淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・
母親どうしの味比べ。
2023年08月02日(Wed) 22:57:43
はぁ・・・ふぅ・・・
うふっ・・・
ちゅるっ。ちゅるっ。
ごくりん。
柏木好夫と藤村良哉(りょうや)は息を詰めて、むき出しになった相手の素肌のそこかしこに唇を当ててゆく。
きょうの獲物は、音楽の翠川(すいかわ)先生。
「約束だよね?合唱コンクール終わるまで待ってあげるって言ったんだから・・・」
疲労困憊のていである翠川先生の顔を覗き込んで、良哉がいった。
「そんなこと言ったって、もうボクたちだいぶご馳走になってるぜ」
良哉の追及口調に比べて、好夫のいい方は困り果てた先生をかばうように穏やかだった。
ふたりとも、吸い取った血潮で口許を真っ赤に濡らしている。
背の低い良哉は裏返しにしたバケツのうえでつま先立ちをして、先生の首すじを狙っている。
なん度か咬み損ねたために、うなじからはよけいに血が撥ねて、
純白のボウタイブラウスには赤黒いしずくがチラチラと光っていた。
好夫は先生の足許にかがみ込んで、ふくらはぎを吸っている。
上背は良哉よりあるのに、どうしても脚にこだわりがあるらしい。
なん度も唇をあてがった脛の周りからは、
擦り切れた肌色のストッキングが、ふやけたように浮き上がっている。
「へっ!ご立派なことを言ったって、お前だってやることやってんじゃん」
良哉が憎まれ口をたたいた。
「ごめん、ごめんね・・・」
翠川先生はおずおずと二人にそういって、
もう耐えきれないというようすで、尻もちを突くようにして地べたにひざを降ろした。
失血のために、先生の頬は気の毒なくらい蒼ざめている。
食欲旺盛な十代半ばの、人の生き血を嗜みはじめた者たちに、二人がかりで生き血をせがまれては、
いくらふだん生徒に厳しい翠川先生といえども、こらえ切れるものではなかった。
「いいんだよ、先生。でももう少しご馳走してくださいね」
好夫は低く落ち着いた優しい声色だったけれど、先生の内ももに容赦なく牙を埋めた。
ストッキングがなおも、ブチブチッ・・・とかすかな音をたてて、裂けた。
良哉も楽しそうに、先生の肩先に、ブラウスの上から食いついてゆく。
真っ白なブラウスにまた、血のシミがバラの花のように拡がった。
「先生、いつものソプラノが台無しじゃん」
良哉はどこまでも、意地が悪い。
音楽の成績の良くないかれは、先生のお覚えがめでたくなかったからだ。
ここぞとばかりに意趣返ししているつもりなのだ。
好夫は苦笑いして、良哉にいった。
「うそだい、先生いつもアルトだぜ?」
良哉はムッとして、先生の肩先に再び牙をひらめかせようとしたが、好夫が制した。
「もうそれくらいにしておけよ。先生かわいそうじゃん」
「もうやめちまうのか?」
不平顔の良哉に、それでも好夫はいった。
「うん、もう少しで勘弁してあげようよ」
ちゅう・・・ちゅう・・・
くいっ・・・ごくん。
ひそやかな吸血の音はさっきよりも控えめに、しかし相変わらずしつように、
うずくまる先生に覆いかぶさるように、断続的にあがるのだった。
「美味しかったね、翠川先生の血」
好夫は満足そうに、口許についた翠川先生の血を舌で舐め取った。
手には、先生の脚から抜き取ったストッキングを、むぞうさにぶら下げている。
いつも吸血した相手からせしめる戦利品。
彼のコレクションはもう、なん足になっただろうか?
