fc2ブログ

妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

由香の彼氏。

2024年01月24日(Wed) 23:49:33

「え?私と?」
切羽詰まったぶきっちょさだらけの告白に。
由香里さんはけげんそうに、ボクのことを見つめた。
「こんなでぶっちょさんのこと、からかうもんじゃないわよ」
冗談ごかしのうそぶきの、語尾が少しだけ、震えていた。
そうじゃない――
ボクはけんめいに、言いつのった。
いつも冷静な物腰に、クラスをまとめる責任感。
だれに対しても献身的な、看護婦さんみたいな善意と情熱。
そんな優等生ぶりに惹かれたのだと――どうやってうまく説明できたのだろう?
とにもかくにも由香里さんは、ボクが嘘ん気ではないのを、わかってくれたみたいだった。

でもね――
由香里さんはなにかを、言いよどんだ。
それはたぶん、ボクの一方的な好意をはぐらかすためではなく、
本音でなにかを伝えようとしていた――と、ボクの目には映った。
何・・・?
ボクは探るような言葉を、由香里さんに投げかけた。
うぅん、なんでもない。よそうねこんなの、悪い冗談だよね・・・
由香里さんは思い直したように、そういった。
すこし冷静になって、一歩か半歩、身を引いたような言い方にきこえた。
冗談だなんて――
ボクが憤然として、もういちど言いつのろうとしたとき。
由香里さんははっとした顔つきをして、
ごめん、とだけ、ボクにいった。
「創太くん、本気で言ってくれてるんだよね、私、失礼なこと言ってしまった――」
由香里さんは心からの後悔を、独り言で返してくる。
訊いてもいい?と、ぼくはいった。
なにを・・・と言いよどむ由香里さんに、
「でもね」の続き――と、ぼくはいった。
わかった・・・
由香里さんは気おされたように、こたえてくれた。
けれどもとても、すべてを言いにくそうなのは、容易に見てとれた。
それでも「でもね」の続きを訊く権利がある・・・と、ぼくはおもった。

私ね、献血してるの。
知ってるでしょう?この街に吸血鬼が大勢いるって。
その中の1人に、家族みんなで献血してるの。
パパもママも、もちろん私も・・・
わかるでしょう?
首すじを舐められながら吸血されるんだよ?
それと、あのひとったら、ストッキングやハイソックスが好きなの。
だから、下校途中で呼び止められて、制服着たままハイソックスの脚を咬まれたりしているの。
それなのに私――学校の名誉を損ねているかもしれないのに――あのひとにせがまれるまま、その献血を続けているの。

それが由香里さんの話の、すべてだった。

えっ、それって、いけないことじゃないんじゃない・・・?って、言いかけて。
いやまてよ――と一瞬、想い留まった。
だって。
気がつかずには、いられなかった。
もしも由香里さんがボクの恋人になってくれたとして。
どうやら親ぐらいの年恰好らしいその吸血鬼に、
首すじを舐められハイソックスを破られながらの吸血を、耐え忍ばなければならないはずなのだ――ということに。
せっかく恋人になってくれるのにそんな不義理をするのは、
生真面目な由香里さんにかぎって、とてもできたことではないのだと――

そこまで言ってくれたあなただから、言わないわけにはいかないから、言うわ。
ママはね、吸血鬼に血を吸われながら、抱かれているの。
どういうことか、わかるでしょう?
そう、恋人同士みたいに、抱かれているの。
パパはそんなふたりの関係を気遣って、それ以上立ち入らないからって、ふたりのお付き合いを認めているんだ。
でも――
もしも、もしもね・・・
貴方と私が将来、結婚するとしたら――
あのう・・・セックスを経験した女のひととは、絶対そういうことをするんだって。
だから、貴方のお嫁さんになった途端に、私あの人に・・・その・・・犯されちゃう立場なんだよ。
だから・・・
いまのうちに私のことは、思い切ってくれないかな――

驚くべき事情と、決然とした態度とで。
ボクは旗を巻いて撤退するしかなかった。
いちどはちゃんと、考えてほしいな――彼女はそんなボクを責めるでもなく、独り言みたいにそういった。

一週間、ボクは考えた。
母さんが言っていた。
お隣の奥さんも、父さんのお友だちご夫婦も。
最近はみんな、血を吸われているみたい。
気味が悪いわこの街はって。
そうなんだろうか?
そういう、気味の悪い街なんだろうか?
ふと目にした窓辺の気色は、いつものように穏やかで、だれもが安心して暮らしている街そのものだった。

