淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・
妻を喪服にするために。
2022年09月10日(Sat) 00:27:46
はじめに
だらだらと長く、煮詰まってしまいました。。
そのまま捨ててしまうのももったいないので、あっぷしてみます。
おひまなときにどうぞ。^^
夜風が虚しく、ひゅうひゅうと、吹いていた。
寒々とした気分を抱えて、空っぽもまっぽに待った身体を抱えて、わたしは夜道を歩いていた。
総身をめぐる血液を引き抜かれたあとの、虚しいような、小気味良いような記憶が、ひたひたと残っていた。
すこし前まで真人間だった記憶は、しっかり残っているけれど、。
そんなことをされては困る・・・と、たしかに訴えたつもりだったけれど。
首すじを咬まれ、暖かい血液を吸い出されてゆくうちに、気分がグッと昂ってきて。
さいごのさいごには、もっと吸ってくれ・・・全部吸い取ってくれ・・・と、懇願していた記憶も、ありありと残っている。
きょうがどういう日かも、今夜がどういう夜かも、しっかりと認識していた。
そう――今夜は自分の、お通夜だった。
勤め帰りの夜道に、吸血鬼に出くわして。
生き血を一滴余さず吸い取られたあとの、あと始末だった。
妻は今ごろ涙にくれて、自分の棺に寄り添ってくれているだろう。
けれどもその棺の中はじつは空っぽで、
わたしはこうして、渇いた喉を抱えながら、夜道を徘徊している・・・
今となっては、自分の生き血を残らず吸い取ったさえない年配男の気持ちが、わかるまでになっている。
きっとあの男は――わたしの生き血をそれは美味しく、吸い取っていったはずだから。
生き返ったようだな。
傍らで、話しかける声がした。
姿はみえなかったが、声の主がだれなのかは、すぐにわかった。
わたしの生き血を一滴余さず吸い取った、この街に徘徊する吸血鬼。
血のない身体と化したわたしは、数時間前の真人間の間隔よりも、よりいっそう彼の感覚に近いものをもっていた。
三十代の、まだ若さの宿った生き血を、たんねんに美味しそうに吸い取ってくれたことを、
今では感謝の気持ちすら抱き始めていた。
生き返ったようですね・・・
わたしは他人ごとのように、男の言い草をくり返していた。
どうだね?気分は。
男はいった。
悪くはないです。いや、普通かな・・・
わたしはこたえた。
そんなものなのだよ。
男は囁いた。
何故かその言葉に、ひどく納得してしまっていた。
そう。
普通なのだ。
生き血を一滴余さず吸い取られてしまったのに。
抜け殻どうぜんになったはずのこの身を抱えて、ふつうに夜道を歩いている。
わたしの生き血を吸い取った彼にしたって、数年前にはわたしと同じように、
その身に宿した生き血を、だれかに吸い取られていったのだろう。
むしろ――わたしの血液が、男を悦ばせたことを。
わたしは嬉しく感じ、誇りに思い始めていた。
なぜならわたしは、吸血鬼になりかけていて。
そのために、その身にじゅうぶんな血液を通わせていたころとはかけ離れて、
「彼ら」のほうへと、よりシンパシーを感じるようになってしまっていたから。
旨かったからね、全部いただいてしまったのだよ。
ヌケヌケと語る彼を相手に、
お口に合って何よりでした。
美味しく味わってもらえたなら、全部飲まれてしまっても、納得できますよ――
などと。
躊躇なく応えてしまっていた。
もう少しだけ、咬ませてくれないか。
もう・・・血は残ってないのですよね?
