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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

ひぐらし時雨

2005年09月19日(Mon) 07:48:29

いつの年だったろうか。
季節はちょうどいま時分よりもすこし秋に近づいた、
ヒグラシがしきりに切なげな声をひびかせていた夕暮れどきのこと。

仕事が早く引けて家路をたどると、家のなかがまだ暗かった。
もうその刻限には灯りがいる季節になっていたし、
きのうも夕食の支度で騒々しささえもれてきそうな蛍光灯の光があふれるばかりに庭先にまで漏れていたはずだ。
吸血鬼の招待をうけたのだろうか?
その夜は従弟の妻か、妹夫婦のところへ行くと言っていた彼であったはずなのだが。
一時の気紛れで召し寄せられたものであるのなら、帰りはそう遅くないはずだ。
一杯やりながら待っていれば、ウキウキともどって来るかもしれない。
そんなことまで考えながら玄関を開ける。

意外にも、妻は家のなかにいた。
玄関をあがってすぐのリビングに、灯りもつけないままダイニングに腰をおろす妻。
俯いた横顔がこれを限りの夕陽に照らされて、ひどく美しくみえた。
「どうしたの?灯りもつけないで・・・」
と言いかける私。
彼女の表情の暗さについあとのことばをのみ込んでいた。

血のついたエプロンをつけたまま、彼女は脚を伸ばしてつま先に手をやった。
裂けたストッキングに爪を立てて。
ぴりり・・・ぴりり・・・
自分から、引き裂いてゆく。
ちいさな悲鳴に似たかすかな音とともに、みるかげもなくむしり取られてゆく。

「あの子も、大人になったわね・・・」
つぶやくような、虚ろな声色。
リビングはオープンに広々と、庭までつづいている。
夕焼けの名残りが広がる庭先と私たちのあいだに黒々と横たわるソファーに折り重なった、ふたつの影。
吸血鬼は母親の血を吸い取ったあと、その娘を襲っている。
すっかりなりをひそめている娘。
切なげな息遣いは、失血の苦痛からくるものではない。
もっと甘美なものを含んでいることに、さすがにうかつな私も否応なく気づかされる。

「もう、すっかり大人よ」
夕陽が織りなす光と影。
まくれあがったチェック柄のスカートからのぞく太ももが、豊かな陰影に彩られて、すっかり娘らしくなった肉づきを際だたせていた。
ひざ下までぴっちり引き伸ばされたショート・ストッキング。
まだ中学にあがるかあがらないかの年頃の彼女にとっては、精いっぱいのおめかしなのだろう。
一人前に、母がストッキングの表面に走らせた伝線とおなじものを走らせて。
ふくらはぎにひとすじ走る太い縦のストライプが、ふくらはぎの輪郭をかたどるように、微妙なカーブを描いていた。

妻の目線は、もうすこし上。
よく輝く瞳がウットリと焦点を喪って、淫蕩な輝きを帯びていた。
逆光になってさだかには窺えない娘の表情に、女のそれを見出したのだろう。
心なしか彼女の頬にただよう怨みの色。
それは娘を穢されたことに対するよりも、嫉妬であったろう。
おそらく彼女は未だそれを自覚してもおらず、しようともしないのだが・・・
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コメント

わたくしが・・・
吸血幻想にお伺いしはじめたころにアップされていたお話ですね。
なんだか、とても懐かしいです。

帰って来たばかりの夫への呟き。
でも、それはここにいないヴァンパイアへの呟きのように聞こえます。
心を奪ったままに返された妻と娘を、この夫はどんな気持ちで見つめているのでしょうか。

はじめてわたくしが吸血幻想に伺った時は、実は検索ワード繋がりだったのです。
淑やかにいらしたお客様の検索ワードを辿って行ったら、淑やかの1つ上にあったのが<吸血幻想>だったのですね。
ちなみにそのワードは・・・ストッキング でした。
by 祥子
URL
2006-08-27 日 07:59:09
編集
>祥子さま
濃密なオレンジ色の夕焼けに、いちめんに覆われた居室のなか。
放心した母娘の横顔に浮ぶ虚ろな翳・・・
そんなモチーフが一枚の油絵のごとく鮮明に、私の胸に灼きついているのです。
そろそろ夏の盛りが過ぎたころを描いたこのお話は、
季節が近づいたら再あっぷしようかと、ずっと取って置いたのでした。

それにしても。
笑いました。さいごの一行。^^;
by 柏木
URL
2006-08-27 日 23:40:34
編集

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