淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・
市役所の若い女性職員が、結婚前に・・・
2022年08月19日(Fri) 23:36:14
「常川桃花、本日付けで係長を命ずる」
無表情な課長の言葉に、桃花はひっそりと唇を噛んでうつむいた。
淡いブルーの格子縞のベストに、濃紺のタイトスカート。
市役所の清楚な制服に包まれたОL姿が、恐怖に立ちすくんだ。
それもそのはず、課長の隣に控える黒い影は、昨今市役所に出入りするようになった吸血鬼。
彼は、桃花の血が目当てで市長にすり寄って、
ついに本人の承諾を得て、係長の肩書と引き替えに吸血する機会を得たというわけだ。
もとより、本音は気の進まない応諾に違いない。
けれども、もうじき結婚を控えている――そんな当然すぎる抗弁さえもが、無力にへし折られた。
市の上層部の圧力に屈した彼女は、生き血を吸い取られるというおぞましい選択をせざるを得なかったのだ。
婚約者のいる身で、良家の娘が道を踏み外した行動に走ることを、吸血鬼はひどく悦んでいた――
招き入れられた別室で二人きりになると、吸血鬼はいった。
「わしがどこを咬みたがっているか、わかっておるな?」
「は、はい・・・」
「声に出して、それをわしに教えてはくれまいか」
控えめな茶髪の頭をかすかに揺らして、桃花はちょっとの間だけためらったが、
引き結んでいた唇をおもむろに開くと、いった。
「首すじ、肩、胸、脇腹。それに脚――でいいですか」
吸血鬼は、彼女の答えに満足したようだった。
おもむろに彼女の足許にかがみ込むと、桃花のふくらはぎをなぞるように撫でた。
発育の良いむっちりとした脚が、茶系のストッキングに包まれている。
立ちすくんだ脚がたじろいだように揺れたが、吸血鬼は許さない。
パンプスを穿いた脚の甲を抑えつけ、なん度もしつように、くり返し撫でつけてゆく。
さいしょはいつ咬まれることかとおびえ切っていた桃花だったが、
やがて自分の足許にうずくまり脚を撫でつづけている吸血鬼が、
ストッキングの手触りを愉しんでいるのが、ありありとわかった。
「なんていう色?」
吸血鬼は訊いた。
履いているストッキングの色を訊かれることを、
まるでスカートのなかに匿(かく)しているパンティの色を訊かれたように羞じらいながら、桃花の唇がかすかに動く。
「ア・・・アーモンドブラウン・・・」
「ウフフ、きみの脚に似合っているね」
吸血鬼は嬉し気にそう呟いたが、彼女の顔が屈辱に歪むのを認めると、「すまないね」とだけ、いった。
行為はこともなげに始まった。
ひざ丈のタイトスカートのすその下、ふくらはぎのいちばん肉づきのよいあたりに、
飢えた唇が、アーモンドブラウンのストッキングの上から圧しつけられた。
薄地のストッキングを通して、唾液を含んだ唇のすき間から、ヌラリと濡れた舌が、ねぶりつけられる。
薄地のナイロン生地がみるみるうちに、欲情たっぷりなよだれにまみれてゆくのを、
桃花はキュッと瞼を瞑って耐えた。
口許から一瞬だけ覗いた鋭い牙が、若い下肢に埋め込まれる。
アッ・・・
耐えかねたような小さな叫びが、半ば開いた大人しやかな唇から不用意に洩れた。
処女・・・なのだね?
