淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・
通勤用の靴下を破かれながら~ある夫婦赴任者の末路~
2023年06月15日(Thu) 13:51:39
【あらすじ】
前作と同工異曲。
この街に来て、ようやく一週間が経った。
吸血鬼のいる街だと聞かされて戦々恐々として家族と移り住んできたのに、
拍子抜けするほど何事もない。
きょうも廻河恵介(41)は、早すぎる退勤時間に戸惑いながらも、事務所を出た。
今でもその時のことを、あのときはいきなりでびっくりしたな――と思い出す。
襲撃はそれくらい、唐突だった。
社屋を出てすぐから、だれかが黒い影のようにひっそりとあとを尾(つ)けてくるのに、この不運な転入者は気づかなかったのだ。
背後から忍び寄ってきたその黒い影は、あっという間に恵介のことを、その力強い猿臂に巻き込んでいた。
「あ、なにを――」
声をあげた途端、首すじに尖った異物がずぶりと突き刺さるのを感じた。
疼痛を圧し包むように生温かい唇が柔らかに圧しつけられて、
にじみ出る血潮をチュウチュウと吸い取られてゆく。
「お、おい、きみ・・・っ」
恐怖に上ずった声が途切れた。
黒影はにんまりと笑むと、男の首すじに突き刺した牙を、根元まで突き通していった。
つぎに恵介が我にかえったのは、事務所の近くの公園のなかだった。
ふだんは人も来ない生垣の裏側に、引きずり込まれていたのだ。
吸血鬼がだれにも邪魔されずに獲物をたんのうするときによく使う場所だと、そのときの恵介はまだ知らない。
黒影は恵介のスラックスを引き上げると、こんどは足許に唇を圧しつけてくる。
恵介の靴下は丈が長めだった。
紺地に赤の縦のストライプの走ったしなやかな生地が、ふくらはぎの半ばまでを覆っている。
その上から圧しつけられた唇は、すこしの間恵介の靴下の舌触りを愉しむかのようになすり付けられた。
這わされた舌が分泌するねっとりとした唾液がじわじわと滲んでくるのを感じた。
恵介が意識を取り戻したのを、影はかすかな身じろぎでそれと察して、
抑えつける掌に、いっそう力を込めてくる。
首すじの疼痛が、ジンジンと響いた。
短い時間に少なからぬ量の血を奪われたのを、恵介は自覚した。
だらりと垂れた手足には力が入らず、けだるげに草に埋もれたままになっている。
「おい、きみ、一体何を・・・」
ふたたびあげた声は、またしても途切れた。
唇の両端からにじみ出るように突き出た尖った歯が、靴下ごしに皮膚を破って食い込んできたのだ。
滲んだ血が、靴下に生温かくしみ込むのを感じた。
「や、やめてくれっ!」
恵介は恐怖に縮みあがって叫んだ。
けれどももとより、黒い影は手かげんをしようとはしない。
飢えに任せて、渇きに任せて、ただひたすらに恵介の靴下を濡らしながら、こぼれ出てくる血潮を口に含み、喉を鳴らしてゆく。
首すじも、まだ噛まれていない側をもういちど嚙まれた。
ジュルジュル音を立てて、血を啜られながら恵介は、
意外にも、それが決して嫌な気分ではないことに気づきはじめていた。
恵介の耳もとで聞えよがしにゴクンゴクンと喉を鳴らすと、やっと唇を放して、
手の甲で口許を拭い、黒影は初めて、満足そうな吐息を洩らした。
旨い――と呟くのが、恵介の耳にも聞こえた。
「ど、どうするつもりなんですか!?」
切迫した響きを帯びた恵介の問いに初めて、影がこたえた。
「あんたの血を少しだけ、楽しませていただく」
「こ・・・殺す気か・・・?」
「おとなしくわしを満足させてくれたら、そこまではしない」
影は短くこたえた。
「眩暈がする」恵介がいうと、
「もう少しの辛抱だ」と、影は恵介を許そうとはせずに、
まだ噛んでいないほうのスラックスを引き上げると、靴下の上からまた舌を這わせた。
靴下を舐め味わい、噛み破るのを楽しんでいる――恵介は直感した。
少しでもよけいに楽しませれば、死なずに済むのか・・・?
