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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

裕美→華代→みちる→歌枝子

2006年08月30日(Wed) 07:12:47

カッ、カッ、カッ、カッ・・・
ヒールの脚が三対、歩みをすすめてゆく。
色は申し合わせたように、黒。
ストッキングの色も、濃淡取り混ぜながら、黒。
そう。ここは永久(とわ)の別れの場。
裕美ちゃん、きれいだったね。かわいそうに。
女たちは口々に、同僚の若い女の死を悼む。
黒い衣裳に包まれた影はしばらく寄り添うように交わるように歩みを連ねていたが、
やがて、三々五々散ってゆく。

カツン、カツン、カツン・・・
ヒールの脚は、きょうは二対。
控えめだがとりどりのデザインをもった黒いワンピースが、
せわしなげに歩みをすすめる。
華代ちゃんまで・・・ねぇ・・・。
女たちは声を忍ばせて。
ついこの間連れだっていた親友の死を惜しんでいる。
見た?
裕美ちゃんときとおんなじで。
首に針で突いたみたいな傷、あったよね?
もうそんなお話、やめましょ。
相方に遮られて。もう一人のほうも黙りこくってしまう。
黒の衣裳は先日の分かれ道まで来ると。
さよならもいわずに右と左に別れていった。

コツ、コツ、コツ・・・
黒のストッキングに包まれた恰好のよいふくらはぎ。
スカートのすそをさばくように、やや大またに歩みを進めてゆく。
女は、ひとり。
薄手のストッキングに透ける白い肌は冷えた空気のなか、
いっそう冴えるように輝いている。
さいしょのときは、真夏。
このまえは、晩夏。
いまはもう、葉が色づきはじめている。
これほどの短いあいだに、とうとう一人になってしまった。
さよならも言わなかったよね。みちる。
女は来た道を振り返り、独り呟いた。
睫毛の長い瞳がハッと見開かれ、
薄く口紅を刷いた唇が、かすかにわなないた。
折から立ち込める霧の彼方。
喪服姿の女の影が三つ、前途を遮るように立ち尽くしている。


「裕美!華代!みちる・・・?」
どうして?死んだはずなのに・・・
ホホ・・・
三人の女たちは、申し合わせたように喪服を着ていて。
蒼白い頬にかすかな笑みをたたえながら。
遺されたはずの歌枝子を取り囲むように立ちはだかった。
ひとりは歌枝子の腕を、もうひとりは肩をつかまえて。
まえに立ったのは、さいしょに死んだはずの裕美だった。
「ぜんぶ、吸われちゃったんだ」
何を?
問い返すまでもない。
生前と変わらぬ美しさをたたえながら。
血の気の失せた素肌だけが異質だった。
「で、それから華代ちゃんからそっくり頂いたのよねー」
イタズラっぽい口調も、もとのまま。
裕美に肩をつかまれた華代もイタズラっぽい笑みで応えて、
ちょっと身をすくめて見せた。
「華代の血はぜんぶ、あたしが独り占め♪」
蒼白い唇は、おしゃべりをやめない。
「それからふたりして。みちるのこと待ち伏せて・・・ご馳走してもらったんだよね?お葬式の帰り道」
「そうそ。そのときは、山分け」
こんどはみちるが、肩をすくめる晩だった。
おいしかった?
ご馳走さま。
とんでもない話題とは裏腹に、女たちはきゃっきゃと無邪気にはしゃいでいる。
本当はあなたの血も、独り占めにしたかったのよ~
もうっ。裕美ったらイヤラシイんだから。
あら、そおだったの?
よく言うわね。華代ちゃんだって・・・私のおっぱい揉みながら、血を吸ってたじゃないの。
さえずる後輩たちを押しとどめて。裕美がいった。
さっ、きょうは仲良く、歌枝子から血をもらいましょ。
ちょっ、ちょっと待って・・・
歌枝子は手をあげて、三人を制止しようとした。
その手を取って、押しやって。裕美は囁いた。
きょうの服はね。あなたを弔う喪服なのよ。
三つの黒い影に押し包まれた喪服姿は、ひと声アッと声をあげて。
身をすくめて立ち尽くして。
じょじょに姿勢を崩していって。
冷たい石畳の上、眠るように身を横たえていった。

美味しかった?
血をあやしたままの口許が、ほほ笑みかける。
うん。
華代はまだ指先にからみついた紅いものを、舌にからめてもてあそんでいる。
私んときも、そうやっていたよね。
お行儀わるい・・・という顔つきをするみちるは、自分の身体から血を抜かれたことにまだ恨めしそうにしている。
さあ、さ。行きましょ。
あなたもこれだけ吸ったら、満足でしょ?
なりたての吸血鬼を引き立てるように、裕美は囁いた。
歌枝子、ごめんね。お墓で待ってるわ。
人目を避けてわき道に消えてゆく影たちを見ていたのは飛び交う鳥たちだけだった。
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