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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

ぞんざいな扱いではなかった――

2024年01月24日(Wed) 20:29:51

ワインカラーの夕焼けが、濃紺の闇に飲み込まれようとしていた。
街灯がぽつりぽつりと点きはじめ、薄闇に染まりかけた足許が、かすかに明るくなった。
女学生たちがおそろいの制服の肩を並べて、三々五々、家路をたどっている。
血の渇きに目ざめたぼくは、娘の学校帰りを待ち伏せていた。
きょうも、由香里のハイソックスは白だった。
学校指定のハイソックスは、紺色と白とをチョイスできるようになっていたけれど。
由香里はわざと、血の色のきわだつ白を、好んで履くようになっていた。
見通しの良い小径を、由香里はこちらに向かって歩みを進めてくる。
彼らのいるあたりはまだ、夕陽に支配されていた。
そのさいごの陽の光を、真っすぐ伸びた太目のリブが、ツヤツヤと照り返していた。
若い血液をふんだんに宿した、むっちりとはち切れそうなふくらはぎの歩みが、
こちらに向かってくるのがもどかしい。
ぼくは通りがかりの女学生たちをやり過ごし、由香里のほうへと一直線に歩みを進めた。
由香里はすぐに、ぼくを認めた。
「怖い顔。目つき尖っている」
娘はそういって、ぼくをからかった。
「パパも、いっぱい吸われたんだね」
由香里は上目遣いでぼくを見た。
顔が心持ち、蒼ざめている。
そういえば。
出かける時は、紺のハイソックスを履いていたっけ。
「履き替えたのか?」と訊くぼくに、由香里は「うん」と応えると、
「いっぱい噛まれて持っていかれちゃった」と、つづけた。
半歩身を退いたぼくをみて、「でも、いいよ」と、由香里は告げた。
「パパに吸われるんなら、惜しくない」
セミロングの髪を掻きのけると、白い首すじが、うわぐすりを塗ったように滑らかに輝いている。
ぼくは、がまんできなかった。
由香里を抱き寄せて、うなじに唇を吸いつけていた。
いつの間にか備わった女の芳香が、微妙に喉を、鼻腔を刺戟する。
思わず力を籠めて、喰いついてしまっていた。
あふれ出てくる血潮に狼狽しながらも、ゴクゴクと音を立ててむさぼっていた。
囚われの女学生は、ぼくの腕のなか、むしろそうすることが自分の務めと心得ているように、背すじを心持ち反らした姿勢のまま、容赦なく突き込まれる牙を受け容れてった。

「パパもエッチだね」
由香里はそういいながら、ベンチに腰かけた姿勢で脚を咬ませてくれた。
足許を狙われていると知ると、ぼくに楽しませるためにわざと、ずり落ちかけたハイソックスを引きあげていた。
娘あいてに、はしたない――
そう想いながらも、通学用のハイソックスのしなやかな舌触りに、ぼくは少しばかり欲情を感じていた。
「気になってるんでしょ、ママのこと」
由香里は無口な娘だったが、場の空気を察するところがあった。
「ここで待とうよ、あたしも付き合う」
褪せかけた頬をいっそう蒼ざめさせながら、由香里は公園の入り口のほうを見やっていた。
そう。
妻はきっと、ここへやって来る。
妻を誘うときのデートの場所はいつもここなのだと、彼は教えてくれさえしていたのだ。

妻を待つ間じゅう。
娘の顔色の蒼さを気にかけながらもぼくは、血のりのついたうなじを吸いつづけずにはいられなかった。
傷口から漏れ出てくる血の量はおさまりかけていて。
舐め取るくらいにしか滲み出てこなかったけれど。
それでも由香里は従順に、ぼくに吸われるがままになっていた。

30分ほどもしたころだった。
辺りはもはや闇に包まれていて、公園のところどころにしつらえられたベンチのそれぞれを、街灯がスポットライトのように照らしている。
来てほしい、と思いながらも、来てはいけない・・・と感じていたそのひとが、見慣れた小柄な痩せ身を影絵のように忍ばせてきたとき、
思わず娘と目を見合わせてしまっていた。
「いつもここで百合子を愉しんでいる」
彼の言い草を確かめるために訪れた公園で、密会を観るはめになろうとは。