吸血鬼の囁きに、桃花は応えようとはしなかった。
・・・・・・。
・・・・・・。
床のうえにあお向けになった市役所の制服姿にのしかかり、吸血鬼は新任の係長、常川桃花の首すじに、唇を貼りつけている。
ひざ丈のタイトスカートは強引にたくし上げられて、太ももまでがあらわになっていた。
桃花の足許をなまめかしく染めていた茶系のストッキングは、吸血鬼の牙と唇の蹂躙に遭って、派手な裂け目を拡げていた。
裂けたストッキングを履いたままの脚が切なげに、緩慢な足摺りをくり返している。
それ以外に、抵抗のすべをもたないのを嘆くかのようなけだるげな足摺りも、いつか失血のために徐々に動きを止めていった。
欲情に満ちた唇が、健康そうな素肌の上をヒルのように蠢いて、
自分の手に落ちた若い女の柔肌の舌触り、それに体温を、ぞんぶんに愉しんでいる。
こくり、こくり・・・と喉を鳴らして、この潔癖な21歳OLのうら若い血液は、魔性の喉に飲み込まれていった――
その一週間前のこと。
若い市役所職員の里川肇は、市役所の廊下で尻もちをついた格好のまま、吸血されていた。
背中を壁に抑えつけられ、首すじを咬まれている。
太くて鋭い牙は、男の首すじをなんなく食い破り、ワイシャツの襟首を血で汚しながら、
傷口のうえに飢えた唇をせわしなく、蠢かせてている。
肇は桃花の婚約者だった。
吸血鬼はキュウキュウと不気味な音をたてながら、肇の生き血を啖(くら)い取っている。
「あー・・・、あー・・・」
微かに洩れる悲鳴をなだめるように、吸血鬼は肇の髪を丁寧に撫でつけている。
男にしては、長めの髪だった。
失血のせいか、肇の上半身は力を喪い、横倒しに倒れていった。
それでもなおかつ、吸血鬼は肇の血を吸いやめようとはしなかった。
今度はスラックスのすそを引き上げて、ヒルのように貪欲な唇を、肇のふくらはぎに靴下のうえから吸いつけてゆく。
破けた靴下に生温かい血がしみ込むのを感じながら、肇は意識を薄らげていった――
「ぼ、ぼくの靴下を破いたみたいに――」
肇は、喘ぎ喘ぎ、いった。
「桃花さんの穿いているストッキングを、いたぶろうというおつもりですか・・・?」
「もちろんだ」
吸血鬼は、しずかにいった。
「わかりました・・・」
肇はうなだれた。けれどもけなげにも、彼はいった。
「桃花さんのストッキング――ほかのやつに愉しまれてしまうのは悔しいけれど・・・
彼女が恥ずかしい想いをしながら破かれてしまうのなら・・・せめて存分に愉しんでくださいね」
「理解のある男だな、きみは――」
吸血鬼は、貧血でくらくらとしている肇の頭を抱きとめてやり、しみじみとつぶやいた。
変わった青年だった。
都会の大学を出て当地に赴任してきて、同じ職場の桃花と知り合った。
市が吸血鬼集団に屈してしまったことを知りながら、彼は内定辞退者が多く出るのをしり目に、予定通り職員に採用された。
半年ほどの交際期間を経て桃花と婚約したころにはもう、
役所の職員のうち既婚者の半数は妻を吸血鬼に食いものにされていたし、
女子職員もその三分の一が、吸血鬼を相手に処女を喪失したとうわさされていた。
「わたし、吸血鬼に咬まれちゃうかもしれないですよ。
咬まれたら夢中になって、あなたどころじゃなくなっちゃうかもしれないですよ。
処女だって奪(と)られちゃうかもしれないし、でも拒んだらダメっていうし・・・
奥さんになるひとがそんなふうになっちゃっても良いんですか?」
