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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

回りくどい告白。

2022年08月18日(Thu) 00:24:42

市長の奥さんが、吸血鬼の餌食になった。
三上の言葉に妻の優里恵は言葉を失った。
意思を喪った といっても良いかもしれない。
それくらい優里恵は、夫の上司の夫人に心酔していた。
いや、おそらくは――
この狭い街の住人のほとんどが、この高雅なトップレディを崇拝していたといっても過言ではなかった。

でも・・・そんな・・・
戸惑う優里恵にとどめを刺すように、三上はいった。
市長も、二人の仲をお認めになっているそうだ。
ご覧――
三上の指さすほうに目をやると、純白のスーツ姿の婦人が、見知らぬ男と語らっているのがみえた。
洋装のスーツを和服のような奥ゆかしさで着こなす人は、たぶんあのひとしかいない。
相手の男は市長夫人の肩にそっと手を添えると、夫人はすんなりと頷いて、すぐ目の前のビルへと消えた。
ラブホテルのロビーだった。

献血するときに、彼らが専用に使用しているらしい。
三上は妻に囁いた。
優里恵も・・・なん人かの人妻仲間から、そのことは聞き知っていた。
彼女の周囲でも、吸血鬼に身を許す人妻が続出していたのだった。

こっちへおいで。
三上は優里恵を、路上に連れ出した。
陽射しのまっすぐな表通りを、夫婦肩を並べて歩いていると、優里恵は少しだけ、冷静さを取り戻した。
けれども、彼女が取り戻しかけた理性はすぐに、もうひとつの情景のまえに、粉みじんに砕かれることになる――

こっち、こっち。
まるでいけないものをのぞき見しようとする悪い男の子のような顔をして、夫は優里恵をいざなってゆく。
たどり着いたのは、市役所近くの公園だった。
広々とした公園は緑が豊かで、街なかにあるとは思えないほどの奥行きを感じさせ、市民の憩いの場となっている。
三上はその公園の入ってすぐの片隅の、芝生の奥へと足を踏み入れてゆく。
遊歩道から離れ、あまり人のいない一角だった。
生垣の向こうに、優里恵は異変を感じた。
なにかまがまがしい気配が、どす黒く蠢いていた。

視て御覧。
夫に促されるままに生垣の向こうを覗き込んだ優里恵は、はっと足許をこわ張らせた。
肌色のストッキングに包まれた豊かな肉づきを、三上は我妻ながら惚れ惚れと盗み見る。
硬直しきったふくらはぎは、やや硬く筋ばっているようにみえたが、
それがまたカッチリとした輪郭をきわだたせ、四十にはまだだいぶある女の肉づきを、艶めいたものにしていた。
このふくらはぎに遠からず、吸血鬼の牙が食い込むのだ――
忌まわしい想像にそれでも三上は、歪んだ昂ぶりを覚えずにはいられない・・・

見開かれた優里恵の眼は、生垣の向こうの情景にくぎ付けになっている。
それもそのはずだった。
そこにいたのは、見知らぬ男と、官舎では向かい合わせに住む、町村助役の夫人・規美香の姿があった。
規美香とはしばしば行き来があり、つい先日も連れだって、デパートに買い物に行きランチをしたばかりだったのだ。
しかしそこに横たわる女は、いつもの快活な規美香ではなく、別の女だった。
きちんと着こなした上品なスーツを惜しげもなく着崩れさせて、
はだけたブラウスから覗く胸は、取り去られたブラジャーを押しのけるようにして豊かに熟れた乳房をあらわにし、
スカートを脱いでこれまた惜しげもなく曝された太ももの周りには、
ずり降ろされたストッキングがふしだらな弛みを波打たせまとわりついている。
淫らな吐息もあらわに戯れる、娼婦のような女――
それが目の前にいる女だった。
助役夫人の首すじには、バラ色のしずくを滲ませた咬み痕がふたつ、綺麗に並んで付けられている。

びっくりした?
夫の問いに頷き返すことさえ忘れて、優里恵はふたりの痴態から目を離すことができなくなっている。
白昼、陽射しの照りつけるさなか。
慣れ親しんだ同性の友人が、それも夫の上司である助役夫人が、見知らぬ男と痴態に耽り、別人のように乱れ果てている。
ショッキングな光景は優里恵の脳裏に狂おしく灼きついて、声を発することも、知人のふしだらをとがめることも忘れ果て、
その間に彼女の理性はまるで紅茶に沈んだ角砂糖のように、脆くも崩れ果てていくのだった。

幻惑された。そういってよかった。
忘れられない光景だった。あのひとが、規美香夫人が、夫のいる身で娼婦になり果てるなんて。
さりげなくさらけ出された、自身よりも秀でているように映る肢体が、男の逞しい体躯に、白蛇のように絡みつく――
スカートの奥に秘めた下腹部に、なにかがジワリとしみ込むのを、彼女は感じた。

