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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

2005年06月07日(Tue) 08:34:09

夜更け。
かすかにベッドをきしませて、妻は寝室から抜け出してゆく。
ネグリジェの裾に引っ掛けたのか、机の上にあったペン立てを不用意に落とした音がなければ、気づかなかったかもしれない。
少し間をおいて、私もベッドを抜け出した。
そらぞらしい外気に淡い鳥肌が滲み、もっとマゾヒスティックな歓びからくる寒気ににたようなものが、さらにそれを上塗りした。
しなやかな女体が音もたてずに、隣室のかすかな灯りの下でシースルーのネグリジェを脱ぎ捨てると、ゆるやかな白のブラウス、黒のタイトスカートを身にまとい,黒のストッキングに脚を通してゆく。
娼婦が身づくろいするような、手馴れた動き。
髪を整え、メイクをすませ、音を忍ばせて、妻は玄関から出てゆく。

吸血鬼に血を吸われる美女は正気をうしなって、命じられるままに夜中に自室からさまよい出るという。
しかしそれは本当だろうか?
完全に支配され、吸血鬼に心を奪われてしまったものたちは、己の密かな愉しみにふけるため、はっきりと自分の意思で家から抜け出してゆく。
「気づいたら、あのお邸におりましたの・・・」
困惑の表情をつくって、彼女たちは必ずそう口にする。
しかし、その語尾の震えは、ほんとうに恐怖からくるものなのか。
瞳の奥に少しでも、愉悦の曇りが漂うようなら・・・
妻の身持ちをいちどは疑ってみるべきである。

私も彼女と同じように、音もなくベッドを出る。
傍らをみると、テーブルの上にあるのは女性の下着。
ロングドレスのようにすその長い、黒一色のワンピース。
サイズが妻のものとちがうことを、私はよく知っている。
ムチの痺れを快感と受け取るある種の人たちと同じ種類の衝動が、心の奥に閃く。
「ここまでおいで」
人をあざけるのが面白くてたまらない、という感じに意地悪な笑いに崩れる妻の顔が浮かんだ。
そういうときの妻は、ひどく無邪気である。
私はいつのまにか、女の衣裳を手に取っている。
身支度するときの密かな音。
つけっぱなしになっている隣室の灯りの下、不倫の装いに身を飾ってゆく妻の姿が、幻のようによみがえる。
女装に身を包もうとする私の傍らで、洩れそうになる淫らな息遣いを忍ばせながら。
時折立てる不用意な物音。
あれは私が気配を察することができるほどに、わざと立てた物音だったのか。
薄笑いのすき間から白い歯を覗かせながら、寝入っている私の枕許でペン立てをわざと床に落とす妻・・・

音を忍ばせながら。
忍ばせた音に気づくよう、それとなく音を立てる。
手の込んだやり口に、甘い苦笑いが浮かぶ。メイクの下にこわばった唇から。
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