「ああそうだな」
良哉は好夫の声を横っ面で受け流した。
彼の首すじには、新しい咬み痕がくっきりと刻印されている。
音楽教師からむしり取るように獲たきょうの食事がいつになく性急だったのは、
いつもより蒼ざめたその顔色のせいだろう。
「良哉くん顔色悪いね」
好夫が気遣わしそうに良哉の顔を覗き込んだが、良哉はうるさそうにそっぽを向いた。
そして、そっぽを向いたまま、好夫にいった。
「オレーー半吸血鬼になったから」
「え?」
良哉の口ぶりはすこしだけ、誇らしげだった。
半吸血鬼。
もともと人間だったものが、一定量以上の血液を喪失するとそう呼ばれる。
血を吸い尽くされて死ぬわけではなく、もちろん墓地からよみがえるというような手続きを経ることもなく、
いままでと変わらず人間として生活するのだが、ほかのものと決定的に違うのは、日常的な吸血能力を備えることだった。
血を摂取されただれもが半吸血鬼になるわけではない。
吸血鬼が意図した人間を択んで血を啜り、吸血能力を植えつけていくのだ。
良哉は、数日はかかる吸血に耐えて、ついに半吸血鬼になったのだった。
「それでさ・・・」
良哉がいった。
「お前の血をもう少し吸わせてもらうからな」
え――?
ふり返る好夫の前に、良哉は立ちはだかった。
獲物を狩る獣の目をしている――と、好夫は思った。
あ・・・・・・
短い呻きを洩らして、好夫は身体の動きを止めた。
翠川先生からもらったストッキングが、砂地に落ちた。
良哉は、上背のある好夫にぶら下がるように絡みついて、その首すじに喰いついていた。
好夫はゆっくりと、ひざ小僧を地面に突いた。そして四つん這いになり、やがてうつ伏せに突っ伏してしまった。
しずかになった好夫の足許にかがみ込むと、良哉はふくらはぎに唇を吸いつけてゆく。
半ズボンの下からむき出しになった好夫のふくらはぎは、ねずみ色のハイソックスに包まれていた。
太目のリブが、陽の光を照り返してツヤツヤと輝いている。
整然と流れるリブに牙が押し当てられて、かすかな歪みが走った。
ごくっ。
良哉の喉が大きく鳴った。
その音はゴクゴクゴクゴク・・・とずうっと続いた。
切れ切れになる意識の彼方。
自分の血を飲み耽りながら、良哉が旨そうに喉を鳴らすのを、好夫は薄ぼんやりと耳にし続ける。
リョウくん、ボクの血がよっぽど美味しいんだな。
きみになら、いくらでも飲ませてやるよ。
満足するまで、ボクのハイソックスを汚しつづけてかまわないからね・・・・・・
「いつにする?味比べ」
良哉は蒼ざめた頬を歪めて、好夫に笑いかけた。
「そうだね――ボクはいつでもいいよ」
好夫の声はいつも通り穏やかだったが、顔色は別人のように良くない。
良哉のおかげで、自分も半吸血鬼になった――そう自覚せざるを得なかった。
帰宅した時、あまりの顔色の悪さに母親は色をなしたが、好夫は「いいんだいいんだ」と母を制していた。
半吸血鬼が半吸血鬼を作り出すことはほとんどなかったが、
良哉の血を吸った吸血鬼は特別に、良哉にその力を与えた。
「好夫だけは、オレが半吸血鬼にしたいんです」
自分の血を捧げ抜くとき、良哉はそういって、自分が半吸血鬼になったときの愉しみを確保したのだ。
「顔色、わるいね」
「きみもだけど」
二人は顔を合わせて、笑った。
味比べ。
二人とも半吸血鬼になったとき、ぜひやろうと約束していた。
母親を交換して、お互いに生き血を味わおうというのだ。
お互いの母親を襲って生き血を啜り、味比べをする。
それは、吸血鬼どうしの兄弟としての契りを交わすことを意味していた。
母親でなければ、妻でも良い――もとより二人はまだ若かったから妻はいなかったし、
その母親たちはじゅうぶん、美味しい生き血をその身にめぐらせている年代だった。
「うちのお袋、でぶだからな。襲いがいないだろ?」
