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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

実現された妄想

2023年11月21日(Tue) 23:51:39

母さんを殺さないで――
清彦少年は、失血で自由の利かなくなった身体をジタバタさせながら、叫んでいた。
かなわぬ願いになるに違いない、と思っていた。
ところが、母親を掴まえて首すじを食い破り吸血に耽っていたその怪人は、信じがたい反応を示していた。
目が覚めたようにこちらに目を向けると、清彦少年の瞳をじっと見つめた。
深い瞳だ、と、少年はおもった。

代わりにボクの血をもっと吸っても良いから・・・
清彦少年はそういって、ふたりのほうへと身を近寄せようとする。
怪人は、気絶してしまった母親を放すと、少年のほうへとおもむろに這い寄ってきた。
「悪イガ、ソウサセテイタダコウーー」
くぐもったような声で怪人は少年の想いに応えると、
さっきからたっぷりと血を吸い取った首すじにもう一度唇を近寄せてきた。
清彦少年は、観念したように目を瞑った。

尖った牙が容赦なく、うなじの傷をもう一度抉ってくる。
新たな血が噴き出すと、怪人は心地よげに喉を鳴らして、少年の血に飲み耽った。
「美味イ・・・ジツニ美味イ・・・」
時おり傷口から口を放しては、怪人はなん度もそう呟いた。
二の腕の周りからギュッと抱きすくめる触手に込められた力は強く、清彦少年は時おり苦しそうに呻いた。
少年が呻くたびに怪人はわれに返ったように彼の顔を見、触手の力を弛めた。
頬を血塗れにさせながら、少年はいった。
「男の子でも、ハイソックスが好きだったんだよね?小父さん」

つい昨日のことだった。
少年の友人が3人ながら公園で襲われて、気絶したまま、白のハイソックスを履いたふくらはぎを舐めまわされていったのは。
あまりにおぞましい光景を前に、清彦少年はあわててその場を逃げ去り、かろうじて魔手を逃れていた。
けれども、前島君が穿いていた赤ラインが2本のハイソックスや、公原君が気に入っていたブルーのラインの上下に黒のラインが走ったハイソックスや、多田鳥くんが部活のときに履いていた紺のストッキングが順繰りに犯されて、唾液まみれにされた挙句咬み破られて濡れた血潮を拡げてゆく光景が、清彦少年の脳裏から去らなかった。
きょうの清彦少年は、赤のラインの上下に黒のラインが走ったハイソックスを履いていた。
公原君の履いていたハイソックスの色違いだったのは、偶然ではない。
怪人が三本ラインのハイソックスをいたく気に入って、いちばんしつこく舐めまわしていたのを、清彦少年は目の当たりにしていたのだった。

差し伸べられた清彦少年の足許に、怪人はもの欲しげに舌をふるいつけてきた。
ああ――
少年は無念げに眉をひそめた。
イヤらしい舌なめずりが、しなやかな厚手のナイロン生地ごしに、生温かく浸されてくる。
「本当に・・・ほんとうに母さんのことを助けてくれるんだね!?」
少年は怪人に念押しをした。
怪人は黙って肯くと、少年のふくらはぎの一番肉づきのよいあたりに、鋭利な牙を喰い入れてきた。
じゅわっ・・・
はじける血潮の生温かさを感じながら、少年はうめいた――


それが、十数年前のことだった。
いまでも清彦は、そのときのことを時折、胸に思い描くことがある。
そして、なぜかときめいてしまう自分に、自己嫌悪のようなものを覚えるのだった。
少年のか細い身体から提供可能な血液をむしり取ると、怪人はふたたび、彼の母親を襲った。
母親の光枝が着ていた白地に紺の水玉もようのワンピースは、赤黒い飛沫を不規則に、その柄に交えている。
ガッと喰いついた口許から撥ねた血が、ワンピースの柄をさらに塗り替えてゆく。
清彦の懸念を読み取ったように怪人は、彼のほうを振り向くと。
「安心しろ。きみのお母さんの生命は奪らない」――そう約束していた。

