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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

憎めない血

2006年08月20日(Sun) 05:55:55

「先日のお話・・・ね」
芙美子が薄っすらと、ほほ笑んだ。
つぎに洩れる言葉が吉か凶か、微妙な笑みからは読み取ることができない。
「まだ、迷っておりますの」
透きとおるような白い頬が、困ったような笑みをたたえつづけている。
出会ってひと月。
プロポーズしたのは、先週のことだった。

貴方のことは、好き。
けれどもね・・・
それから先をどうしても語りたがろうとしない彼女を強引なまでに促すと。
意外な事実だった。
好きな人が、いるんです。はっきり申し上げて、お付き合いもしているんです。
でもその人は結婚していて、いまの奥さんと離婚するおつもりはないんです。
私ももちろん、誰かと結婚するつもりだし。
でも、決してその人と離れることはできない・・・・・・。
エエ。相性が抜群にいいんです。セックスの・・・
どうしてこんなお話をするのか、ですって?
決まっているじゃないですか。
生涯の伴侶としては、貴方しか考えられなくなっているから・・・・ですわ。
不まじめな女だと、お感じになるでしょう・・・?

私のことをあきらめるなら、早めにあきらめてください。
芙美子の顔には、そう書いてあったのだけれど。
シュウジはとうとう、彼女の望みを受け容れてしまっていた。
芙美子を婚約者とし、妻としながら。
その男との割り切った交際を認める・・・という。
男としてはこれ以上の屈辱はないはずの条件に、却って軽い刺激と愉悦さえ覚えたのは。
きっと、おれがMだからだろう。
三十ちかくまで童貞だった彼は、自分のことをそう結論づけていた。

奇妙な交際が始まった。
女は水曜と金曜、それに日曜に、男のところに抱かれに行く。
デートは土曜と、水曜日。
3対2。
そんな比率も、彼女が決めたものだった。
いちど、どんな男だか。逢ってみたいな。
自らも予期しない言葉を洩らしてしまったのは。
婚約してからひと月たったころだった。

いいですよ。
女はわが意を得たり・・・といわんばかりに。薄っすらとほほ笑んだ。
末永くパートナーでいてくださるお二人だから。
それがいちばん、嬉しいご配慮ですわ。
女の口調はいつか、未来の夫に対してへりくだったものになっている。

芙美子の相手は白髪交じりでやせぎすの、ちょっと気弱な感じのする男だった。
意外なくらい、弱そう。
そうした直感は、すぐに優越感につながって。
婚約者の情人の、風采のあがらない風貌に、すこしホッとする思いが湧いた。
相手にもそれが、伝わったらしい。
けれども男はあくまで弱々しい笑みをたたえながら。
ご迷惑をかけます。
ひと言そういって、慇懃な礼をなげかけてきたのだった。

はっきりいって、ウマの合う相手だった。
いつともなしに始まった会話ははずんで、尽きることがなかった。
ちょっと失礼。
相手が自分の足許にかがみ込んでくるのも。
なんの警戒心も抱かずに、許してしまっていた。
ズボンがたくし上げられて、薄い靴下の包まれた脛があらわになる。
シュウジが気に入りの、ストッキング地のハイソックス。
淡い毛脛の浮いた脚に紳士用とは思えないほどの艶やかな光沢がよぎるのを、ちょっと恥ずかしそうに見おろしたけれど。
彼の唇をねっとりと圧しつけられてしまうのを、そのまま許してしまったのはどういうわけだろう?
数瞬ののち。
シュウジは意識を昏く、堕としていた。

ね?言ったとおりでしょう?女ものよ。
芙美子が口を尖らせて主張する。
いや。違うな。正真正銘、紳士用だよ。
男の口調はあくまでも、落ち着き払っている。
そお・・・?
女がちょっと未練がましく男の主張を認めたときに。
シュウジはフッと目を開けた。
気がつかれましたか?
あくまで慇懃な男の口許に、さっきまで自分の体内を流れていた血潮が散っている。