ピチャピチャと舌を鳴らして靴下によだれをしみ込まされていきながら、恵介は短くうめいた。
噛まれる直前恵介は、相手が自分の履いている靴下を舌をあてがうようにしてヌルッと舐めるのを感じた。
芝生のうえでのたうち回りながら、恵介はしつように靴下を噛み破られながら吸血された。
噛み痕ひとつひとつは、擦過傷に過ぎなかった。
血の味と、靴下破りを楽しむには、きっとそれで充分なのだろう。
影は恵介にとどめを刺すように、ふくらはぎの真上から強く噛んだ。
靴下が大きく裂けて、血がジワジワと生温かくしみ込むのを感じた。
チュウチュウ、チュウチュウ――
自分の血が吸い上げられる音が、ひどくリズミカルだと思った。
そうこうしているうちに、恵介は失血からくる眠気に誘われて、意識を昏(くら)くしていった。
恵介の妻、美知子(38)が襲われたのは、その約30分後だった。
スーパーで買い物を済ませた美知子は、家路を急いでいた。
自転車の行く先を、黒い影のような男に遮られた。
「危ないッ!」
キッと音を立てて、美知子はかろうじてブレーキを踏んだ。
「奥さんこっち来て」
影は白い歯をみせてそういうと、美知子の手首を掴まえて、自転車から引き離そうとした。
揉み合うふたつの影がひとつになった。
影は美知子の首すじを嚙んでいた。
ギューッとつねられるような痛みに美知子は悲鳴をあげて飛びのき、逃げようとした。
自転車が音を立てて倒れ、野菜や洗剤がその場に転がった。
美和子の抵抗はむなしく、先刻夫がそうされたように、彼女の肢体は好色な猿臂に巻かれていった。
影は美知子の手を強引に引いて、傍らの草むらへと身を淪(しず)めた。
ひいッ・・・
美知子はうめいた。
男が今度は、反対側の首すじを狙ったのだ。
地味なモスグリーンのカーディガンに、紅い飛沫が飛び散った。
ちゅ、ちゅ~っ・・・
すかさず吸いついて来た唇が美知子の首すじに密着して、
まだうら若さを秘めた熟れた血潮を、ヒルのように貪欲に吸い上げてゆく。
美知子は姿勢を崩すまいとして、草むらの陰で両手を突いた。
影は先刻彼女の夫にそうしたように情け容赦なく、
美知子のうなじの皮膚の奥深く、無慈悲な牙をグイグイと食い込ませていった。
38歳の人妻の生き血は、さもしい食欲の赴くままに啖(くら)い取られてゆく。
血を啜る音が洩れるあいだじゅう、美知子は身を起こそうと力んでは、
男との力比べに負けてふたたびみたびと、ねじ伏せられていった。
美知子がその場に倒れ臥すと、影はにんまりと笑みを泛べた。
乱された紺色のスカートのすそから覗くふくらはぎは、濃いめの肌色のストッキングに包まれている。
クククッ・・・
含み笑いとともに、恥知らずな唾液を帯びた唇が、ストッキングを濡らした。
ひっ・・・
幸か不幸かまだ意識のあった美知子にとっては、生き地獄だった。
男はストッキングをしわ寄せながら、美知子の足許をゆっくりと舌で舐めまわしてゆく。
「な、なにをなさいます、失礼じゃありませんか!」
声だけは気丈にも、男の無礼を詰っていた。
男はひと言、「エエ舌触りぢゃ」と呟くと、
あとはもうものも言わずに、美知子のふくらはぎに食いついていった――
血を吸い上げるチューッという音が、あからさまなくらいに鼓膜にしみ込んだ。
さらに30分後。
美知子は自転車の荷台から買い物かごを降ろすと、たいぎそうに玄関のドアを開けた。
さっき襲われて懸命に抵抗していたときとは別人のように無表情で、顔色は鉛色になっていた。
「ただいま――」
だれもいない薄暗い室内に向かってひっそりと呟くと、
緩慢な手つきで、野菜や肉や洗剤などを、そこかしこへと片寄せてゆく。
背後からはぴったりと、黒影が付き添っていた。
「もう少しお待ちになってくださいね」
棒読みのように抑揚のない声を投げると、影はゆったりと肯きかえした。
破けたストッキングを片脚だけ穿いた恰好のまま、美知子はそれでも手早く片づけを済ませた。
むき出しになった脚に沿うように、脱がされたほうのストッキングがふやけたように垂れ下がり、ひらひらとまつわりついていた。
スカートの裏地には白い粘液がおびただしく飛び散り、それは片脚だけ穿いたストッキングにまで点々としみ込んでいた。
なにが起きたのかは、だれの目にも明らかだった。
草むらのなかで組んづほぐれつ、虚しい抵抗をくり返しながらも、美知子はショーツを脱がされた股間に、何度も衝撃を加えられるのを感じた。
黒影の陰茎は、飢餓状態だった。