いや、そんなことはない。いつでも吸えるよう、少しだけ残しておいた。
それは・・・どうも・・・
吸われる歓びを感じる権利を、まだ有していることに。
ほのかに密やかな満足を感じていた。
立ち止まるわたしの両肩を、男は支えるように抱きすくめて、
あのときと同じように、もう一度わたしの首すじを咬んだ。
痛痒いような。くすぐったいような。
傷口を通して血液を抜かれる、あの無重力状態が。
ふたたびわたしの身によみがえった。
あのときのように。
すぅっ・・・と気が遠くなって、ふらふらとその場にくず折れると。
男はわたしのスラックスをたくし上げ、丈長な靴下をほんの少し引き伸ばして、
わざわざ靴下のうえから、咬みついてきた。
靴下を咬み破られる――
それはなんとも、屈辱的な仕打ちだったけれど。
わたしはむしろ嬉々として、わたしの生命を奪ったその男に、通勤用の靴下を咬み破らせていった。
ほんとはね。
わしの狙いは、あんたじゃなくて――奥さんのほうだったんだ。
わたしの血など取るに足らない――と本音を言われたような気がしたけれど。
それでもわが身をめぐる血潮をすべて捧げたことへの満足感は、損なわれなかった。
今夜――
妻は黒一色の、洋装のブラックフォーマルを装って、
スカートのすそからは、薄墨色の靴下に染まった脚を、弔問客のまえにさらけ出している。
ふしぎなものだね。
男はいった。
あれほどそそる眺めなのに、だれもあんたの奥さんにそそられたり、襲ったりしようとはしないのだから――
わしはあんたの奥さんに、黒のストッキングを穿かせて、
泣き叫ぶ喪服姿を抑えつけて、喪服のすき間から、あの白い素肌に咬みついて。
その身にめぐる麗しい生き血を、一滴余さず、吸い取ってやるつもりなんだ。
あんたはあんたの奥さんに対してそんな不埒なことをもくろんでいるわしに、力を与えるために。
かけがえのない生き血を、一滴余さず吸い取られたというわけだ。
邪まな想いにすぎないことは、じゅうじゅう承知している。
けれども、ここまでしてまでわしは、
奥さんに黒のストッキングを穿いてもらって、咬み破り辱めながら生き血を啜りたいという欲求を、こらえ切れなかったのだ。
あんたはわしに、わしがあんたの奥さんの血を吸い取ることに――同意してくれるだろうね?
どうしてわたしはその時に、
エエよろこんで・・・
などと言い添えて、
ためらいもなく頷いたりなどしてしまったのだろう?
けれどもわたしは、なんの抵抗もなく、不審感もなく、
ずいぶんと念の入ったことですね・・・などと、苦笑しつつも。
わたしの血液を飲み尽くしてしまったその男の恥知らずな喉を、なおも満足させるため。
最愛の妻の生き血を無償で提供することを、よろこんで約束してしまっていたのだった。
家内の生き血――わたしのとき以上に、美味しく味わっていただけるのですね?
わたしの問いに、彼がくすぐったそうな笑いで応えるのを。
すっかり吸血鬼の感覚になじんでしまったわたしは、ひどく好もしく感じてしまっている。
もはや真夜中近く。
弔問客はすべて、引き払ってしまっていた。
ふつうなら、夜通しの蠟燭を守るために、ひとりやふたり、代わりがいてもおかしくないのに。
だれもかれもが、引き払っていた。
その夜に訪問客がいて、
妻は、彼女の夫の生命を吸い取った男を相手に、
その喉の渇きを飽かしめるために、
われとわが身をめぐる血潮を捧げ抜いてしまうのだと――だれもがわかっていたのだから。
きっとあの男のために、みんな気をきかせたのだろう。
あの方のお愉しみを、じゃましてはいけない――
だれもがそう言い交わして、喪家をあとにしたのだった。
そう。
男の弔問客の半数は、自分の妻や娘の生き血を、彼のために提供してしまっていたのだし。
女の弔問客の全員は、自身の血液を吸い取られ、彼のための娼婦になり下がっていたのだから。
夫婦で赴任したこの街は、
古風なたたずまいの裏側に、ひどく変わった風習を押し隠している。
喉をからからに渇かせた吸血鬼のために、
この街の人たちは、自分自身や家族の血液を、無償で提供している。
ふつうは、生命まで断たれるほどには吸い取られないはずが。
わたしが一滴余さず血液を吸い取られてしまったのは、いったいどうしたことなのだろう?
