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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

歪められた統計

2022年07月24日(Sun) 22:13:16

柔らかな肌色のストッキングを脚に通して、
つま先にはカッチリと輝く、白のハイヒールに足の甲を反らせて、
コツコツという硬質な足音が、純白のタイトスカートのすそをさばいて、市長室を目指していく。

壬生川京子(56)は、市長の夫人。
そして壬生川市長はいま、畢生の問題に取り組んでいる最中だった。

「減っておりますのね」
低く透き通る響きの声に、市長は振り返りもせず、「ああ」とだけこたえた。
ふたりの視線の行く先には、針広げられた方眼紙のうえに赤い線でなぞられた、折れ線グラフ。
去年の秋をピークにダウントレンドに転じたその折れ線は、今や鎮静の一途をたどっている。
最悪期には、一日百件以上を記録した事案――
それは、吸血鬼に襲われた市民の数だった。


去年の夏が、初めてだった。
下校途中の女子高生が襲われて、瀕死の重傷にまで追い込まれた。
原因は、極度の貧血。
証言から、彼女が首すじを咬まれて、血液を経口的に、それもしたたかに吸い取られたことが判明した。
以来、勤め帰りのOLはもちろんのこと、家にあがりこんでうら若い主婦を狙うものまで現れるしまつだった。
招待されたことのない家には立ち入ることができない――という言い伝えはどうやら本当のようだったが、
彼らのなかには一般の市民も少なからず混じっていて、
そういう者たちが、顔見知りの人妻を目当てにする吸血鬼のため、手引きをしているのだった。

襲われるのは女性が主だったが、男性にも魔手は伸びた。
特に、いちど襲われた女性の夫や父親が、狙われた。
それ以来。男を襲われた一家から、同様の被害届が出されることはなくなった。
特定の女性がなん度も狙われるケースが目だったが、やがてそうした被害届も、出なくなった。


市長の知人の妻が吸血鬼に襲われ血を吸われ始めたのは、去年の秋のころだった。
有夫の婦人、あるいはセックス経験のある女性が襲われると、ほとんどの場合犯された。
ことのついで――ということなのかと、市長は訝ったが、
情報提供に応じてくれた被害者の夫は、どうやら本心から好意を持つらしい――と告げてくれた。
彼らは多くの場合、まっとうな結婚ができない。
けれども、かつては人間であり、暖かい血を体内にめぐらしていた過去を持つ彼らは、人並みに女を愛さずにはいられないのだった。

市民から提出される被害届は、この半年で目だって減っている。
体面や外聞を憚って被害届を取り下げる者もいたが、
もっと別な理由――自分を襲った吸血鬼、あるいは自分の妻や娘を襲った吸血鬼への好意や共感から、
被害届の提出を思いとどまるものが、少なからずいるという。
「自分の奥さんを犯されたのにかね?」
市長はさすがに顔をあげて、知人を見た。
エエそうなんです、と、知人はこたえ、
彼らは大概、犯した人妻のだんなも狙いますからね――と、意味深なことを告げた。

だいぶあとからわかったことだが、血を吸われたもの同士のあいだは、同じ運命をたどった人の首すじの咬み傷が見えるという。
知人は早い段階で咬まれ、妻同様生き血を吸い取られていた。
そして――血を吸われる快楽に目覚めたものたちは、だれもがくり返し吸われることを望み、
自分の妻や娘が生き血を餌食にされ、みすみす犯されてしまうのすら、許容するようになるのだった。


「減っているのは表向きだけだ」 市長がいった。
「わかっておりますわ」 京子夫人がこたえた。
「けれどもこれは、良い傾向なのだ」
市長は自分に言い聞かせるように、いった。

市長は街のあらゆる有力者たちとくり返し会合を持ち、ひとつの結論に達した。それが、去年の初冬のころだった。
知人夫妻を通して透けて見えた彼らの意図は、ごく穏便なものだった。
人の生き血が欲しい。
女のひとを抱きたい。
そうした欲求をさえかなえてくれるのであれば、必要以上に暴れることはない。まして人の生命も奪ったりしない。
それが、彼らの意向だった。
じじつ、いまのところ、吸血事件で命を落としたものはいない。
けれども彼らと対立を深め、吸血行為を弾圧すればきっと、望まざる犠牲者の出現も間近いはずだった。

市長は彼らとの間に、協定を締結した。
彼らの欲望を満たすことを妨げない代わりに、市民の安全を保証してほしい――と。

吸血鬼との協定を独断で結んだことには、激しい反撥がうまれた。
市長は女性の名誉を守らないのか――とまで、糾弾された。
吸血鬼の横行する街に、自分の妻や娘を歩かせたくないという人々が、多く街を捨てた――
いまでは街に残った大概のものが、自分自身や家族の血液を、彼らの渇きのために提供するようになっていた。

さいしょの被害者であった女子高生は、初めて自分を襲った吸血鬼に、純潔を与えたという。
つぎに咬まれた勤め帰りのOLは、自分を咬んだ相手に婚約者を紹介し、ふたりで吸血される歓びに目ざめると、
未来の夫が視ているまえで、小娘みたいにはしゃぎながら犯されていったという。

何よりも。
市長自身が、模範を示さなければならなかった。
彼には、京子夫人とふたりの娘がいた。
50代となっても美しく気品をたたえた京子夫人は、自身が狙われるのと引き換えに娘たちの安全を願ったが、
そうはいかないことはだれよりも自覚していたし、娘たちもまた、健気に母の意向に随っていった。

上の娘はすでに結婚していたが、里帰りする度に、夫には内証で吸血鬼の相手を務めた。
妹娘は通学している女学校の授業中に呼び出され、空き教室で男の味を覚え込まされた。
それでも市長の一家は以前と変わらず睦まじく、何事もないかのように暮らしている――


あとがき
ひどく説明的な文章に。。。 (^^ゞ
つづきは描くかもしれず、描かないかもしれず・・・ (笑)
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市長夫人、堕ちる――
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肉づきたっぷりな脚が、まとうもの。

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