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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

臨時登校日

2006年08月04日(Fri) 11:00:15

ぎらぎらと輝く太陽の下。
いつも静まり返っていた学校が。
にわかなにぎわいに満ちている。
きょうは、臨時登校日。
半月しか離れていないのに。
ずいぶんと長いこと会っていないような気分になるのは。
真っ黒になった子。
どことなく、大人びた子。
みんなそれぞれに、磨かれ輝きをましたせいなのだろう。

初めてつけたピアスを自慢するように、咬まれた痕を見せびらかす少女。
生え初めた牙の長さを誇らしげに、クラスメイトと比べ合いっこしている少年たち。
そうした異形のものたちも。
子供たちはさしたる違和感も伴わず、無邪気に共有してしまっている。

「咬まれちゃった」
幼馴染みのとも子が、
こっち来て。
ちいさな声で、少年を呼び止めて。
人けのない校舎の裏手に、手を引くように呼び寄せて。
そっとおさげ髪をひきあげた。
ついぞ見つめたことのない少女のうなじは、
どきっとするほどなめらかな、女の皮膚に覆われていて。
その隙間を侵すように。
赤黒い痕がふたつ、綺麗に並んでいた。
神秘的なものでも見るように。
それでいて、どこかじりじりと、落ち着かない。
いつの間に・・・?
少女の肌の変化と。
その肌につけられた犬歯の痕と。
そのどちらもが、少年から落ち着きを奪っていた。

いちど血を吸われちゃうとね。
もう二度と、ほかのひとには血をあげられなくなるんだって。
あたしほんとうは、ケンくんに血をあげたかったんだけど。
もうそんなこと、できなくなっちゃったね。
ちょっと寂しそうに俯く少女の横顔が、
少年の目には、この世のものとは思われないほど高貴なものに映っていた。
でもね。
少女の話は、終わっていない。
今夜は、満月でしょう?
お月さまが、のぼる前にね。
誰かに血を吸われたら、魔法は解けるんだって。
「誰かに」
その部分に力点がこめられたように思えたのは。
空耳だろうか?少女のほんとうの意思だろうか?

もうじき、のぼるわ・・・
少女は虚ろな目になって。
空の縁を見つめている。
いつのまにか、眩しかった太陽は、にわかにその輝きを減じはじめていた。
あ・・・
危うくなにかを言いかけて。
少年はごくり、と、生唾を呑みこもうとしたけれど。
口のなかからは、潤いが去っていて。
からからに渇いた喉が、ひっつきそうになっただけだった。
われ知らず、少女のほうへと身を寄せていて。
震える手で、おさげ髪をかきのけて。
痕のあるのとは反対側のうなじへと、生えかけた牙を突き立てていった。
きゃっ。
少女はかすかにあらがったけれど。
がっちりとつかまえられた握力を両肩に感じると。
立ちすくんだまま、少年の衝動に従っていた。

夕闇が、濃くなった。
姿勢を崩した少女は、足許を草むらに淪(しず)めていた。
「嘘、ついてたね?」
少年は咎めるように口を尖らしたけれど。
しんそこ怒っているわけではなさそうだった。
陶酔にほんのりとなった少女の頬が、こわばることはない。
そう。自分でつけたの。それらしく。
あなたに初めて、吸ってもらいたくって。
男の子はなかなか気がついてくれないけれど。
あたしだってもう、キケンなお年ごろ・・・なんだから。
「罰だ。もっとやらせろ」
「きゃっ」
戯れあう犬ころのように。
周囲の草むらは、がさがさと穂先を揺らがせて。
そのうちスッ・・・と、しずかになる。
りぃん。りぃん。
暗闇に漂う静かな虫の音は、まだ稚ないふたりへの祝婚歌だろうか。
お月さまはとっくに、ふたりの頭の上。しずかな輝きをたたえている。
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コメント

夏休み・・・
開放的な時間・・・喪失・・・
そういった文法を久しぶりに思い起こしました。
いまの世の中は一年中<開放的>なので、こんなドキドキは少なくなってしまったように思えるのはわたくしだからでしょうか。
誰かに奪われる前に、好きなコにあげる。
そんないじらしさが、愛おしいですね。
by 祥子
URL
2006-08-05 土 07:34:21
編集
>祥子さま
おっしゃるとおり。
解き放たれることが美しいのは、束縛の存在あればこそ・・・ですね。
こういう可愛い嘘は、いまでも健在なのでしょうか?
by 柏木
URL
2006-08-05 土 22:52:29
編集

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