その問いに、男はすぐにこたえてくれた。
旨かったのさ。
男のこたえは、単純明快だった。
わたしはなぜか、素直に納得してしまっていて。
――それは嬉しいですね。
とっさにそう、こたえてしまっていた。
そういえば。
路上に抑えつけられてガブリと咬まれたそのときに。
ワイシャツに血を撥ねかせてしまいながらわたしは、男の貪欲さに辟易としていた。
チュウチュウ、キュウキュウと、あからさまな音をあげながら。
男はわたしの血を、さも旨そうに、啖(くら)い取っていった。
生命の危険をひしひしと感じながら。
男がわたしの首すじに咬みつき、スラックスを引き上げて靴下の上からふくらはぎに咬みついてくるのを、
拒みもせずに、むしろすすんで、靴下を咬み破らせてしまって、
三十代の働き盛りの血液で、やつの喉を潤すことに熱中しきってしまっていた。
喪家となったわたしの家は、
棺の置かれた部屋だけに灯りが点されていて、
妻は身体の線がぴったりと透ける漆黒のワンピースに身を包んでいて、
わたしの死を悲しんでいた。
妻の総身をめぐる血潮は――
彼に吸い取られるために、脈打っていた。
ごめんくださいね。
男はぞんざいに、妻に声をかけると、
妻はわたしの姿が目に入らないのか――そこでわたしは、自分が幽霊なのだと自覚した――、
目を見張って、自分の夫の仇敵を見つめていた。
相手の素性も、自分の夫の体内の血液を一滴余さず楽しんだことも、よくわかっている顔つきだった。
あの・・・あの・・・
妻は口ごもりながらも、夜更けの弔問客に応対しようとした。
けれども男の意図した応対は、彼女の予想よりもずっと、淫靡で露骨なものだった。
わかっていると思うが――
男はいった。
わしの身体のなかにだんなの生き血がめぐっているうちに、あんたの生き血も搾り取ろうというわけさ。
妻は立ちすくみ、蒼白になった。
そんな・・・なんてことを仰るんですか・・・
妻は怒りと恐怖で蒼白になって、立ちすくんでいた。
殺すつもりなどないよ。
男はいった。
ただ、あんたの熟れた総身にめぐる血潮を、舐め尽くしてしまいたいだけなのさ・・・
露骨な舌なめずりは、淑やかに装われた黒のストッキングの足許へと、向けられていた――
きゃあっ。
妻はわたしの棺のまえ、棒立ちに立ちすくんで、
早くも首すじを、咬まれていた。
わたしのときと、まったく同じ経緯だった。
漆黒の喪服のブラウスに、赤い血潮を撥ねかせながら。
ゴクゴクと喉を鳴らせて飲み味わわれていった――
夫の生命をいともむぞうさに断った男に、
有無を言わさず、つかまえられて。
夫の首すじを咬んだ牙に、潤いを帯びた熟れた素肌を食い破られて、
わたしの時と同じように、
チュウチュウ、キュウキュウとあからさまな音を立てながら、
妻の生き血は、貪られていった――
倒れてしまうと取り返しのつかないことになる。
それを察していたのだろう。
黒のストッキングの脚を、精いっぱい踏ん張りながら。
妻は無作法な吸血に、耐えつづける――
薄地のナイロンに艶めかしく透けるピンク色の血色が、余さず舐め尽くされてしまう危機に瀕していた。
飢えているんだね?
わたしはいった。心と心で、妻の耳には届かない会話が成り立っていた。
ああ、飢えている。
男はこたえた。
そう――きっと。
あの淫らな喉の渇きを潤すのには、わたしの血だけでは、足りなかったのだろう。
家内の生き血は、美味しいのかね?
