に街から姿を消していた。
残った男たちはだれもが、生命の保証と引き替えに、
妻や娘や母親、それに自分自身の血液さえも、提供することを受け容れている。
妻や娘をかばうため――
夫や父親たちのなかには、自らの妻や娘の服を身にまとい、彼女たちの身代わりとなって血を吸われる者も少なからずいた。
瀬名田少年は、そうした家に育った少年たちの一人だった。
濃紺の半ズボンに、同じ色のハイソックス。
同学年の少女たちと似通った制服の着用が義務づけられていたので、
男子なのにハイソックスを履くことには、なんの抵抗も感じていなかった。
半ズボンから覗くピチピチと輝く彼らの太ももは、しばしば彼らの好餌となった。
「彼ら」は、男女わけ隔てなく、若い血液を求めていた――
学校帰りに立ち寄る公園の、片隅で。
同級生が3人、吸血鬼に迫られている。
おそろいの紺のハイソックスを履いたふくらはぎに、代わる代わる唇を吸いつけられて。
つぎつぎと顔色を蒼ざめさせて、その場に倒れ伏してゆく。
瀬名田少年はその日も、昼さがりの街なかでくり広げられるそんな光景を目にしていた。
いつもの光景・・・
そう見逃してしまうことができなかったのは。
その中の1人が、瀬名田少年の婚約者である波満子だったからだった。
波満子は真っ先に咬まれて、急速な失血に身もだえしながら、紺のハイソックスを咬み破られていった。
残る二人が互いの体温を確かめるかのように身を寄せ合って、それでも順ぐりに足許に唇を這わされて、
飢えた唇がまさぐるように蠢く下で、おそろいのハイソックスを咬み破られて、しなやかなナイロン生地に血を滴らせてゆくのだった。
同じ制服を着た少女たちが、まるで物まねでもしているかのように、
うり二つなしぐさで身を仰け反らせ、ふらつかせ、その場に倒れ伏してゆくのを、
少年はむしろ無感情に、見流している。
彼にとってはだれよりも、真っ先に倒れ伏して身じろぎひとつできなくなっている波満子の様子に、心を100%持っていかれているのだった。
獲物を3人モノにした吸血鬼は、そのうち2人を帰したあと、残るひとりを念入りにいたぶるという。
運わるく、その日残されたのは、ほかならぬ波満子だった。
遠目に注がれた、嫉妬に満ちた熱い視線を。
男は獣のような敏捷さで、察知していたに違いなかった。
ひざ下丈のプリーツスカートは、ユッサリと重く、ひだを豊かに拡げている。
女らしいしなやかさを帯びた下肢を遮る通学用の制服をまさぐりながら、
男はみるみる、波満子の太ももをあらわにしてゆく。
うふふふふふっ・・・
われに返った波満子が尻もちをついたまま後じさりをするのを、
狡猾な蛇のように地を這いながら追いつめて、
怯える足首を掴まえて、とざそうとするひざ小僧をおし拡げて、
これ見よがしに牙をむき出すと、濃紺の制服に包まれて白く映える太ももに、がぶりと食いついてゆく。
さっき彼女のクラスメイトを相手にみせた貪婪さをあらわにして、
キュウキュウ、グイグイと、波満子の血をむさぼり喰らう。
「あ・・・あ・・・あ・・・っ」
うろたえる波満子は再び訪れた急激な失血に目を眩ませて、
まっ白なセーラー服の夏服に泥を撥ねかせて、その場にうつ伏せに倒れ伏した。
ククク・・・
波満子の身体から引き抜いた血潮を牙から滴らせたまま、
男はむぞうさに、波満子の脚を引っ張りあげて、
さっき咬みついたのとは別の脚に、もの欲しげな唇を吸いつけていった・・・
視てるね・・・?