放課後、下校するところを待ち構えていたボクに、
由香里さんは覚悟していたらしく、まともに目線を合わせてきた。
「話・・・あるの?」
「うん」
「長くなりそう・・・?」
「うん、きみしだいで長くなる」
ボクは言葉に力を籠めていた。
それが由香里さんにも、伝わったらしい。
「じゃあ来てくれる・・・?」
むしろそっけない言葉つきで、後ろも振り向かずに家路をたどっていくのだった。

ここでね。
彼女が立ち止まったのは、自宅近くの公園だった。
ここでいつも、私血を吸われているの――
見学してく?
からかうような目つきの由香里さんに向かってボクが強く頷くと。
彼女はびっくりしたように、大きく目を見開いた。
冗談とか・・・やだよ。
由香里さんはボクのほうを見ずに、そういった。
「本気のつもりだから――」ボクはそう応えるしかなかった。

公園の隅っこにある噴水の傍らに、由香里さんは真っすぐに脚を進めていく。
真っ白なハイソックスが眩しい、まだ陽の当たる時分だった。
「あたしね」
由香里さんが、彼女には珍しい蓮っ葉な調子で口を開く。
「あのひとに楽しませてあげるときには必ず、新しいやつ履いて来るの」
彼女はじっと、自分の足許を見つめていた。
真新しい白のハイソックスは、夕陽を照り返して、太目のリブをツヤツヤと浮き彫りにしている。
吸血鬼ではないボクにさえ、それはとても美味しそうに映った。
「あたしがデブで、血をいっぱい獲れるから襲われているだけなんだ・・・けどね・・・」
彼女の声が、くぐもった。
もしかすると、そんな劣等感があるのかもしれない。
由香里さんのお母さんは、控えめで目だたないタイプだったけど、優しそうな女(ひと)だった。
あのひお母さんも、由香里さんともども血を吸われているんだ――と、ボクはおもった。
「あのひとったら、ママが本命なんだよね。私はその付けたり、おまけに過ぎないの」
由香里さんは初めて、本心をいった。
たしかに彼女よりきれいな女子はなん人もいるかもしれないけれど。
負けず嫌いで誇り高く、級長としての責任感をいつも満面に湛えている彼女が、はじめて見せた劣等感に。
ボクは脚がすくむ想いだった。

黒くて淡い煙が、辺りに立ち込めた。
ふと見ると。
背の高い顔色の良くない男が、国威に身を包んで、目の前にいた。
「この人が由香里の彼氏さんかね?」
男はいった。
「まだ、そんなんじゃないから」
由香里さんはこたえた。
「まだ」――ということは、まだボクにも見込みはあるんだろうか?と、ちょっとだけそう思った。
「あ・・・あのっ」
ボクは思わず、声をあげた。
半歩差し伸べた制服の半ズボンの脚は、濃紺のハイソックスに包まれている。
ふと見ると。
ハイソックスが脛の半ばまでずり落ちていた。
カッコ悪・・・ボクは思った。
あわててひざ小僧の下まで引き伸ばすしぐさを、男は笑いもせずに見守っていた。
「先にボクの血を吸ってください。やっぱり、女の子を守るのが男子の務めだと思うから――」
知らず知らず、ボクは彼と由香里さんとを隔てるように、立ちはだかっていた。
「けっこうな勇気だな」
男はいった。
「けれども――良いのか・・・?」
と、男は訊いた。
「ど、どういうことですか!?」
ボクはこたえた。
「血を吸われるようになったら、後戻りはできなくなる。
 いまならまだ、後戻りができる。
 彼女を諦めさえするのなら――」
男はいった。
「そんなつもりでここまで来たわけじゃありません」
ボクは本気で、口を尖らせる。
すると男は案外にも、
「すまん、すまん、そりゃそうだよな。失敬した」
と、困ったような顔つきをした。
その困惑した面ざしに、ちょっとだけ共感を覚えた。
「創太くん止しなよ」
背後から声がした。
「止さなかったら――ボクの彼女になってくれる?」
ボクはこたえた。
「信じらんないんだけど・・・」
由香里さんは、独り言(ご)ちた。
「答えて・・・」
ぼくはいった。
「わかった・・・彼女になる・・・」
背中越しにミニにする由香里さんの声が、涙声になっている。