交際を申し込んだとき桃花はそういって、いちどは肇の求婚を辞退した。
けれども肇はあきらめなかった。
彼らは人間の女性と、結婚することはできないそうだ。
だから、きみを見初めた吸血鬼がいたら、教えてほしい。
ぼくはそのひとと何としても仲良くなって、
もし望まれたなら――きみの純潔をよろこんでプレゼントするくらいの関係になってみせるから――
桃花は目を見開いて、しげしげと肇を見、
けれども彼の奇妙な申し出を笑い飛ばしたりはせずに生真面目に頷くと、彼の求婚を承知したのだった。
「きみの恋人は素晴らしい。処女だった。処女の生き血というものに、久しぶりにありついた――」
桃花の血を吸い終えたあと。
肇をまえに吸血鬼は、舌なめずりせんばかりに随喜の想いをあらわにしている。
「処女だった」
という言い草を耳にした肇は、目の前の吸血鬼が桃花の純潔までも散らしてしまったのかと一瞬おもった。
むろん彼らは、処女の生き血を格別好んでいたし、
品行方正な若い娘をつかまえて、さいしょのひと咬みで処女を奪ってしまうようなことはしないはずだった。
その点は、人妻狙いの吸血鬼とは違っていた。
セックス経験のある婦人は、生娘とは対照的に、いちど血を吸われると例外なく、その場で犯されてしまうのが常だったから。
吸血鬼が市役所の女子職員や職員の妻を襲った後、
その婚約者や配偶者は、吸血鬼との面談することを義務づけられていた。
吸血鬼たちは、彼女たちのパートナーをも征服し、支配することを望んでいたからだ。
妻を犯されたことに不満を持ち、いうことを聞かない夫がいたら、その場で血を吸い尽くして、
「きみを妻の愛人として、よろこんでぼくの家庭に迎えよう」というまで、放さないのだった。
彼らの牙の犠牲となった女たちの男性パートナーたちは、
目のまえの男が喉の渇きを潤すために最愛の女性の生き血を使用したことのお礼代わりに、
自身にとって大切な女性が、いかに彼らを満足させたかをこと細かに聞かされるのだった。
残酷すぎる面談だったが、里川はあえて自分から、面談を希望した。
「では、桃花さんの生き血は貴男のお気に召したのですね?」
肇は目を輝かせて、吸血鬼にいった。
「きのうきみの身体から吸い取った血と、さっき桃花の素肌から抜き取った血とが、
わしのなかで仲良く織り交ざって、脈打っておるのだよ」
しずかにこたえる吸血鬼の言い草に、肇は股間を熱く火照らせてしまっている。
マゾの血が、ぼくの身体のすみずみまで脈打っている――
肇はそんなふうに感じた。
「常川くん、献血の用意はできているかね?」
課長に声をかけられた桃花は、「ハ、ハイ!!だいじょうぶです」と反射的に返事をかえしたが、
その場に肇がいるのを認めて顔を赤らめた。
通りかかった年配の女性事務員が桃花に笑いかけて、
「用意がいいね。パンストも、新しいの穿いてきたんでしょ?」
と、からかった。
桃花は真新しいパンストの脚を伸ばして、照れ笑いした。
吸血鬼に気に入られたアーモンドブラウンのパンストが、
ピチピチとはずむうら若い下肢に、つややかな光沢をよぎらせている。
わざと肇のほうは見ないで、桃花は席を起った。
女性係長の責務をまっとうし、若くて健康な血液を提供するために。
桃花が戻ってくるまでの時間が、ひどく長く感じられた。
ゆうに2時間は経っただろうか?
もしや桃花は、興が乗るあまりに犯されてしまったのではないか?
