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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

重役室

2005年09月17日(Sat) 00:36:00

重役室のミーティングは相変わらず恐怖だった。
とにかく、手厳しいのだ。
片づけなければならないノルマが雪だるまのように膨らんでゆくありさまを目の当たりにするのは、気持ちのよいものではない。
たいがい、出張の報告書を提出した2、3日後が危ないのだ。
テキは、徹底的にリサーチしたうえで、こっちを呼びつけている。

きょうのミーティングの恐ろしさは、想像を超えていた。
白面の鳥飼女史は表情ひとつ変えないで、びしびしと疑問点を質しにくる。
―――あー。あー。たまらない・・・
忍耐力はある時点で臨界点に達し、あとは真っ白になった脳みそが無力な呻き声をあげるだけ。
しぜんに頭は垂れてきて、女史の顔をまともに見返すことができなくなってゆく。
しぜんと下がる目線は、女史のスカートの下に集中した。
透きとおった肌色のストッキングが、ちょっと筋肉質なふくらはぎをしなやかにコーティングしている。
いつも女史が好んで穿くのは、黒とかダーク・ネイビーとか、濃い目の色だった。
しかしきょうのいでたち――ぱりっとしたライトグレーのスーツ――には、透明なストッキングがじつによくマッチしている。
すねにひと筋じんわり滲む光沢が、こんなときでも彼を挑発する。
頭上から降り注ぐ辛辣な叱声と。
スカートの下のこの魅惑的な情景と。
はたして本当に同一人から発しているものなのだろうか・・・?
そんなフラチなことを思い描く瞬間、
「ねぇ、蛭田くん」
すべてを見通しているかのようにじいっとのぞき込んでくる目線を感じ、ぎくりとした。
「キミの考えはちっとも進んでいない。いつまでも既存の大手客や縁故頼みのルートを考えていてはダメよ。だからいつまでたっても間々田くんに勝てないの」
蛭田の想いを知ってか知らずか、女史は冷酷にそう結論づけた。
どんな優秀なストラテジスト(戦略家)であっても、たいがい発想の根源は単一だという。
ナポレオンは大軍の指揮しか、義経は奇襲攻撃しか、けっきょくのところ思いつくことはできない。
そう、これはオレの限界なんだ・・・
弱々しい敗北主義が、いつものように脳裡をかすめたとき。

「若い子の血液はイキがいいようね」
え?
脈絡のない話題の転換に混乱しながら、蛭田は思わず顔をあげる。
「フフ・・・図星のようね」
とっさのことに思いつきもしない否定の文句をムグムグと口のなかでこき混ぜていると、第二撃がくわわった。
「あいては間々田の婚約者、庶務課の・・・だよね?」
「あぁぁぁ・・・」
もう、こうなると、絶句するしかない。
どうして女史はそんなことを知っているのだろう?
「何でも知っているのよ、私」
女史は昂然と肩をそびやかし、恰好のよい脚を組みなおす。

と―――
どん!
脚をあげたはずみにテーブルが揺れ、女史の万年筆がじゅうたんに転がった。
優雅なルックスに似合わず彼女のしぐさは男性的で、もう少しいってしまえば、がさつなのである。
男社会でもまれた証しか、生来の性分なのかは、本人にもわかっていない。

「拾ってくれないの?」
意地悪な視線を横っ面に感じながら、蛭田は席を離れ、転がった万年筆に手を伸ばす。
しゃがみこんで万年筆を拾い、どうぞ、と差し出すと、女史が冷然として彼を見おろしている。
「男がひざまずいているのって、なんだか愉快」
いつかどこかでこんな文句を聞いたっけ・・・そう思いながら女史に万年筆を渡して席に戻ろうとすると、
つややかな光沢につつまれたふくらはぎがすぐ目のまえをよぎった。
「あらぁ」
女史が声をあげた。
「きょうは舐めたり、咬んだりしないのね」
ええっ!?
蛭田はこんどこそ、腰をぬかしそうになる。
「貴方のために穿いてきたのよ。それともやっぱり、若い子のほうがいいのかな?」
お気軽な口調とは裏腹に、金縁メガネの向こう側の大きな瞳は瞬きもしないで彼のことをじいっと見据えている。
・・・きょうのミーティングが厳しかったわけは・・・
「不埒なことを考えないでね」
蛭田のフラチな想像をひと言で制すると、特異体質の部下に対する慈善事業よ、といって、しっかりとした肉づきのふくらはぎが彼のまえに差し伸べられた。
「こんなテカテカのやらしい感じのするストッキング、ずっと穿いてるわけにはいかないわ。きれいに破って頂戴ね」
自分の足許にかがみ込んだ蛭田がぬるりとした唇を熱っぽく這わせてくると、女史は初めてイタズラっぽい顔をして、相好を崩した。

あとがき
よぅく読めばわかるように、「勤め帰り」からここまでは一連の続きもののお話です。
最初は鳥飼女史が登場するお話だけを予定していたんですが、その伏線が欲しくなって、こんなに長くなってしまいました。

濃厚な光沢のストッキングを穿いてきて。
部下の彼を不当なくらいに叱責しながら挑発して。
わざと物を落としておいて、拾わせて。
彼の鼻先になまめかしく装った脚をよぎらせて。
「アラ、若い子のほうがいいの?」
もちろん女史はオトナの女性ですから、本気で嫉妬しているわけではありません。
吸血鬼な彼をからかいながらアイしている・・・といったところでしょうか。
「男がひざまずくと」うんぬんというのは、「ベテランOLの息抜き」に出てきます。
人のいない部屋で後輩社員にストッキングを破らせてつかの間ストレスを発散していく、あのお話ですね。
これは主人公の男性の名前はありませんが、間違いなく蛭田です。
絶対分からない状況での秘密のやり取りのはずなのですが。
鳥飼女史はどうやってこの油断のならない部下の情報を収集しているのでしょうか?^^
裏側にあるのは、もちろん愛なのですが。
でもちょっと頼りない部下に対するそれは、ともすると姉が弟に対して、もしくは母親ができのわるい息子に対して注ぐようなそれになりがちのようですねぇ・・・
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