頬を血に濡らしながら、清彦の母・光枝は、咬まれていった。
肩や二の腕、わき腹、太ももと、ワンピースのうえから咬まれていった。
そのうえで。
清彦の識らない世界がくり広げられた。
セックス経験のある婦人を餌食にするときに、必ずといっていいほど行われる「儀式」だった。
たくし上げられたワンピースから覗く白い太ももを眩しいと、少年はおもった。
怪人は、母親の脚から肌色のストッキングを音を立てて引き裂くと、ショーツを脱がせ、それで鼻を覆った。
いやらしいやつだ、と、少年は感じた。どこか、嫉妬ににたような感情も波立った。
母親は、すっかり観念してしまったらしい。
手足をだらりと伸ばして、身動きひとつしなかった。
まだ意識があるのは、胸もとがかすかな鼓動を伝えて上下するのと、
男の非礼を咎めるように、時折瞬きしながら緩慢にかぶりを振るようすから、それとわかった。
けれどももはや、無抵抗に伸べられた太ももの間に男が入り込んでゆくのを、止め立てするものはいなかった。
激しく上下動する逞しい腰の下、母親が大切なものを穢されてゆくのを、彼は直感で感じ取っていた――

だいぶ経ったある日、怪人が捕らえられたことをニュースで知った。
父親は、被害届を出すのはよそうと母親に告げて、母親も黙って肯いているのを記憶している。
怪人が母親にしかけたことが不名誉なことだったということを識るには、まだ清彦少年は稚なかったが、
それでもめくるめく光景のなかで行われた儀式がただことでなかったことは、直感的に感じ取っていた。

怪人が解放されたと知ったのは、それからさらに数年後のことだった。
清彦は、どこかで怪人との再会を夢想していた。
母をむたいに襲い、自分たち親子の血をほしいままにむさぼった、おぞましい存在――
そう思い込もうとしたけれど。
母親の助命を訴える必死の叫びを受け容れてくれたこともまた、彼の記憶からは去らなかった。
話せばわかる相手。
けれども、人間の血液を摂取せずにはいられない存在――
そんなものと、また関わることは、自分にとって不名誉や不利益以外のものをもたらさないと分かってはいたけれど。
彼と共存する生活を、なぜか時おり、夢想してしまうのだった。
きっと、血を吸い取られたときに注入された毒液のせいだ、とわかっていたけれど。
そのことすらも、呪わしいことだとは、感じることができなくなっていた。

もしも自分に恋人ができたなら、あの怪人はうら若い処女の生き血で舌づつみを打ちたいと願うだろうか?
きっとそうに違いない。
けれども彼は、暴力的に襲われた彼の恋人が泣き叫び惨めに堕ちてゆくというような、悲惨な情景を想像することはなかった。
むしろ彼の恋人が初対面の怪人に恐怖しながらも、一定の理解を与えて、
羞じらい戸惑いながらあの容赦のない吸血管をその胸もとに受け容れてしまうところを、胸をときめかせて想像してしまうのだった。

俺は変態だ。
そう思わずにはいられない。
そのことが、彼の婚期を遅くしたし、彼が異性に近づくことをためらわせる原因になっていた。


地元の大会社の社長令嬢との縁談が降ってわいたように起こったのは、そんなときだった。
父が務める銀行の取引先という触れ込みだった。
30を過ぎたらさすがに身を固めないわけにはいかない。
そういう常識まみれの選択を考えるほどに、清彦は律義な社会人として暮らしていた。
現れた女性は、眩いほどの白い肌と、澄んだ大きな瞳の持ち主だった。
女性経験のない清彦は、気後れしつつも彼女に応対した。
ぶきっちょだが素朴な態度が却って好かったのか、女性の側からは色よい返事が寄せられた。