まさか、市庁舎のなかでそんな不謹慎なことを――と思い返してはみたものの、
そのようなことはすでに常識となりつつある昨今では、全くないとは言い切れなかったのだ。
吸血鬼は確かに、桃花の処女は結婚するまで守り通す――と約束してはくれた。
けれどもそんなものは、きっとどうにでもなってしまうのだと肇は知っていたし、
かりに桃花の処女が彼の手で早々と汚されてしまったとしても、桃花とは予定通り結婚するつもりだった。
汚された花嫁の手を取って華燭の典を挙げる――
そんな想像に、マゾヒスティックな想いが、ゾクゾクとこみあげてしまうのだった。
自分の理性がマゾの血で毒されつつあることを、肇はもう恥ずかしがってはいなかったし、
むしろそんな自分こそ桃花の花婿にふさわしいのだと感じていた。
「やっぱり私、婚約を破棄させてもらうわ」
桃花の声は冷たく、透き通っていた。
え――
肇は天を仰いだ。
いちばん聞きたくない言葉だった。
どうして?ぼくだったら、すべてを許すのに・・・
口にしかけた想いは、言葉にならなかった。彼は自分の意気地なさを呪った。
「私、一人の人にしか夢中になれない人だと思う。
いまのように中途半端な気持ちだと、あなたにも、吸血鬼さんに対しても、いけないことだと思ってる」
桃花にとって、彼女の血を日常的に愉しんでいる吸血鬼はもはや、至高の存在だった。
なので、自分自身だけのことではなく、「彼に対しても申し訳ない」と言われてしまうと、さすがの肇も返す言葉がなかった。
「なんとかなるじゃろう」
吸血鬼は肇にいった。
まだ貧血でくらくらする。
肇もまた、時折吸血鬼の誘いに招かれて、彼の館で血を提供する関係になっていた。
身にまとっている服は、桃花のものだった。
もちろん、桃花自身から借り受けたのではない。
吸血鬼が桃花との逢瀬を楽しんだとき、
桃花の身体から剝ぎ取って自分のものにした服を肇に着せて、
肇を桃花に見たてて吸血を愉しんでいるのだ。
それでも、いちど別れてしまった桃花がそばにいるようで、肇は満足だった。
見覚えのある服も袖を通したし、初めて見る服もあった。
桃花がプライベートでどんなファッションを楽しんでいるのかを、彼はこういう形で知っていたのだ。
身に着けた服は吸血鬼に返したが、桃花本人をゆだねてしまうような気持になった。
吸血鬼は桃花と逢うたびに服を取り替えさせているらしく、
肇は桃花の服をなん着も、愉しむことができた。
いちど肇が身に着けた服を着て、桃花が市役所に出勤してきたときには、
思わず股間が熱くなって、そそくさと部屋からトイレに直行したことまであった。
吸血鬼の舌でしつように舐めまわされた足許からは、
桃花の代わりに穿いていたストッキングがむざんに裂けて、
その裂け目から肌に直接触れる外気が、そらぞらしいほどに冷ややかに感じる。
桃花はこんなふうにして、彼を満足させているのか・・・
嫉妬で狂いそうになったが、それでも彼は桃花になり切って、吸血鬼にかしづくのだった。
桃花の服を身に着けて吸血鬼に抱かれることが、桃花が彼を裏切る行為をなぞっているのだとわかっていながら、
肇は桃花の恋人の欲求を拒むことをしなかった。
「桃花はわしの牙に惑うて、お前を捨てた。
わしはお前から桃花を奪った。
じつはお前は――恋人を奪われてみたかったのではないか?」
鋭い見通しに足許を震わせながら、肇は頷いてしまっている。
そうなのだ。
恋する人を奪われたい。
もっともみじめな形で、皆に暴露されてしまうような形で、婚約者を寝取られ奪われる。
勤務中、上司が桃花をからかって、今夜は彼氏とデートかい?と冷やかすと、
桃花は人目を憚らず照れ、羞じらった。
周囲の男女も、桃花が彼氏を乗り替えたのだと知りつつも、「ふぅ~ん、お幸せに♪」などと、いっしょになって冷やかしている。
だれもが、肇が婚約までした恋人を吸血鬼に寝取られたのを知りながら、桃花の新しい恋を祝福しているのだ。
呪わしい光景。呪わしすぎる光景。
けれども――
そんな惨めな風景のなかで、どうしてぼくは恥ずかしい昂ぶりから逃れることができないのだろう?