良哉は自分の母親に対しても、仮借がなかった。
「そんなことないよ、きみ、ボクが肉づきの豊かな脚を好きなの知ってるだろう?」
好夫が取りなすようにそういった。
「太めの脚のほうが、ストッキングが映えるんだよね・・・」
好夫はウットリとして、良哉の家の方角を見つめた。
良哉は、好夫の母親を襲うのを楽しみにしていた。
好夫の家はまずまずの良家で、自営業でせわしない店舗兼住宅の良哉の家とは趣が違っていた。
彼の父親は役場に勤めていた。
もうすでに、ここの市役所に永久出向が決まっている身ではあったが、れっきとした上級官庁の出身者である。
市役所では、助役を務めていた。
助役夫人を襲う――友人の母親であると同時に、良哉のなかの彼女は、数少ないエリート一家の令夫人でもあったのだ。
好夫は、自分の母親に対して向けられた良哉の劣情に気づいていた。
もちろん息子として、彼の劣情をまともに受け止めることで母親がどんな目に遭わされるのかという危惧は持ち合わせていたけれど、
良哉にかぎってそんなに酷いことはしないだろうと考えていた。
母親同士も接点はなかったけれど、たまに学校で顔を合わせると、会釈し合う程度の仲ではあった。
お互い――相手の息子に生き血を狙われている同士という意識も、お互いに持っていた。
「良哉くんが、母さんの血を欲しがってるんだ。せがまれたら応えてあげてくれないかな・・・」
家に戻ると好夫はいった。
「いつになるの?」
好夫の母はいった。名流夫人の肩書にふさわしく、優雅で音楽的な声だった。
「近々だと思うよ。あいつ半吸血鬼になったから・・・母さんにはいろいろ迷惑かけちゃうけど・・・」
さすがに語尾を濁した息子の意図を、母親は正確に察している。
半吸血鬼とはいえ、吸血鬼となったものは皆、セックス経験のある婦人を襲うとき、なにを欲しがるのか――
この街の女たちは皆、知っている。
「お袋さあ――」
良哉がいった。
「明日、校舎の裏手。好夫の悩みを聞いてやって」
いつものぞんざいないい方に、
「まったくこの子は藪から棒に、なんなんだろうね」
と、良哉の母は小言をいった。
「わかってると思うけど、ちゃんとストッキングくらい穿いて来るんだぜ?」
怒ったような息子の声色に、良哉の母はちょっとのあいだ黙り込んで、
「それくらいわかってるわよ」
とだけ、いった。
「父さんには言うの?」
「言わなくたってどうせバレるじゃない」
「妬きもちやきそうだなぁー、あのスケベ親父」
「親のことをそんなふうに言うもんじゃないわよ!」
いつもながらの、母子げんかだった。
「アラ、柏木の奥さん」
「アーー良哉くんのお母さん」
学校の裏門の前、それぞれ反対方向からやってきた二人は、まるで落ち合うように脚を留めた。
良哉の母はいつもの一張羅ではなく、ついぞ見たことのないスーツを着込んでいる。
派手なオレンジ色のスーツは、まるであたりに夏の花でも咲いたかのように鮮やかだった。
柏木夫人は、爽やかなラベンダー色のロングスカートに、白のブラウス。
足許はこの陽気には似つかわしくなく、墨色のストッキングで包んでいる。
良哉の母とは対照的に、清楚なスタイルだった。
やっぱり奥さんは洗練されていらっしゃる――良哉の母はそう思った。
良哉の母はというと、オレンジのスカートスーツのすそから覗く太っちょな脚は、ねずみ色のストッキングをじんわりと滲ませていた。
お互いに――
ふだん脚を通すことのない色のストッキング(良哉の母などは久しぶりに穿いたはずだ)がなにを意味するのかを、お互いに読み取り合っていた。
「よう」
ぞんざいな声が、二人の婦人に投げられた。
声の主は正確には自分の母親のほうを向いていた。
さすがに親友の母親に向けた態度でないのは明らかだった。
「よう、じゃないだロ!礼儀をわきまえな!」
良哉の母は伝法に言い返した。