吸血鬼、だったんですね?
エエ、すみません。仲良くなれたのに、なかなか正体をいい出せなくて。
いえいえ、ごもっともなことですよ。
わたしの血は、いかがでしたか?
芙美子さんのほど、美味しくないでしょう?
嬉しそうなときも、苦笑いになるのですね。
吸血鬼の言い草に、シュウジはまたも苦笑いを返している。
まがまがしいはずだった、吸血のあとも。
ふたりの男性の親密さは、変わらない。

芙美子さんは、処女なんです。処女の生き血を好んで吸う・・・と、ご存知ですね?
ええ。お察しのとおり。芙美子さんの処女も、挙式のまえまでには頂戴いたします。
お許し・・・いただけますね?
あつかましい奴。
そんな想いを苦笑いにくるんで。
純潔だった・・・とは意外でした。望外のことです。
なぜ・・・って?
芙美子さんの純潔を、私のほうから貴方にプレゼントできるわけですからね。
ぜひ、そうさせていただきたいのです。
ああ。何となく、貴方にはそう仰っていただけそうな気がしました。
貴方の血を吸い尽さなかったのは。
芙美子をはさんで、仲良くやっていけそうな気がしたからなのですよ。
男の賞賛をうるさそうに受け流して。
単なる、Mなんでしょうね。
シュウジは諦めたような微笑を、口許に苦く滲ませる。
卑下しないで下さい。得難いことです。
男がふたたび、破れかけた長靴下のうえから唇を這わせてくるのを。
彼はもう、とめようとはしなかった。

・・・お察しのとおり、紳士用の靴下ですが。
・・・ふむ。いい舌触りだ。女ものと遜色ないくらいにね。
・・・お恥ずかしい。
・・・いえ。こういうものをお召しになる殿方を、なん人か存じ上げているのですが。
   たまたま、誰もがMでしたな。
・・・それで、仲良くなれると踏んだのですね?悪い人だ。
ニコニコとほほ笑む婚約者の前。
男ふたりは、声を合わせて笑っている。
わたくしも、お仲間に加えていただきますね。
女は思い切りお行儀悪く、スカートをたくし上げた。
  こうして・・・ね。
  母や妹の血も、このかたに吸っていただいているんですよ。
肌色のストッキングに包まれた婚約者の太ももに、男の唇がぬらぬらと這った。
初めて目の当たりにする光景だった。
脚線美を惜しげもなくさらけ出して牙にゆだねていく婚約者に、シュウジはドキドキと瞳を輝かせている。

結婚して、三ヵ月が経っていた。
芙美子さん。出かけてきますね。
姑の晴代はそわそわと、スーツ姿の身づくろいをしている。
黒のストッキングが、五十年配の女とは思えないほどのすらりとした脚線美を惹きたてている。
ええ、どうぞ。
さりげなく返した芙美子は、気づかれないほどの笑みを頬によごらせていた。
先週のことだった。
連れだって、彼のもとに案内したのは。
抵抗は、ほんの数秒・・・もあっただろうか。
首筋を咬まれた女は、すぐに酔わされてしまっていて。
息子さんの血が気に入ったんです。
若奥様の血も、処女も、貞操も。頂戴し続けているのです。
あらわに告げながら求めてくる吸血鬼のまえ、
すすんでブラウスのタイをほどいていた。
嫁の情人。息子の仇敵。
そう呼ぶべき存在に、いさぎよく肌をさらして・・・・・・。
ぎゅう、ぎゅう、ごくり・・・と、むざんに喉を鳴らす光景を。
貞女ぶりを賞賛する吸血鬼の抱擁のなか、
亡夫のため守りつづけた貞操を、気前よく振る舞う有様を。
隣室に隠れた夫は、いちぶしじゅうをドキドキと見つめつづけていた。
芙美子が処女を喪失するときとおなじように。