自分を襲った悲運に、肇はいちはやく反応して、
ナイフのように心臓をえぐる悲しみは、すぐさま心の奥底からの歓びに変わっていた。
吸血鬼はいった。
「このままで済ますつもりはない。
お前は、わしが捨てた桃花ともういちど、縁を結ぶ。そして今度こそ、ふたりは結婚する。
だがな――そのあとのことはむろん・・・わかっておるぢゃろうの?」
ほくそ笑む吸血鬼の顔つきが憎たらしいほどに、図星を刺してしまっている。
「お礼は・・・もちろんいたします・・・」
桃花に扮した肇は、桃花になり切ったかのように、女奴隷のような科白を口にしてしまっている――
「ほんとに・・・いいの?」
きまり悪そうに、桃花は口ごもる。
「もちろん、最初からそのつもりだったから」
いつも引っ込み思案な肇のほうが、むしろずっと、歯切れがよかった。
きみを寝取られたくてたまらないんだから――とまでは、さすがにいえなかったけれど。
桃花が再び戻ってきたことに、彼の血管の隅々まで、歓びがいきわたるのを感じていた。
「でもあたし、あの人に襲われたらまた、随っちゃうよ。たぶん今度こそ、征服されちゃうからね」
肇はもう、負けていない。
「できればぼくのまえで――征服されてほしいんだ」
上ずった声に、桃花はプッとふき出していた。
「ほんとうにあなた――マゾなのね」
華燭の典は、とどこおりなく挙げられた。
その前の晩、桃花は肇の立ち合いのもとで、吸血鬼を相手に処女を捧げた。
鼻息荒くのしかかる吸血鬼の劣情に組み敷かれ、踏みにじられるような初体験だった。
なにも知らない両親が当地に向かっているあいだに、
彼らが自家に迎え入れるはずの花嫁はすでに、その身体に不貞の歓びを覚え込まされていた。
けれども桃花もまた、すでになん度も口づけを交わし合った情夫を相手に、息を弾ませて応じていって、
明日着るはずだった純白のウェディングドレスを精液まみれにされながら、
花婿を前にしての不貞に、明け方まで興じたのだった。
明日は花嫁となる桃花が、清楚なるべき盛装をこの暴君のために身に着けたいと願った時、
肇は、彼女の嫁入りが一日早まったことを理解した。
明日の華燭の典のヒロインが、
嫁入り前の白い肌を惜しげもなくさらして、
イタズラっぽい笑みさえ泛べながら、
おずおずと身体を開いていって、
市役所の係長としての責務を全うしてゆくのを、
吸血鬼が桃花がきょうまで守り抜いてきた純潔を容赦なく汚し、
蹂躙し、
しんそこたんのうし、
心まで奪い取ってしまうのを、
肇は目を輝かせ、昂ぶりに息を詰まらせながら見届けていった。
花嫁の婚礼衣装を精液で彩られてしまった新郎はその晩、
新居の畳や床までも、おなじ精液で濡らすことを承諾させられた。
もちろん悦んで、承諾してしまっていた。
「わしの兄がな、肇の母上のことを見初めおった」
婚礼の席上、ひな壇に陣取る肇にビールを注ぎに行くふりをして、吸血鬼が肇に囁いた。
え・・・?
肇はさすがにびっくりして、吸血鬼を視た。
「安心しろ、うまくやる。
ぢゃが、事前に息子である新郎殿の了承を取ってから誘惑したいと、兄が申しておる」
――それが、ぼくに礼を尽くすということなのだろうか。いや、きっとそうに違いない。
肇はそう感じた。そして、彼の直感は正しかった。
なにもりも夕べ、吸血鬼が桃花の肉体を隅々まで味わい尽くしていったとき。
桃花の身体を、心を、ぞんぶんに愛し抜いていたことを肇は知っている。
たんなる性欲の処理行為などではなくて、
この吸血鬼は桃花のことを、しんそこ愛してしまっているのだ。
吸血鬼は花婿の目の前で桃花の純潔を辱め抜き花嫁への深い愛を示すことで、肇に対する礼儀を尽くし、
自身の花嫁が目の前で辱め抜かれるのを目の当たりにすることで、肇は吸血鬼への礼を尽くしていた。
礼服の股間が逆立つのを感じながら、肇は囁き返した。
「父のことを傷つけないのなら――」
「肇は優しい息子だな。心得た。お父上の名誉は尊重しよう」
――ぼくの名誉も尊重したくせに、桃花を犯したんですよね?