行こう。
囁く夫の言に随って、彼女はわき目も振らずに現場から離れた。

視たよね?
視たわ。
どう思う?
どう思うって・・・ふしだらだわ。
愛し合っているとしても・・・?
そんな馬鹿な。
人の心は、裏まで見通せないものだからね。
いつも子供っぽいと思い込んでいた夫の声音が、どことなく深々と、優里恵の胸に食い込んだ。
視て御覧。
もういや。
でも、もういちどだけ――
彼方になった生垣の向こう、男女はすでに起きあがっていた。
そして優里恵は、もういちど、目を見張ることになる。

どこから立ち現れたのか、そこには規美香の夫・町村助役の姿があったのだ。
勤務の中を抜け出してきたのか、助役は夫と同じく背広姿だった。
彼は、さっきまで自分の妻を犯していた男と和やかに言葉を交わし、男もまた慇懃に、助役の声に応じている。
なにを話しているのかまでは聞き取れなかったが、二人がそう険悪な関係でないことは、容易に伝わってきた。
ご主人何も知らないの・・・?
優里恵が夫にそう囁こうとしたとき、その唇は凍りついたように止まった。

町村助役のまえ、男は規美香を我が物顔に引き寄せると、優しく抱き留めて、深々としたディープ・キッスを果たしたのだ。
夫である助役は控えめに傍らに佇んだまま、むしろ二人の様子をまぶし気に見つめている。
男は規美香の手の甲に接吻をして、いちどはその場から離れようとした。
ところが助役はふたりの間に入ると、妻と男の手を捕まえて結び合わせるように手を握らせると、
妻に二言三言囁いて――離れていったのは男のほうではなく、助役自身のほうだった。

助役夫人はそのまま、未知の男と腕を組み、まるで恋人同士のようにしてその場を立ち去ってゆく。
向かう先が、さっき市長夫人が不貞の場に選んだホテルの方角だと、優里恵にもすぐにわかった。

視たね?
視たわ。
あのひとは、吸血鬼のなかでも四天王と呼ばれるほどの大物なんだ。
日常的に献血に応じてくれるご婦人を最低一ダース必要とする、精力絶倫のひとだそうだ。
ご夫婦が散策しているところをたまたまあのひとが見初めて、助役夫人に「奥さんの血を分けてほしい」と望まれたそうだ。
助役はあのひとの奥さんに寄せる好意をかなえてあげることにして、
その晩――奥さんはあのひとの恋人にされたそうだ。

先日市役所で通達が流れてきた。
市長夫人が吸血鬼への献血に応じたことを自分から表明して、
ほかの市役所職員のご家族や女性職員に向けて、献血事業への協力を呼び掛けたんだ。

夫人が堕ちた日は「恩恵の日」と呼ばれることが正式に決定して、
その「恩恵の日」より前に吸血鬼に身を許した女性は、
「軽はずみな娼婦」と呼ばれることになって
市長夫人よりも身持ちの堅かった――つまりまだ貞操を保持している人妻は、
「身持ちの正しい賢夫人」と呼ばれることになったんだ。
だからきみは、「身持ちの正しい賢夫人」ということさ。
まだ、どの吸血鬼にも襲われていないのだろう?

ええもちろんよ・・・優里恵は言いかけたが、なぜかそれは言葉にはならなかった。
そして、夫の言葉は彼女の顔つきを、完全に凍りつかせることになる。

「あのひと、つぎはきみを餌食にと狙っている。きょう、本人から望まれたんだ」

回りくどい告白ね。
すごくすごく、回りくどい告白ね。
優里恵は微笑んだ。微笑もうとした。けれどもうまく微笑むことはできなかった。

市長夫人の行動を夫である市長から教わり、
分別盛りの齢ごろの妻が市民の憩いの場の片隅で「あおかん」に及ぶことを助役から教わり、
そのうえで、きょう受けたという告白を妻に伝える――
うろたえながらもこれだけの段取りを果たした三上のことを、優里恵は有能なやつだとおもった。
有能な職員の妻は、やはり夫に見合った役目を果たさなければならないと、同時におもった。

身体の奥がビクン!と、衝動にわなないた。
恥を忘れて夫のまえで淫ら抜いた規美香の姿が、ありありとよみがえった。
こんどは――私の番だ。
規美香は感情を消した笑顔を夫にむけて、いった。

じゃあ私も、娼婦になっちゃってかまわないのね?
いま穿いているパンスト、あのひとのよだれで濡らされちゃったり、咬み破らせちゃったりしても良いのね?
三十代の人妻の熟れた血――愉しませてあげちゃって、かまわないのですね?

今夜、お招きしようと思う。きみという御馳走を、あのひとに振舞うために――
十二になる娘の由香は、母の家に預けよう。
そして、妻がまだ若いうちjに吸血鬼の牙を、舌を、喉を愉しませる幸運に、俺も浸り抜こう。

十数年連れ添った妻を堕とす段取りを整えてしまった男は、いつか自分の股間をいびつな昂ぶりにゆだね始めてしまっている。
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