がつがつとむしり取るように、否応なく美知子の貞操を奪い、女の入り口を強引に行き来させると、淫らに滾った熱情の塊を、彼女の身体の奥深くへとそそぎ込んでいったのだ。
女が家の片づけを終えてしまうと、影は女の足許へと這い寄った。
女は拒まなかった。
片方だけ穿いたストッキングも、見る影もなく咬み剥がれてむざんな裂け目を拡げていた。
男はむぞうさに女の足許に手をかけて、ストッキングを引きちぎった。
女は無表情に、自分の礼装を弄ばれるのを見おろしている。
美容院できちんとセットしたばかりの髪をくしゃくしゃにされたことのほうが、よほどこたえているようだった。
女は、手にしたタオルで粘液に濡れた脚をさっと拭い、買ってきたばかりのパンティストッキングの封を切ると、おもむろに脚に通してゆく。
男は、恥ずかしながら俺はストッキングフェチなのだと告白してきた。
奥さんのストッキングをもう一足楽しみたいとねだられて、家まで送って下さったらと約束してしまっていたのだ。
「じつはさっき、だんなの血も吸ってきた」男がいった。
「そうだったの」女も、他人ごとのようにこたえた。
「ご主人の血も旨かった」
「よかったですね」女はやはり、他人ごとのようだった。
けれどもさすがに頬に翳をよぎらせて、
「まさか・・・殺してしまったわけではないでしょうね」と訊いた。
「安心しろ。むやみに生命までは取らん。
わしに好意を恵んでくれるかぎりはな」
「主人はあなたに好意的だったのですか」
「あんたの血も吸って欲しいと勧めてくれたのでね」
「ああ、そういうことなのですね・・・」
女はぼう然とあらぬ方を見やりながらも、得心がいったようすだった。
夫が決めた相手なら、私は操を奪われても良かったのだ――白い横顔がそううそぶいていた。
男はリビングの入り口のほうにちらと目線を寄せたが、女は男の仕草にも、男の目線の向こうに観客がいることも自覚しなかった。
「観客」はいうまでもなく、恵介だった。
手を出さないことを条件に、自分の妻が白昼狩られるいちぶしじゅうを、目の当たりさせられたのだった。
妻の血を吸って欲しいなどと勧めたり頼み込んだりした憶えは、毛頭なかった。
恐怖に駆られてそんなことを口走ってしまったのかと記憶を反芻したが、
さすがにそんなことをするはずはなかった。
体内に残された血液と同じくらいには、彼のなかにもまだ良識が残されていた。
けれども、その良識もいささか妖しくいびつに崩れかけていた。
「奥さんの血も吸わせてもらいたい」
男にそう求められて、正直悪い気はしなかったのだ。
それは明らかに自分の意志と利害に反したことであるけれど、相手が自分の血を旨そうに喫(す)ったこの男なら、妻の血液をあてがっても良いのではと思い始めていた。
妻を襲って血を啜ることを許可するなどというまがまがしい行為に走った覚えはなかったけれど。
気がついたら、妻が今頃の刻限に買い物に出かけ、人通りの少ない路を通って帰宅する習慣があることを告げてしまっていた。
「あなた、わたしを売ったのね!?」
そういわれてもおかしくないことだった。
けれども目の前の女は、相変わらず棒読み口調で、自分の血を啜ることを夫が勧めたことを、不謹慎なことだとは受け取っていないようだった。
「わたくしのこと――お気に召したんですか」
美知子が訊いた。
自分の血の味の良しあしを気にしているのだと気づくのに、少しの間が必要だった。
「生き血も、身体も――あんたいい女だ」
吸血鬼はもの欲しげににんまりと笑い、
美知子も横抱きにしてくる猿臂を受け容れながら、媚びるような上目遣いをした。
ためらう唇に、好奇心に脂ぎった唇が重ね合わされた。
ふたつの唇はせめぎ合うように結びつき、激しく吸い合った。
恵介のなかで、なにかが崩壊した。
妻と築いてきた豊かな結婚生活が台無しになったと思った。
けれども、いまはそのことを、惜しげもなくあきらめることができた。
夫婦を支配した男の体内で。
自分の血液の大半と、美知子のそれのほとんどとが、仲良く織り交ざり、干からびた血管を潤している。
その実感がなぜか、ドクドク、ドクドクと、乏しくなった血液を高ぶらせ、めまぐるしく駆けめぐらせてゆく。
恵介は、草むらに押し倒されたときの自分の妻の運命を反すうしていた。
生垣の向こうから、チャッ・・・チャッ・・・と、衣類の裂ける音がした。
あお向けの姿勢になっていた美知子の上に征服者が馬乗りになり、
胸をはだけたモスグリーンのカーディガンのすき間から覗く朱色のブラウスを、引き裂いていた。
あっ、なんということを・・・!