わたしはいった。
旨い・・・しんそこ旨い・・・
男はこたえた。
それは良かった――
わたしは思わず、呟いていた。
どうせ飲み味わわれてしまうのなら、美味しい――そういってもらったほうが、はるかに嬉しい気がしていた。
はぁ、はぁ・・・
ふぅ、ふぅ・・・
失血のあまり、妻は肩で息をしていた。
華奢な身体を包む喪服を、めいっぱい仰け反らせて。
自分の夫の仇敵を相手に、
喉をカラカラにした吸血鬼を相手に、
それはけんめいに、かいがいしく。
好むと好まざるとにかかわらず。
妻は我とわが血潮を、無償で提供しつづけていった。
それがわたしの目にはなぜか、妻に対する同情を忘れさせて、
むしろ――自分の血を吸い取った男のために、
旨そうだな。
よかったな。
人妻の生き血にありつけて、ほんとうに良かった。
家内の血が口に合って、ほんとうに良かった。
忌むべきはずのそんな想いを、ごくしぜんに、ふくらませていた。
ひたすら眉を寄せ、迷惑そうに顔をしかめながら、
自らの血液を、無償で提供しつづける妻のことを、
がんばれ。がんばれ。
応援してしまっている自分がいた。
妻はけなげに振舞って。
夫の生命を奪った男の喉の渇きを飽かしめるために、
三十代の人妻の血潮を、くまなく舐め尽くされていった。
男は、妻の首すじだけでは、満足しなかった。
スカートのすそから覗く、黒のストッキングに染まったふくらはぎに、もの欲しげな視線を這わせたとき。
妻は男の欲求をすぐに察して、ひどく戸惑い、うろたえながら。
いけません、よしてください。恥ずかしいです。お願いですからと、懇願した。
もとより――男が妻を放すはずはない。
あわてふためく妻を、畳のうえに抑えつけて。
薄墨色に染まったふくらはぎに、欲情に滾る唇を吸いつけて。
ヌメヌメ、ネチネチと、いたぶっていった。
わたしを弔うために装った、黒のストッキングを、
ふしだらに波打たせ、皺くちゃにされながら。
妻は顔をしかめて、男の非礼を咎めつづけた。
むろん、男は妻の叱声に、いっそうそそられたかのように。
清楚な黒のストッキングの足許に欲情しながら、
よだれを帯びた唇と、劣情をみなぎらせた舌をなすりつけて、
わたしの靴下を濡らした時よりも、はるかにしつように、
ぬらぬら、ネトネトと、だらしのないよだれで、薄地のナイロン生地を、濡らしていった。
やがて、こらえかねたように――
ずぶり・・・。
男の牙は、妻のふくらはぎの、いちばん肉づきのよいあたりに突き立って。
黒のストッキングを咬み破りながら、
渇いた喉を、不埒な欲求を満たすために、
キュウキュウ、チュウチュウと、あからさまな音を洩らして、
妻の生き血を、貪婪な食欲もあらわに、啜り取っていった――
夜明けが近くなったころ。
失血のあまり肩を弾ませていた妻は、
あぁ・・・と、絶望のうめきを洩らす。
そう。
有夫の婦人が吸血鬼に襲われると。
ほぼ例外なく、凌辱を受けてしまうということを。
妻は身をもって、思い知らされてしまうのだ。
男がわたしの生命を奪ったのは、
妻に喪服を着せて、黒のストッキングを穿かせるため――
喪服姿の三十代の未亡人を、辱め抜いて征服するため――
たったそれだけのために、わたしは体内の血液を一滴余さず吸い取られてしまった。
わたしが襲われた夜。
総身をめぐる血潮を、ほとんど舐め尽くされかけたとき。
わたしは彼の、妻に対するけしからぬ意図を告白されて、
それでももはや、自分の生命を手中にされてしまったわたしは、
きみの奥さんを凌辱したい。
わたしの血潮で牙を染めながらそう言い募る男をまえに、
わたしは一も二もなく、賛同してしまっていた。
わたしの血がお気に召したようなら、嬉しいので全部吸い取ってくださいと、
懇願の言葉さえ、口走ってしまっていた。
お前は自分の妻を、わしに犯されたいのだな?