それ以来逢瀬は三日にあげず、つづいているのだが。
夫も、姑も。新しい環境に不平めいたことを口にすることはなかった。
玄関が閉められ、門が鎖される音が響くと、
芙美子はとんとん・・・とリズミカルな足音を響かせて、階上に向かう。
夫の妹は、歳が離れていて、まだ高校生だった。
「お義母さん、お出かけよ」
ふたりの女が交わし合うのは、共犯者の笑み。
さあ、横になってちょうだい。
義姉にせがまれるまでもなく、少女は濃紺の制服のスカートをひるがえして、黒のストッキングに包んだふくらはぎを眼前にさらしてくる。
奇跡的に、処女・・・・・・。
はじめて生き血を口にしたとき。
セーラー服の襟首に血潮を散らしたままウットリとしてしまった義妹に、芙美子は嬉しげな笑みを返していた。
あ・・・っ。
うう・・・ん。
ふた色の声が悩ましくからみ合い、勉強部屋は脂粉の芳香に満たされてゆく。

由佳の血も、召し上がったのですね・・・
スリップ一枚に引き剥かれながら。
母親はそれでも悩ましげに、情夫の腕をふりほどきかねている。
ああ、ダメ・・・
ストッキングのうえからなすりつけられてくる、不埒な唇。
上品なさらさらとした感触を愉しむようにねぶりまわしたあげく、
他愛なくチリチリに散らしてしまうのが、つねの振る舞いだった。
早くに亡くなった夫を弔うために。
日常から脚に通していた、黒のストッキング。
かつての質素で丈夫なやつは、貞操とともに裂き捨てられて。
ねじれるようにくねる脚を、いまは淫靡な光沢が彩っている。
いまは情夫を惑わす妖艶な小道具へとすり替わっていた。
隣室で娘の由佳を犯しているのは、息子。
お兄さんのことがずっと、好きだったの。
我を喪った小娘は、酔ったようにそう、口にし続けている。
嫁の芙美子は、そんな娘の頭をあやすように撫でながら。
そう、そう、想いを遂げることができて、よかったわね。
妖しい笑みをたたえつづけている。

本当は。
あのひとの一家が、憎かったんです。
父を破産に追いやった家だから。
張本人は死んでしまったけれど。
家族はわたくしの家の財産をいまでも食(は)んでいる。
だから、復讐してもいい・・・
そう。めちゃくちゃにしてやろう・・・と思って。
シュウジさんを、誘惑したんです。
そうしたらあのひと、言うんですよ。
あの青年は、面白そうだ・・・ですって。
ひと思いに、死なせるよりも。
うんと堕として、愉しんでみないかね?
耳の奥に、毒液を注がれるようでした。
わたくし、今みたいに心地よく笑みながら。
彼のアドバイスを、容れましたの。
でも。
目算違い・・・だったようですわ。
ご一家のかたがたの血を順ぐりにむさぼるうちに。
わたくしの母や妹の血とおなじくらい、好きになってしまったようですの。
味が似るのでしょうか・・・
ええ。いまではもう、皆で仲良く。
彼の処に、伺うようにしています。
伺う順番は、夫のまえでくじ引き♪
苦笑いしながら、とっても愉しそうなんですよ。あのひと。
ぜったい、ヘンですよね。
自分の奥さんや、お母様や妹さんまで犯される・・・というのに。
でもあのひとのMが、すべての幸せのもとだったのかも。


あとがき
久しぶりに何かが湧いた・・・と思ったら。
けっこう、長くなっちゃいました。(苦笑)
嫁になる女の手引きで次々とモノにしていったご一家が。
嬉々として己の生き血を与えるようになったとき。
吸血鬼は知らず知らず供血者たちと心を通わせるようになっている。
そんなお話です。
けれども案外。
すべてはさいしょから、芙美子のまがまがしい怨念を解かすために用意された、吸血鬼のシナリオだったのかも。
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ふぅ。

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