穂乃村悧香というその24歳の女性は、父親の経営している会社でOLとして勤務しているという。
いちど転職をしているのだが、その時にも縁談があったものの、なにかの事情で見送りになった――とも聞かされていた。
品行方正な母親に厳格に育てられた、箱入り娘という触れ込みだった。
たしかに、見合いの席に現れた母親は、美しいがいくらか妍のある婦人だった。
清彦はいくらかの気づまりを覚えながらも彼女とも接し、幸い悪からぬ心証を抱かれることに成功した。
このまま結婚するのだろうか?
怜悧に取り澄ました相手の女性との、なかなか縮まらない距離感に悩みながらも、
交際期間はだらだらと続いていく。
特に結論を急かされることもなく、初対面からすでに3ヶ月が経過しようとしていた。

その悧香に呼び出されたのは、とある週末のことだった。
「どうしても急に逢いたい」悧香からのたっての希望だった。
いつもは清彦のおずおずとしたオファーに悧香が無表情で応じる――そんなことのくり返しだったので、
彼は相手の珍しい反応に驚きながらも、よろこんで面会に応じたのだった。

通されたリビングには、豪奢なデザインのじゅうたんの上に、いかにも高級感のあるソファーセットが置かれていた。
通された部屋で肘掛椅子に腰かけるよう求められた彼は、テーブルを挟んで悧香と対座した。
「さっそくなんですけど――」
悧香はいつになくそわそわとした様子で、口火を切った。
「私――あなたのお嫁さんに、相応しくないと感じるんです」
大きな瞳に吸い込まれるように、清彦は彼女の目を凝視した。
「ああやっぱり・・・」
思わず口を突いて出た言葉を、悧香が聞きとがめた。
「あら・・・どうしてですの?」
いや、だって――
声にならない声が、清彦を硬直させる。
なかなか距離の詰め切れない、そのくせ自分との交際を断ろうともしないこの美少女の真意を測りかねて、彼は戸惑った。
「自分がモテない・・・と思うからです」
清彦は正直にこたえた。
「あら――」
悧香は目線を笑いに和ませて、清彦を見た。
「合わないと思ったら、すぐにお断りしているところです」
悧香はいった。
「ではどうして・・・?」
上ずる清彦の声を受けて、悧香は言いよどんでいたが、やがておもむろに口を開いた。
「わたくし――」
一瞬笑みを含んだ頬がふたたびこわばって、目線を下に落としている。
「貴方に対して申し訳ないことをしてしまったの・・・」
「それは・・・どんな・・・?」
ザワザワとした予感に、不思議な昂ぶりを覚えながら、清彦は訊いた。
「この街で暴れていた怪人の話ご存じですか」
それは地域でも有名な話だった。
なん人もの人妻が襲われて憂き目をみていたし、結婚前の娘たちも襲撃の対象となっていたのだから。
「あ・・・ハイ」
「わたくし2年まえ、あの怪人に襲われているんです・・・」
「え・・・」
清彦が顔をあげた。
「あの怪人が釈放されたこともご存じですか」
「エエ、ニュースでみました」
「――再会してしまったんです・・・」
「・・・と、いうことは・・・?」
「求められるままに血液を提供して――わたくし男のひとを識らずにいたのですが、つい先日識ってしまいました・・・」
・・・・・・ぇ。
声にならない声を、清彦はかろうじて飲み込んだ。
「怒ってもらって良いのだけれど・・・自分から求めて、あの男の身体を受け容れてしまったの」
「・・・・・・」
でもね、と、悧香はつづける。