恵介はおもった。
声をあげようとしたが、喉が引きつって声が出ない。
男がブラウスを剥ぎ取ってしまう間、美知子はまったく無抵抗だった。
ブラウスをはだけて、ブラジャーの吊り紐に手をかけるのが見えた。
ブチッ、ブチチッ・・・
吊り紐を引きちぎる耳障りな音がした。
「くくくっ」
含み笑いを泛べた唇が、妻の乳首を飲み込んでゆくのを、恵介はただ見守るばかりだった。
妻は抵抗する意思を喪失して、自分の身体を好きなだけ愉しませてしまっていた。
もはや、男がなにをもくろんでいるかは明白だった。
血が頭にのぼぜてしまった恵介は、ついふらふらと起ちあがろうとした。
そのまま起とうとすれば起てたはずなのに――なぜか恵介は、身体の動きを止めてしまった。
左右両方の乳首を男が代わる代わる舐めるのを、無抵抗に胸をさらして受け容れはじめていたのだ。
真上を見あげた美知子の横顔には、軽い陶酔の表情さえ泛んでいる。
まさか・・・まさか・・・このまま家内をモノにされてしまうのか!?
恵介はおののき、うろたえ、それでも起ちあがることも声を出すこともできずにいた。
男は美知子のスカートをたくし上げてゆき、ストッキングをズルズルとひきずり降ろしてゆく。
じりじりとした焦慮が、恵介の胸を焦がした。
男はショーツにくるまれた股間にむぞうさに手を当てると、
鋭い音を立ててショーツを引き裂き、あらわになった処に、顔を埋めてゆく。
美知子は白い歯をみせて、ゆるやかにかぶりを振りながら、だめよだめよと呟いている。
けれどもそれが惰性の抵抗に過ぎず、もはや彼女が貞操を守る努力を放棄したのが、夫の目にはすぐにわかった。
昼日中の日光を満身に浴びながら、美知子の貞操は余すところなく食い尽くされてゆき、
彼女の夫は妻が吸血鬼の娼婦と化すのを
「さいしょに狙われるのがきみだと思って差し支えない。
きみのことを征服しさえしてしまえば、あとは奥さんもお嬢さんも思いのまま――というわけだ。
かれらは貪欲だからね。奥さんのほうは、身体もほしがるだろう。
狙われてしまったら運の尽き――いや、それがなれ初めというものだ。
気前よく、譲ってあげたまえ。
最愛の奥さんのセックスを勝ち得るのに、若いころのきみが払った努力には充分敬意を表するけれど――
でも、そうしたことも含めてあらいざらい、彼らのために差し出してしまうことだ。
名流夫人の珠のような貞操も、彼らのいちじの気まぐれのために汚される――
ここはそういう街なんだから」
わたし一人で相手をすることは可能ですか?恵介はいった。
この期に及んでさえどうしても、妻の美知子を吸血鬼の生贄に供してしまうのは忍びなかったのだ。
「もちろん可能だ。彼がそう言えばな」
都会のオフィスの上司はいった。
「わたしもそうしようと考えた。でも、身体が持たなかった。
それに、わたしが吸い尽くされる前に、家内はわたしの知らないところでもう楽しんでしまっていた。
女の操というやつは、じつに儚いものだね」
上司は、彼の妻はいまでも街に居ついていると教えてくれた。
部長に出世した今、都会の本社の部長夫人を犯す愉しみを、街の知己たちに与えているのだと。
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