FC2ブログ

妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

どうやって帰ってきたの?

2006年08月30日(Wed) 06:45:36

がたがた。かちゃっ。
玄関のほうで、音がする。
おかしいな。
いまは深夜。
家族はもう、皆戻ってきている。
それどころか、寝静まっている。
今さら、一体誰が戻ってくるというのだろう?
隣の部屋かな?
ここは狭いマンションだ。
隣家の遅い帰宅が、つい自分の家のことのように聞えることだってある。
いや、そうでもなさそうだ。

あれこれ思っているうちに、廊下の向こうの鉄の扉が、ほんとうに開いている。
おいおい!待ってよ!
部屋、間違えているんじゃないの??
入ってきたのは、中年の女。
どこかで見たことがあるような気がする。
けれどもとっさに、思い出せない。
どちらにしても、ここに入ってくるはずのない人であるのに変わりはない。
部屋を間違えている・・・っていったって。
どうしてうちのカギを持っているんだろう?

女は我が物顔にどしどしと上がりこんできた。
ただいま・・・
まるで買い物から戻ってきたような気安さで、荷物を置いて。
ふと目を合わせると。
ありゃ。
初めて、びっくりしたように呟いていた。
「部屋、間違えてますよ」
つとめて冷静に話しかけたら。
「どうやらそのようだね」
女は案外、素直だった。
ごめんね、といって、荷物を持ち直して出て行こうとした。
踵を返して。
玄関に向かおうとして。
ちょっと立ち止まって。
首をかしげて。
「けれどもここに、間違いないはずだったんだがねぇ」
まぁいいか・・・というように。
もういちど、振り返る。

ひとつだけ、言っておくよ。
もうじきここには、あいつが来るから。
それだけ伝えにきたんだよ。
ま、このうちの人間なら、だいじょうぶ。
慣れれば仲良くなるからね。
身近な小母さんみたいな調子でそういうと。
おや。よくみたら。
ショウちゃんじゃないか。すっかり大きくなって。
懐かしそうに、ほほ笑んできた。
えっ?
どうしても、思い出せない。
あなたはいったい、誰ですか・・・?
訊き返すいとまもあたえずに。
こんどはあんたのお嫁さんの番だね。しっかりやるんだよ。
そうやって夜中に隠れて女の下着を着けるのも。
いずれおおっぴらにやれるようになるさ。
・・・うかつにも。どんな恰好をしているのかをつい忘れていた。
黒のレエスのスリップに、同じ色のストッキング。
顔と身体つきだけが、中年の男だった。

あいつが来る。
女の正体はついに思い出せなかったけれど。
来るやつの正体はとうに見当がついている。
招かざる、我が家の客人。
訪れるたびつぎつぎと、わが家の女だちは毒牙にかかり、血を吸い取られてしまうのだ。
子供のころ現れたときにはまだ若妻だったころの母が。
つぎに現われたときにはセーラー服姿の妹が・・・
いまではふたりとも、ひどく落ち着いた顔をして。
時折懐かしそうにうなじのあたりを撫でるクセだけが、今につづいている。

女が置き忘れていった荷物には、女ものの服がひと揃い、入っていた。
明け方それを見とがめた妻は、
アラ、素敵。
行きがかりも気にせずに、やおら袖を通していた。
あまり見慣れない紅葉柄のワンピースが、妻の黄色い素肌にひどくなじんでいる。
あつらえたように、サイズもぴったり。
妻は気に入ったと見えて、その日一日それを身に着けていた。
そう。深夜まで・・・

あっ。う・・・っ。
嬉しげな呻きをひそかに洩らしながら。
いま彼女は吸血鬼の腕のなか。
夫婦の寝室を明け渡されて。
立ったまま、両の二の腕をつかまれて・・・
やつはしずかに、妻のうなじを吸っている。
きちんとそろえた両脚は、肌色のストッキングのかすかな光沢に包まれていたけれど。
ベッドに押し倒されて、ワンピースのすそをめくられて。
太もものうえから、いいように蹂躙されてしまうのだ。
母や妹の例ではっきり記憶に刻みつけられている。
そのあとは・・・
ああ・・・そのあとは・・・
想いが浮き立ってしまうのは、夫としては口にできないことのはずだが。
あんた。お父さん似だねぇ。きっと愉しめるはずだよ。
夕べの女の口調が、脳裏に響く。
あのときそんなことを言っていただろうか?
それとも別の機会にいわれたのだろうか?

ふと見ると。
ワンピースをはぎ取られてむき出しの上体をさらす妻の頭の傍らに。
たてかけてある、一枚の写真立て。
祖母のものだった。
写真のなかのおだやかな笑みが初めて、夕べの中年女に重なった。
闊達な老け顔がなぜか、ひどくイタズラっぽくこちらに向けられているような気がした。
前の記事
裕美→華代→みちる→歌枝子
次の記事
未亡人?^^

コメント

コメントの投稿

(N)
(B)
(M)
(U)
(T)
(P)
(C)
管理者にだけ表示を許可する
トラックバック
http://aoi18.blog37.fc2.com/tb.php/477-0ce07e19