肇はクスッと笑い、吸血鬼をにらんだ。
さっきからお色直しで席を外している花嫁の白無垢姿を追いかけていった吸血鬼が、
花嫁を控室で押し倒し、さんざんにいたぶってきたことを、肇は知っている。
「妹御には、許婚がおられるのぢゃな」
「妹まで牙にかけるおつもりですか」
「むろんぢゃ。処女が好みなのは存じておろうが」
「ははー、かしこまりました。どうそ妹の純潔も、ぞんぶんに味わってください。ご兄弟♪」
妹婿になるという男とは、この場が初対面だったから、肇はさほどの同情を抱かなかった。
お色直しのたびに、吸血鬼は姿を消した。
花婿も同時に、着替えと称して座をはずした。
むろん考えることは、ひとつだった。
夕べ精液にまみれた純白のウェディングドレスは、花嫁控室のじゅうたんを彩り、再び花婿ならぬ身の精液に濡れた。
カクテルドレスに着かえた時も、いっしょだった。
新郎新婦の入場で、腕を組んで傍らに立つも桃花が、ドレスの裏側を白く濁った粘液でびっしょり濡らしているのを思い描いて、
肇はかろうじて勃起をこらえていた。
「白無垢のときね、あのひとに懐剣抜き取られて、もう身を守るすべがないのねって、すごくドキドキした」
ふたりして戻った婚礼の席で、新婦は新郎にそう囁いた。
肇の父の名誉を尊重するという約束を、吸血鬼の兄弟は律義に守った。
そのために、彼らはいささか込み入った筋書きを用意した。
最初は、肇の妹が狙われた。
「少しもったいなかったがね、他所の土地から来たものは、一発でキメちまったほうが良いのさ」
とは、吸血鬼の言い草。
夕べ新妻の桃花の処女を食い散らしたぺ〇スは、愛する妹の純潔までも、初めての血にまみれさせたのだ。
気の強い妹は、強姦されたときに引き裂かれたストッキングを穿き替えると、
気丈にも何事もなかったような顔をして席に戻り、
それ以後は彼氏の問いかけにも応じないで、式のあいだじゅう、ずうっと黙りこくっていた。
潔癖だったはずの股間を、淫らな毒液が浸潤してしまうのは、時間の問題だった。
そのつぎはいよいよ、彼の兄が肇の母を狙い想いを遂げる番だった。
肇の母の名は、登美子といった。
兄弟は、性格がよく似ていた。
両親の部屋に忍び込むとき、
「あの部屋を出るころまでには、あの女のことを登美子と呼び捨てにすることを、
きっとご夫君から許されておることぢゃろう」
と、豪語した。
式がはねて、その晩泊る部屋に戻った肇の両親は、そこで吸血鬼の訪問を受けた。
くしくもその部屋は、昨晩当家の嫁が身持ちを堕落させたのと同じ部屋だった。
吸血鬼はおだやかに、夫妻に祝いの酒を進め、酔うままに打ち解けるままに、
自分の弟が新婦を挙式前から誘惑しつづけてきたと語り、
そして首尾よく、新郎の寛大なる理解と手助けを得て花嫁の純潔を手に入れたことを暴露した。
そのころには毒液を含んだ美酒は夫妻の血管を駆け巡り、理性を犯され始めた肇の父は、
息子が悦ぶことでしたら、それはけっこうなことですなどと、応じてしまっていた。
つぎは貴方の番ですよ――吸血鬼は意地悪く笑う。
貴方のまえで奥方を誘惑したい、黒留袖の帯というものをいちど、ほどいてみたい――とせがまれて、
せがまれるままに断り切れず――
腰の抜けてしまった肇の父は、うろたえる妻が着物の衿足をくつろげられて、帯を手ぎわよくほどかれてゆくのを、目の当たりにする羽目になった。