わたくし、後悔してないんです。
勤め帰りにやって来たのを、わたくしのほうからこの家にお招きして、血を差し上げたの。
ご存じでしょう?吸血管がニュッと出て、胸をブスリと刺して吸血するの。
そのうちに相手の女性が気に入ると、擬態が解けてしまって、ただの男になって――醜く痩せこけたお爺さんなのよ――
そんなひとに、勤め帰りのスーツ姿をまさぐられながら、血を啜り獲られてゆくの。
さいしょはおぞましかったけど――わたくし、それが嬉しくなっちゃって・・・
貴方のことももちろん、考えたの。思い浮かべたの。ごめんなさいって心の中で謝ったの。
それでも、知らず知らず身体を開いてしまっていたわ。
強引に突っ込まれたペニスは、さいしょのうちこそ痛くてたまらなかったけど、じきに慣れたわ。
むしろ、激しく求められることで、ヒロインになった気分まで味わっちゃって――わたくし、最低の女ですね。
貴方との結婚を控えながらも、ほかの男に身を許してしまったんです・・・
ええ、それでも――後悔はしていません。貴方以外の方に処女を捧げたことを。
そして、これからもたぶん、あの方とのお付き合いは止められそうにない――
貴方と婚約しても、きっとセックスしてしまうし、貴方と結婚しても、きっと貴方を裏切って逢いつづけてしまう――そう確信しているんです。
そんな不埒な女を嫁にして、貴方にどんな得があるかしら?
ですから、お別れしましょう。
わたくし、一生独身で過ごします。
でも、彼がいればきっと、楽しい人生になると思っています。確信しています。
彼の奴隷になるのが、いまではとても、楽しいの。
そんな女と、貴方の幸多いはずの人生を、リンクさせるべきではない――貴方もそう思われますよね・・・?

さいごのほうでは女は俯き、顔を覆って涙ぐんでいた。
きっとだれとも結婚できない。
こんな恥ずかしい告白をしているいまでさえ、爛れた秘奥をヌラヌラ滾らせて、強引な吶喊を求め始めている自分がいる。
でも、わたくしはあの方に支配されるのが好き。楽しくってしょうがない――
婚約者を失う悲嘆に泣き濡れながらも、女の胸に後悔はなかった。

俯く肩に置かれた掌を感じて、女は顔をあげた。
間近に、清彦の顔があった。
「どうしてもっと早く言ってくれなかったんですか・・・?」
清彦の唇が、目の前でそう動いた。
「え・・・でも・・・」
ためらう悧香の両肩に、清彦は手を置いていた。
「じつは・・・」
清彦は初めて、自分の過去を語った。
同じ怪人に襲われて、母親ともども生き血を吸い取られたこと。
身じろぎできないほど血を啜られたうえ、目の前で母親がメイク・ラブされてしまったこと。(彼はそういう表現で語った)
それ以来母親は、父親の理解を得ながら怪人と逢いつづけたこと。
そんな母親の逢瀬を、自分はよく目にしては、不思議な昂ぶりを感じたこと。母親を責める気には全くなれなかったこと――

「どういうことかというと」、清彦は言葉を切った。
見つめなおした悧香の顔つきは、同じ高さの目線にある。
澄んだ大きな瞳が、いままでになく間近に感じられた。
「同じ怪人に血を吸われていたんですね」
憑き物が落ちたように、悧香は声色を和ませている。
「貴女に、ただならないご縁を感じます」
清彦はいった。

もしも自分に恋人ができたなら、処女の生き血を吸わせてやろうと思ったこと。
その時も、恋人は泣きじゃくって激しく抵抗するわけでもなく、羞じらいながら血を吸い取られてゆくのを妄想したこと。
その妄想が決して不快なものではなかったこと・・・

「むしろ、悧香さんが自分から彼に処女を捧げたことを、ぼくは嬉しいと感じます」
清彦はいった。
「母もきっと、貴女を杉川家の嫁として歓迎すると思います」
そういって悧香をほっとさせると、清彦はさらに言った。
「これからご一緒しませんか?ぼくも――久しぶりに彼に血を吸わせてあげたい。
 それに、ぼくの未来の花嫁を支配してくれたお礼を伝えたい。
 婚礼の後の初夜には彼を招いて、目の前で花嫁を奪ってもらいたい。
 彼のことは真っ先に新居にお招びしたい。
 これを結婚の条件にしてくれますか・・・?」
悧香は羞じらいながら、こくりと頷いた。
過去に幾度となく妄想してきた、羞じらいながら血を捧げる彼女の面影に、そっくりと重なるのを彼は感じた。


あとがき

これは一気呵成に描いちゃいました。
どう考えてもヘンなお話なのに、すらすらと紡いでしまいました。 苦笑
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