百合子はいつも見慣れた、茶色とオレンジの入り混じった、幾何学模様のワンピースを着ていた。
凝ったデザインのわりに地味な着映えになるのは、そういう柄なのか、本人が地味だからか――
足許に通した肌色のパンストはいつもながら野暮ったく映るけれど、
それすらも、妻にとっては精いっぱいの、彼のための正装なのだ。
肚の奥がカッと火照るような、嫉妬を感じた。
ひっそり佇む百合子に、彼は足早に近寄った。
一直線に迫って来る男の影に怯えるように、百合子が半歩後ずさりする。
「あの――」
百合子が声をかけた。
「喉渇いているんですよね・・・」
ひっそりとした声色に、優しい同情がこめられている。
彼はゆっくりと、肯いた。
「いつもみたいに、お願いできるかな・・・」と、彼は言った――
「はい、どうぞ」妻はこたえた。
妻はもう、後ずさりしようとはしなかった。

うつむき加減に佇む百合子の立ち姿を、男の猿臂がそうっと覆った。
気温が冷えて空々しくなりかけた外気から、庇うような仕草に見えた。
吸いつけられてくる唇に、百合子はためらいもせずに、うなじを添わせてゆく。
蛇のように喰いつく牙に身をゆだねたのが、かすかな身じろぎでそれとわかった。

ごくり・・・ごくり・・・ぐちゅうっ。
生々しい吸血の音が切れ切れに、薄闇を通して洩れてくる。
彼の喉が鳴るたびに。
妻はわが身をめぐる血潮を、惜しげもなく飲みむさぼらせているのだ。
彼にとっては、いまが至福の刻なのだ――と、ふと思った。
そう思うと、目を離せなくなっていた。
腕のなかの百合子は、満足そうな笑みさえ泛べて、露骨な飲血の音に聞きほれているようにさえ見えた。
あるいは、妻にとってもいまが、至福の刻なのかもしれない――と、ふと思った。
吸血行為に同情を覚えはじめたぼくの身体は、渇きかけた血管をはげしく脈動させた。
妻に対する他人の吸血行為さえ、わが身の悦びと錯覚し始めていることに。
ぼくは戸惑いを覚えていた。
脂の乗った四十代の人妻熟女の生き血に酔い痴れている彼が、羨ましいと思った。
そして、人妻の生き血に浸ることが許されることが、彼にとって好ましいとさえ、感じ始めていた。
そして、それと同じくらいに・・・われとわが身をめぐる血潮を惜しげもなく飲ませている百合子のことを、潔いと感じ始めていた。

「どうする気?」
由香里が上目遣いに、ぼくを見あげる。
「確かめてみたかったんだ」と、ぼく。
なにを――?と言いたげな娘に、ぼくはいった。
「彼に訊いたんだ。
 どうして百合子なのか?って。
 ママは見映えも地味だし、大人しいし、彼のような男をそそるタイプとは思えない。
 もっと若くて、派手めで、きらびやかな女性のほうに、どうしていかないんだろうって。
 そうしたら、言われたんだ。
 ――いつ招んでも、すぐ来てくれる。
人妻熟女の生き血に手っ取り早くありつくには、百合子にかぎる。
彼女は律義だから、俺の期待を裏切ることがない――って。
 だから、思ったんだ。
 ぞんざいな扱いをされるのなら、百合子の善意が穢されるんじゃないかって。
 でも――どうやらパパの思い過ごしみたいだね」
「そうだね」――娘もいった。
血を吸い取られてゆく自分の母親の立ち姿から、ひとときも目を離さずに。

抱きすくめられた妻は、恋人のような口づけの嵐に身を任せ、
ひと口ひと口愉しみながら血を啜られるのを、明らかに歓んでいた。

「怖かったら逃げても良いんだぞ」
なに食わぬ顔で帰宅したぼくは、妻にいった。
「ううん――だいじょうぶ。でも、怖かったら逃げるね」
妻は蒼ざめた頬に精いっぱいの笑みを泛べ、そう応えた。
ふと見ると。
茶色とオレンジの入り混じった幾何学模様のワンピースは、
不規則な水玉もようを新たに加えられる憂き目をみていなかった。
よほど入念に咬みついたのか。
首すじにふたつ綺麗につけられた咬み痕には、かすかな血のりが滲んでいるだけだった。


あとがき
半吸血鬼と化して娘の生き血を口にしながら、妻の受難を見守る夫――
取るに足らない、欲求を満足させるためだけの便利な女・・・と思われていたのなら切なかったけれど。
どうやら「彼」は、奥さんのことを本気で好きだったみたいです。
娘さんの直感の勝利ですね――

下校中の娘のハイソックスの足許を狙うなんて、お父さんエロいですよね。^^
あと、末尾は、次話へのつたない伏線です。^^
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