念を押すような囁きを、毒液のように鼓膜に吹き込まれながら、
わたしは強く、頷き返してしまっていた――
はい、家内のことを、あなたに辱めていただきたいと、本気でおもっています・・・
三十代の人妻の生き血で、
引き抜かれた牙を染めながら。
妻はいつしか、吸血される行為に、惑乱していた。
わたくしを欲しくって、主人を殺めたとおっしゃるのですね。
とても嬉しいわ。主人を殺してくれて。
そこまでして、わたくしを欲しがるなんて。
女冥利に尽きることですわ。
死ぬほど辱められたいわ。
わたくし、貴男の奴隷になるわ。
主人の遺影のまえで、主人のことを裏切り抜いてしまいたいの・・・
喪服のスカートの奥を、イヤらしくまさぐられながら。
妻はもう、淫らな昂ぶりを隠そうとはしていない。
咬み破られたパンストを、唯々諾々とずり降ろされて。
薄いショーツ一枚で隔てながらも、淫らな舌に股間を舐め尽くされて。
しまいにはそのショーツさえ、自分の手で引き裂いて。
妻はゆっくりと、脚を開いてゆく――
わたしのことを弔う気がまだあるかのように、
片脚だけ通した黒のストッキングは、ふしだらな皴を波打たせながら、
ひざ小僧から脛へ、脛から踝へと、じょじょに剥ぎ降ろされてゆく。
赤黒く逆立った一物が、
漆黒のスカートの奥に、もの欲しげに侵入していって。
咬まれたときと同じくらい、淫らに眉を翳らせながら。
荒々しい上下動に、腰の動きを合わせていった。
わたし以外の精液を、初めてその身に受け容れて。
淑やかな喪服姿を、好色な腕に撫でつけられて、堕とされてゆく。
慎ましやかで、淑やかだった妻。
そんな彼女は、もういない。
いまは、わたしの前と自覚しながら、身をおののかせつつ、辱めを悦ぶ女。
守り抜いてきた貞操を、惜しげもなく泥に塗(まみ)れさせ、
わたしの名誉を、ためらいもなく貶めてゆく。
それを見守るわたし自身も。
貞淑な妻が、娼婦に変えられてゆく有様を。
嬉々として、見守りつづけている――
あら、あなたいらしたの?
妻はふと我にかえって、わたしを見やる。
好色な腕の中に、囲われるように抱きすくめられた格好のまま。
わたしを裏切る行為に、腰の動きをひとつにしながら、
淫らな吐息に、息弾ませながら、
うわべだだとお互いにわかり抜いている、見え透いた謝罪を、くり返す。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
裏切っちゃって、ごめんなさい。
よりにもよって、あなたを弔うお通夜の席で、喪服を着崩れさせてしまって。
あなたの生命を奪った男の、わたくし愛人にしてもらえるなんて。
思いもよらなかったけれど――
いまはもう、この人の名字で呼ばれてみたい気分なの。
わたしはわれ知らず、唇をわななかせながら。
忌むべき祝福を、口にしてしまっている。
きみがぼくの親友に心を許してくれて、嬉しく思っている。
彼には、若い女の生き血にありつくことができたのが、自分のことのように嬉しいんだ。
最愛の妻の生き血が口に合うということが、半吸血鬼となったいまのわたしにとって、どれほど嬉しく誇らしいか、とても表現しきれない。
きみを奪(と)られてしまうのは、もちろん悔しいことだけれど――
当家の名誉を泥まみれにしてしまうことも、もちろん残念には違いないのだけれど――
それでもきみが彼に愛され抜いてしまうことが、ぼくにはとても、誇らしいんだ――
数か月が経った。
わたしは奇跡的に蘇生したとして、周囲によろこばれながら、自宅に復帰した。
夫婦の生き血を餌食にしたあの男は、わたしを生きながらコキュにして弄びたくて。
辱め抜かれる愉しみに目ざめたわたしも、
夫を侮辱する歓びに目ざめた妻も、
彼の恥知らずな意図に、賛同していた。
彼女はわたしの苗字を帯びたまま、不貞を悦ぶ妻として知られるようになっていた。
最愛の妻の貞操を無償でプレゼントした代償に、わたしは総身の血を抜かれて、今度こそ吸血鬼になって――
母や、妹や、兄嫁たちを手当たり次第に襲っては、その夫たちの好奇の視線を浴びながら、弄ぶ歓びに目ざめていた。
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