いけませんわおよしになって、主人のまえでと戸惑う声は、ディープ・キッスでふさがれてゆき、
肇の父も熱に浮かされたように、家内の貞操を貴方に差し上げますと誓ってしまっていた。
うろたえる夫。
うろたえる妻。
脱ぎ放たれた黒留袖を下敷きに獲物を組み敷いて、鼻息荒く迫る吸血鬼。
妻の黒留袖姿をまえに、
飢えた吸血鬼が行儀悪くよだれをしたららせながら襲い掛かるのを、
夫君はもはや制止しようとはしなかった。
そんなふうにして。
肇の父は惜しげもなく、長年連れ添った妻の貞操を、思い存分散らされていったのだ。
夫しか識らなかった股間はいかにも無防備で、
度重なる遠慮会釈ない吶喊に、分別盛りのはずの婦人の理性は、いともかんたんに崩れ落ちていった。
齢相応の分別というものをすっかり蕩かされた登美子は、
情夫に自分を呼び捨てにするのを許し、夫にも許してほしいと懇願していた。
彼の豪語は実現したのだ。
そして明け方になるころにはもう、今夜が自分にとっても婚礼だったのだということを思い知っていた。
夫君は気前良くも、きみと登美子は似合いのカップルだとふたりの仲を祝福し、
もはや登美子はきみのものだ、もしもきみが登美子をわたしから奪うというのなら、わたしは悦んできみの意向に随おう、
最愛の妻の名字を、きみの名字に置き換えてもかまわない――とまで申し出た。
しかし吸血鬼は、登美子をわしの奴隷にすることはのぞむところだが、
ご夫君のご令室のまま愛し抜き辱め抜きたいのだと希望した。
妻を犯された夫君が、吸血鬼の申し出を歓んだのは、いうまでもない。
こうして吸血鬼は結果的に、夫君の名誉を守ったのだった。
こうして吸血鬼の兄弟は、かたや弟が花嫁の純潔を勝ち得て、
つづいて兄が翌晩に、嫁の不貞を最も咎めるべきはずの姑の貞操を、辱め抜くことに成功したのだった。
夫君にも、褒美が与えられた。
最愛の妻の貞操を惜しげもなくプレゼントしたのだから、当然その資格があると、吸血鬼の兄弟はいった。
褒美とは、彼らが伴ってきた愛娘のことだった。
そう――夫君は心の奥底で、自分の娘を犯したがっていたのだった。
夫妻の血を吸い取ることで夫君の禁断の願望を悟った兄の吸血鬼に促されて、夫君は自分の娘を、その許婚の目の前で抱いた。
着飾ったよそ行きのドレスを反脱ぎにされて、肌色のストッキングを片方、ひざ下に弛ませたまま脚をばたつかせる彼女を前にうろたえる許婚に、肇はいった。
ぼくも夕べ、きみとまったく同じ体験を愉しんだのだ――と。
妹の許婚は、婚約を破棄することをあきらめて、未来の花嫁のために吸血鬼の愛人を新居に迎え入れることに同意した。
花婿二人は、獲物を取り換え合う獣たちを前に、
自分の花嫁がイカされてしまう光景にはらはらしつつも、
記念すべきその一日を、白昼の情事で極彩色に染めたのだった。
あとがき
お話、大きく前編と後編にわかれます。
前編は、結婚を控えた桃花が吸血鬼に狙われて、婚約者を裏切ってその餌食になるお話。
後編は、桃花と吸血鬼との関係を受け容れた肇の母親が婚礼の後、夫のまえで嫁の情夫の兄に犯されて、奴隷になってしまうお話。
まとまりのない話になってしまいましたが・・・どちらも好きなプロットです。^^
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