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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

正の字。

2022年08月18日(Thu) 01:25:14

ひところ300人を数えたという市役所の職員は、今や200人ほどに減っていた。
なにしろ――吸血鬼に支配された街である。
相当数の市民が転居してしまい、それにつれて職員も離脱するものが相次いだ。
とうぜんのことだろう。
自分の妻や娘が吸血鬼の毒牙にかかって平気だという男のほうが、まれではないか。

けれども――すでに多くの男たちが咬まれ、吸血鬼に心酔してしまっているこの街で。
妻の貞操や娘の純潔を守り抜こうとするものは、すっかり少なくなっていた。

市役所の玄関に、奇妙な掲示がされるようになったのは、そうしたころのことだった。
正の字が、控えめな筆跡で、一本また一本と、引かれてゆく。
足取り鈍く出勤してくる職員たちが、人目をはばかるようにひっそりと、一本また一本と、正の字を引いていくのだ。
前の晩襲われた人妻や娘の数を、意味していた。

体重の約8%が血の量だと言われている。
そのうち20%も喪うと、生命にかかわるという。
だから、体重が40kgの女性だと、640mlほどが限界だということだ。
吸血鬼たちは、女性たちの生命を損なう意思はない。
なので、それ以上の血液をひとりの女性の身体から啜り取るということは、まずない。
もっと多くの血を彼らが欲する場合には、彼女の夫や娘が、餌食となる。
いちど彼らの牙の味を識ってしまったものは皆、彼らの毒に酔いしれるようになってゆく。

正の字の数からすると。
夕べ職員やその家族の体内から喪われた血の量は、20ℓにものぼった。
ひと晩のうちに、40人もの女性が、彼らの牙に弄ばれた――否、献血に協力し職員としてのキムを果たしたことになる。
夫よりも遅れて登庁した市長夫人もまた、純白のスカートのすそをしゃなりしゃなりとさせながら、誇らしげに棒を一本、引いていった。

数々の掌によって引かれた、ぶかっこうな正の字には。
一本一本に、夫たちの想いを載せている。
一本一本に、淫らに堕ちていった女たちの喘ぎが、込められている。
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妻を汚されるということ。
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回りくどい告白。

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