良哉は慌てて手を振った。
「きょうはもっとさあ、こう、ご婦人らしく・・・な?」
ほんとにもう・・・良哉の母はまだ、ムスムス言っている。
やがて良哉の後ろから、好夫も姿を見せた。
「良哉くんのお母さん、きょうはすみません」
好夫はいつもながら、礼儀正しい。
自分の母親のほうにもチラと目配りをして、動揺を悟られまいとしていた。
きょうの彼女の爽やかないでたちは、良哉のための装いなのだ。
今さらながらに、胸がどきどきした。
「行くぜ」
良哉は相変わらずぶっきら棒に、他の三人の前に立って、校舎の裏へと脚を勧めた。
校舎の裏には、小さなプレハブ小屋があった。
そこはいつも施錠されていなかった。
たまに生徒が入り込んで悪さをするのか、板の間にはいくらか、土足の足跡がついている。
「・・・ったくしょうがないな」
良哉は舌打ちした。
「こういうのは、前の日によく下調べしておくもんだがね」
良哉の母がいった。
「あたしは良いけど、こういうのって柏木の奥さんに申し訳ないじゃないの」
さすがに顔を曇らせた良哉を取りなすように、好夫がいった。
「そんなに汚れているわけじゃないし、人目をさえぎるにはここが一番良さそうですよ」
「好夫くんはいつもいい子ねえ」
良哉の母がいった。
「じゃ、始めようぜ」
良哉は目だって、口数が少なくなっている。
すでに吸血の欲求が胃の腑からはぜのぼってくるように感じていたのだ。
「うん、じゃあ・・・」
好夫もさすがに、生唾を呑み込んでいる。
女二人は目くばせし合って、それぞれが相手の息子の前に立った。
「横になってもらったほうが良いかな」
「ご婦人を最初から寝そべらすのはどうかな」
「それもそうだね」
良哉が珍しく素直にいった。
じゃ――
彼はおもむろに、柏木夫人に近寄った。
同時に、好夫も良哉の母のほうへと距離を詰めた。
女ふたりは生唾を呑み込んで、自分を獲物にしようとしている子供たちのほうへと目線を合わせてゆく。
「すこしかがむわね」
柏木夫人が良哉にいった。
上背のある柏木夫人の首すじを咬むには、良哉は少し背丈が足りなかったのだ。
「すみません・・・」
良哉は、別人のように礼儀正しい受け答えをすると、少し背伸びをして柏木夫人の両肩に腕を伸ばした。
あっ・・・
傍らから洩れた母親のうめき声に、とっさに好夫は振り向いてしまった。
母の着ている真っ白なブラウスに、早くもバラ色のしずくが散っていた。
またもや咬み損ねたらしい。
この間の翠川先生のブラウスと同じように、血潮がよけいにばら撒かれたように見えた。
母親と視線が合った。
――わたし大丈夫だから。
そう言っているようにみえた。
好夫はもう母親のほうを見なかった。
いつもがらっぱちな良哉の母が、おずおずと生唾を呑み込んで、棒立ちしていた。
すいません。
好夫はそういうと、彼女の足許にかがみ込んだ。
「こんなんで良かったかな・・・」
ねずみ色のストッキングに染めた脚を刺し伸ばしながら、良哉の母はいった。
「良い、すごく良いです・・・」
好夫は唇の周りに、唾液がうわぐすりのようにみなぎるのを感じた。
そして、彼女の足首と足の甲を抑えつけると、生え初めた牙をむき出して、肉づきゆたかなふくらはぎに咬みついていった。
ジワッ・・・と赤黒い血潮が撥ね、良哉の母のパンプスを濡らした。
破けたストッキングのそこかしこに赤いしずくが散って、ジワジワとしみ込んでいった。
ごく、ごく、ごく、ごく・・・
良哉の食欲は、すさまじかった。
柏木夫人は、目もくらむ想いだった。
ほとび出る血潮がブラウスを汚したのは、あきらめがついた。
吸血鬼の相手をすればどうしたって、服は汚れてしまうのだ。
かがんで中腰になったのが、よけい負担になった。
男はのしかかるように体重を預けてきた。
これが息子の友人のすることだろうか?