眠るように気絶した少女の、セーラー服の胸もとから顔をあげた吸血鬼は、
生垣の向こうからこちらを窺っている瀬名田少年に、透視するような鋭い視線を送った。
瀬名田少年がおずおずと顔を出すと、彼はいった。
「素直でよろしい」
「もっと視たいのじゃろ?こちらに来るがよい」
吸血鬼は、少年が波満子の許婚であることを知っていた。
「わしが憎いか?」
吸血鬼の問いに、少年はかぶりを振った。
そのしぐさはどうやら本気らしいと、吸血鬼はおもった。
「この娘を気の毒に思うのか?」
それも違う、と、少年はやはり、かぶりを振った。
そう。波満子は嫌がってはいない。
むしろさいしょのひと噛みは、狙われたふくらはぎを自分のほうから差し伸べていた。
「この子のしたことを、お前に対する裏切りと思うのか」
それもやはり違う。少年はまたも、かぶりを振った。
好ぅく、心得ているようじゃな・・・
吸血鬼は、初めて目を細めて、少年に向けた視線を和らげた。
忌まわしいんです。
若い血潮を、身体じゅうから舐め尽くされてしまうだなんて。
でも、貴男がたがぼくたちの血を欲しがっているのも、わかるんです。
だって吸血鬼なんですから。人の血を吸って生きているんでしょう?
いっしょに暮さなければならないとしたら、ぼくたちはやはり、貴男がたに血を提供する必要があるんです。
波満子さんもそう思っているし、ぼくもわかっているんです。
だから――波満子さんはぼくの希望を入れて、ご自身の血で貴男を愉しませているし・・・
ぼくもやっぱり、それを熱望しているんです。
変だと思われますよね?
ほんとうは、人間は吸血鬼と、闘わなければおかしいですよね?
吸血鬼は、少年の背中に腕をまわした。
少年は、拒まなかった。
「きみの脚も、見映えがよろしいね」
「そう思ってくだすって、嬉しいかもしれないです・・・」
「わしに襲われて生き血を吸われる乙女の気持ちが、少しはわかるかの?」
「ハイ、わかります・・・」
「乙女は未来の花婿を裏切ってでも、己の若い血潮を吸わせたがるのじゃ。
この街の花婿たちは、花嫁が吸血鬼を受け容れるのを、許容しなければならぬ」
「ぼくは、あなたを許容します――」
「許容するだけかの?」
「いいえ・・・」
その・・・その・・・と、少年は言いよどんだ。
自分はいったい、何を言おうとしているのだろう。
男としての誇りを忘れ、伴侶を守る義務を放棄して・・・
瀬名田家の跡取り息子は、家の名誉を穢すような振る舞いを、吸血鬼に許してしまってよいのだろうか?
けれども、少年の理性を支えようとする潔癖さは、すぐに崩れ果ててゆく。
まるで紅茶の中に放り込まれた、角砂糖のように、たあいもなく――
若い女の血を差し上げたくて――
父さんはそういって、母さんを親しい吸血鬼の邸に伴った。
母さんはその晩ひと晩、家に戻ってくることはなかった。
その後も母さんが、父さんに隠れてお邸を訪問しつづけて、
瀬名田夫人としての誇りを放棄するようになったのは、
夫が最愛の妻の貞操を気前よく恵んだ相手だからだったはず。
ぼくは・・・ぼくは・・・
ためらいもなく、父さんの歩いた道を踏み出してみる。
差し伸べた脚から、ひざ下までぴっちりと引き伸ばされた濃紺のハイソックスを、みるもむざんに噛み剥がれてゆきながら。
少年はいつか、恍惚とした笑みを漏らしていた。
失血からさめて、もういちど起きあがった恋人が、セーラー服に着いた泥を気にも留めずに、
おそろいのハイソックスをいたぶられ若い血を啜られる未来の花婿に賞讃のまなざしをそそぐのを。
彼は気恥ずかしく、けれど誇らしく受け止めて。
彼女の花婿をも恋人として篭絡した吸血鬼は、くすぐったそうに受け流すのだった。
あとがき
セーラー服の少女たちが、通学用のハイソックスを他愛もなく咬み破られながら、生き血を愉しまれてゆくのを。
親たちは、そして少女の彼氏たちは、どんな気分で盗み見るのでしょうか?
あり得ない設定であるとはおもうのですが。
この少年のように、そしてこの街の親たちのように、
恋人や娘が吸血鬼との逢瀬を遂げて、処女の生き血への渇望を成就させてしまうのを、
気恥ずかしく誇らしく見守ることも、時にはあるのではないでしょうか・・・
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