初めて受け容れた牙は、思いのほか痛みを感じなかった。
けれどもそのまえに、ボクの履いているハイソックスをたんねんに舐め尽くす舌なめずりに、閉口するはめになった。
じっとりと這わされてくる舌が、しなやかなナイロン生地ごしに卑猥な情感を伝えてくる。
「男女問わないんだよ、わしは」
男はいった。
「わかった・・・わかったから、好きにしなよ・・・」
ボクは、そういうしかなかった。
嫌というほど繰り返した舌なめずりのあと、男はおもむろに、ふくらはぎを咬んできた。
痛・・・っ!
心のなかで叫んだのが聞こえたかのように。
男はふたたび、舌なめずりをくり返してくる。
傷口に埋め込まれた痛みが、ほどよくまぎれるのを、ボクは感じた。
チューッと音を立てて血を啜り取られるのが、音と気配とでわかった。
血液を引き抜かれるときの感覚が、無重力状態にいざなわれるようで、なんともいえなかった。
「悪い、悪いね・・・」
男がそう言いながら、なおも飽きもせずに舌なめずりをなすりつけてくるのに、
ボクはハイソックスを引き伸ばし引き伸ばししながら、応じていった。
あー・・・
貧血がにわかに、ぼくの脳裏を混濁させた。
「あー、具合悪くなったかな?無理するなよ」
吸血鬼はむしろ、ボクの体調を気遣っているようにさえ思えた。

その場に横倒しになってしまうほど尽くさせてしまうと、
ボクにはもう、由香里さんに対する吸血を妨げるための打つ手がなかった。
「次はあたしの番ね」
由香里さんが割って入るようにして、白のハイソックスの脛を彼に向って差し伸べた。
「彼女の血を吸っても良いか?」
男はわざわざ、ボクに訊いた。
「良くないよ――」
ボクはけんめいに、かぶりを振った。
「ゴメンね、創太くん。私この人に血を吸われるの、嫌じゃないの」
あの生真面目で近寄りがたい由香里さんが、制服のスカートをたくし上げんばかりにして、
白のハイソックスの脛を、男に向けて差し伸ばしていた。
見慣れた制服のハイソックスのリブの上に、ボクの血をあやした牙が突き立てられて。
ズブ・・・ッと刺し込まれてゆく。
そんな光景を、どうしてドキドキしながら、見守ってしまっているんだろう?
貧血に迷った脳裏を、真っ白なハイソックスに散る赤い飛沫が、狂おしく染めた。

いつの間にか。
尻もちを突いた由香里さんは、公園の芝生の上に組み敷かれていって。
「ああ・・・やめて・・・」と呻きながら、首すじを咬まれていった。
真っ白なブラウスに散ったバラ色の飛沫が、もう何も遠慮しないで良いのだと語っていた。
由香里さんの身体を流れるうら若い血液を、男は思う存分ゴクゴクと飲み込んでゆく。
惜しげもなく――というほどに。
由香里さんもまた、ブラウスのえり首をおし拡げんばかりにして、白い胸もとをさらけ出し、皮膚を破られていった。
男が由香里さんの血を想うさま吸い取ると、こんどはふたたび、ボクの足許にかがみこんで来る。
どうぞ・・・と呟きながら、ボクはそうっと、ハイソックスのずり落ちかけたふくらはぎを、自分から差し伸べてしまっていた。
男は無遠慮に、ボクのハイソックスを咬み破るのを愉しみながら、吸血に耽ってゆく。

ボクももう、由香里さんに負けず劣らず、吸血鬼の奴隷になり果ててしまっていた。
どうぞ・・・もっと咬んで・・・もっと楽しんで良いですよ・・・と、呟きながら。
紺のハイソックスの脚を、男の舌に、唇に、好むままに添わせていってしまっていた――


あとがき
由香里の身の上が気になっていたのですが、
最近にしては珍しく、あっという間に描けちゃいました。^^

後記
2月4日、少しだけ改筆。
前の記事
血を吸われたことを母さんに告白する。
次の記事
吸血鬼とお母さんの鬼ごっこ

コメント

コメントの投稿

(N)
(B)
(M)
(U)
(T)
(P)
(C)
管理者にだけ表示を許可する
トラックバック
http://aoi18.blog37.fc2.com/tb.php/4192-0fb22eda