柏木夫人は畏怖をおぼえた。
夫人を畏怖させるほどに、その日の良哉はガツガツしていた。
ただひたすら、喰いついたうなじから牙を埋めたまま、
力づくでむしり取るようにして、彼女の血を飲み耽るのだ。
あ・・・あ・・・あ・・・
眩暈が夫人を襲った。
身体の平衡が失われたのを感じ、気づいたらもう引きずり倒されて、床のうえにあお向けになっていた。
自分の上から起き上がった少年の口許は、吸い取ったばかりの彼女の血潮がべっとりと着けていた。
少年はすかさず、夫人のロングスカートのすそをとらえた。
足許を覆っていたロングスカートは荒々しくたくし上げられて、空々しい外気が下肢を浸す。
「えへ・・・えへへ・・・へへへ・・・」
少年はイヤラシイ嗤いを切れ切れに発しながら、墨色のストッキングを穿いた彼女の脚を、舌と唇とで撫でくりまわした。
おろしたての真新しいストッキングに、唾液がヌラヌラとヌメりついた。
およそ紳士的ではない、無作法なやり口だった。
相手が息子の親友で、息子から相手をするように頼まれたのでなければ、毅然として「およしなさい」と言っていたに違いない。
猛犬のような牙を太ももにガクリと食い込まされて、再び血がほとび散った。
獣に襲われているようだ、と、夫人はおもった。
少年はその後なん度も、脚のあちこちに喰いついてきた。
左右かまわず、部位もかまわす、自分の牙の切れ味を試すように、夫人の柔肌を切り裂いてゆく。
ラベンダー色のロングスカートは、たちまち血に染まった。
好夫も、さすがに夢中になっていた。
差し伸べられた足許に喰いついた後、ねずみ色のストッキングのうえから唇をすべらせるようにして、
彼は良哉の母の穿いているストッキングの舌触りに夢中になっていた。
われながら、オタクっぽいやり口だと恥ずかしかった。
けれども良哉の母は、そんな好夫の想いが伝わるらしく、
「好きにしていいんだからね」と言ってくれて、彼の意地汚い欲求に精いっぱい付き合ってくれたのだ。
さいしょに咬みついたふくらはぎに熱中するあまり、良哉の母は貧血を起こして身体をふらつかせた。
彼女の身じろぎでそれと察すると、好夫は彼女を横抱きにして、床の上に横たえてゆく。
昂りきった彼女の呼気が、好夫の耳たぶを浸した。
小母さんもうろたえてるんだ――と、はじめて感じた。
いつ顔を合わせても、しっかり者の自営業主の妻である小母さんだったが、
牙をふるって迫ってくる吸血鬼の脅威の前には、ただその身をさらして欲望にゆだねるばかりだったのだ。
いくら半吸血鬼としての儀式とはいえ、幼馴染の母親を無用に傷つけたくなかった。
彼はオレンジのスーツの上半身にかじりつくようにして良哉の母のうなじに唇を寄せると、ガブリと食いついた。
首すじの太い血管を、あやまたずに断ち切っていた。
ハッ、ハッ、ハッ、
ひぃ・・・ひぃ・・・ひぃ・・・
息せき切った良哉に、喘ぎ喘ぎ肩を弾ませる柏木夫人。
すでにブラウスははぎ取られ、ブラジャーは飛ばされ、ロングスカートのなかで、ストッキングは片方脱がされていた。
ショーツの薄い生地を透して、少年はまだ童くさい息が直接、秘部にしみ込んできた。
ああ、この子に犯される・・・
夫人はさすがに、悩乱した。
彼女は夫のことを想った。
夫はいまごろ、こんなこととは知らずに市役所の奥まった部屋で執務しているに違いない。
金縁メガネを光らせた生真面目な横顔が、なぜかいまの彼女のありようを察しているような錯覚を覚えた。
太ももを伝って、柱のようにコチコチに固まった一物が、せり上がってきた。
初めて吸血鬼というものに襲われるようになってから、すでに夫以外の男性をなん人となく、彼女は識っている。
けれども――
よりによって、それが良哉くんだなんて・・・
白い歯が迷うように喘ぐのを、男の厚い唇に塞がれた。
一人前の男の呼気だと、夫人は感じた。
いいんだよ、思い切りやっちゃっていいんだからね――
良哉の母はそういって、好夫を励まし続けていた。
隣で母親が犯されているのをありありと感じながら、そうだからこそよけいに、異常な昂ぶりを覚えていた。
股間の一物が、自分のものではないように太い棒になっている。
すでにふたりの身体は、上下に合わさり、互いに互いの熱を感じ合っている。
良哉の母は思い切りの良い女だった。
入り口で惑っていた好夫の一物に手を添えると、自分の秘部へと導いて、さっきまで自分を苛みつづけた牙と同じように、
夫を裏切る行為をズブリと遂げさせていた。
良哉の母の中で、好夫の一物が白熱した閃光を放った。
破れかかったねずみ色のストッキングを穿いた脚がピンと伸びて、やがてじょじょに力を失い弛んでいった。
二対の男女は肩を並べて、息をはずませ合っていた。
四人呼気はばらばらで不協和音のようだったが、
彼らの意図するところはひとつであった。
ふたりの少年は互いの母親を相手に、見事に筆おろしを遂げていた。
そして、そのあとは好きなだけ――
大人のオンナの身体を覚えた怒張したペニスを、なん度もなん度も突きたてていっては、
初めて識った女たちの身体の秘奥へと、白く濁った体液を放射しつづけていった。
太陽は西に、傾こうとしている。
けれどもそれが、なんだというのだろう?
礼装をほどかれた女たちは、自らの血を浴びながらも、頬は嬉し気に輝いていた。
あれほどたっぷりと血を抜かれたにもかかわらず、
色とりどりに染まるストッキングに透けた素肌には、淫蕩な血色をみなぎらせていた。
「青春だな」
「まったくだな」
翌日登校してくると、良哉と好夫は顔を合わせて同時に言った。
お互いの熱した精液を、お互いの母親の体内奥深くにぶちまけ合った者同士の、奇妙な共感がそこにあった。
「オレ、洋子のことプレハブ小屋に誘った」
良哉がいった。
洋子とは、好夫の母の名前だった。
自分の母のことを呼び捨てにされて、好夫はくすぐったそうに笑った。
「じゃあボクは帰りに、きみの家に寄ることにするね」
「うちの親父、大丈夫だから」
良哉はイタズラっぽく笑った。
お互いの父親は、自分の妻が息子たちの餌食になったのを、夕刻帰宅して初めて知った。
どちらの妻も、息子も、家に戻って来ていなかった。
良哉の父は好夫の父を訪ねた。
「なんか、うちのアバズレ女は別にエエんですけれども・・・柏木の奥さまには大変なご迷惑を」
良哉の父は昔かたぎらしく、好夫の父に頭を下げた。
好夫の父はもちろんことのなりゆきに驚いていたが、
こういうときに夫がうろたえてはいけないと感じた。
「風変わりなことになってしまいましたが、これはおめでたいことなんだと思います」とだけ、いった。
そして、慇懃に頭を下げてきた良哉の父に応じるように、丁寧に頭を下げて、
「御子息の成人おめでとうございます」といった。
そのあと二人は連れ立って酒場に繰り出した。
お互いの息子たちが女の身体を識って大人になったことも、
お互いの妻の貞操が泥にまみれたことも、若い情夫が一人ずつ増えたことも、
どちらもいっしょに、祝い合った。
そして大酒をくらって、まだだれも戻って来ていない家に戻り、朝まで大いびきをかいて寝入ったのだった。
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