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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

順ぐりに

2006年02月21日(Tue) 08:55:52

我が家に小僧が住みつくようになって、もう何年になるだろう。
ヤツの体は半分透けていて、一家のもののほかには姿を見ることができない。
だから、小僧に話しかけるのは客がいないときに限っている。
いくらなんでも空気に向かって話しかけてるところを見たら、誰だってびっくりするだろうから。

小僧はいつも心配そうに、私たち家族のまわりをうろうろしている。
病人がでると看病もするし、
家族のなかでいさかいがあると、それはおろおろとして両方のあいだを行き来して。
なんとか仲直りさせようとする。
ヒステリーを起こした娘にものを投げられても、泣きながら逃げ回るだけ。
そういうときの妻は決まって小僧をかばって娘を叱る。
路地裏で凍えて泣いていたところを見つけたお袋が気の毒がって、なかに入れてやったのがさいしょだった。
いまでは誰もが小僧を家族の一人と認めている。
男の子のいない家なので、我が家に取っては息子どうぜんのあつかいだった。
けれどもかれと私たちとのあいだには、どうしても越えることのできない一線が引かれている。
なぜなら彼は、吸血鬼だったから。

さいしょに血を吸われたのは、お袋だった。
勤めからもどって真っ暗な部屋に電気をつけたのは、私。
お袋は部屋の隅っこに大の字になって、小僧にうなじをちゅうちゅうやられていた。
はじめはふざけているのかと思ったけれど、小僧の口許についた紅いものとお袋が目もうつろにウットリとなっていたのでただごとじゃないと気がついた。
あわてて小僧を引き離すと、
だいじょうぶよ、だいじょうぶ。
傷に手をあてがいながら起き上がったお袋は、申し訳ながってべそをかいている小僧をとりなした。
よほど気分がよかったものか、お酒を飲みすぎたときみたいに呂律がまわらなくなっていた。

次の日から。
小僧はいっそうお袋になついていて。
どこまでも、金魚のふんのように後をついてまわっていた。
まぁ・・・まぁ・・・
あきれたような、お袋の声。
いつの間にか咬まれていたふくらはぎの上、黒のストッキングが鮮やかな伝線を走らせている。
早くに亡くなった父を弔うために、いつも脚に通していた装い。
そんなものすらも、小僧の戯れ心にゆだねていた。

安心しなさい。あなたたちに相手しろなんていわないからね。母さんひとりで面倒みるから・・・
お袋はたしかにそう言っていたけれど。
つぎに狙われたのは、妻だった。
うかつなことに、そのときはちっとも気づいていなかった。
ところがある晩夜中に目が覚めると。
寝室に灯りがこうこうと点っていて。
小僧は私のうえに馬乗りになっていて、私の血で頬を濡らしてしまっていた。
ごめんね。どうしても血が欲しくって。
悪戯をみつかったときのように決まり悪げに、彼はもじもじと俯いている。
まるで酔っ払ったようなけだるさから、怒りを忘れて腑抜けてしまっている私。
いいんだよ。お袋だけじゃ無理だってわかっていたから。もっと吸うかい?
私が優しくそういうと、謝罪するような目で私のことをじいっと見下ろして、それから素直にこくりと頷いた。

こくっ・・・こくっ・・・くいっ・・・きゅうっ・・・
奇妙にあからさまな音を忍ばせて吸い取られてゆく私の血。
なにか得体の知れない強い力に吸い寄せられて、深淵に引き込まれてゆくような気分がした。
けっして、悪い心持ではない。
引きずり込まれた深淵は暗く暖かく、そしてとても安らかなヴェールに私を包んでゆく。
脳裏の奥深くとぐろを巻いていたストレスがみるみる薄れて、清い静寂がしみとおってくる
ふと傍らを見ると、スリップ一枚の妻が気遣わしそうにこちらをうかがっていた。
妻のうなじにもくっきりと、私が今つけられているのと同じ痕が浮いている。
咬まれちゃったの?
私が訊くと。
ゴメンね。わたしのほうが先だったの。
そうなの。
事態を、ごく自然に受け入れてしまっていた。

母のときのように。
力の抜けた体を大の字になったまま。
夫の目を気にして恥らいながら小僧に組み敷かれてゆく妻を横目に見守っている。
股間がチリチリと微妙な疼きをつたえて、
まだ幼い体の下、スリップ一枚のまま身もだえする妻の様子から目を逸らすことができずにいた。
しても、いい?
そう、訴えかけてくるような、小僧の目。
暗い瞳のなかに宿る切実な翳に思わず引きこまれるように。
驚くほど素直な気分で。私はこくり、と頷いていた。
夫の目を意識してか。
妻はいつも以上に乱れていった。

それ以来。
小僧はかわるばんこに、妻とお袋のもとを訪れる。
夜更け、お袋の部屋にこそこそと忍び込んで、
きゅうっ・・・ごくん。
あぁ・・・
昼間は聞けない、お袋の妙なる声。
覗きにいこうする私は、およしなさいよ、と引きとめられる。
嫁と姑ふたりながら小僧に操を許してしまったことも、もはや暗黙の了解。
ふたりは仲良く、かばいあっている。
ゆさゆさと、布団の音。がたがたとふすまをけ飛ばす音。
そんな音たちがふと途絶え、ひとしきりしずかになると。
ひたひた。ひたひた。
幼い足音はこちらほうへと向かってくる。
すすっと隙間を空けるふすま。
忍び込む、小さな影。
私はそうっと起き出して、小僧に場所を譲ってやる。
きゅうっ・・・。ごくり。
おぉぅ・・・っ
ふすまを通して洩れてくる声や音をききながら、小僧が満足するまで廊下の寒さに震えていた。
とうとうこらえきれなくなって、まだ犯されつづけている妻を傍らに、布団のなかにもぐり込む。
見られることを恥ずかしがって、妻はこちらのほうを見ようともしない。
昼日中から。
甘えるように体をすり寄せて。
スカートのうえからお尻に食いついたり。
ちょっと寝そべってもらって、ふくらはぎを吸ったり。
大人の服に悪戯できる嬉しさをあらわにして。
よだれに濡れた唇で、ストッキングにしわを寄せてゆく。
そういえば、まだ幼い娘も母親に寄り添って、
嬉しそうに、恥ずかしそうに。
白のハイソックスを紅いもので濡らしている。

お袋の顔色がすぐれなくなっている。
母と妻と戯れ合うことを許された小僧にとって、ふたりは私にとってとおなじくらいかけがえのない存在。
それでもそういうときはついに訪れるのだろうか?
私は哀願した。
お前を路地裏からひろってくれたお袋じゃないか。
母親みたいにキミに優しい妻じゃないか。
兄妹みたいに仲良くしている娘じゃないか。
けれども小僧は悲しそうにかぶりを振っている。
ごめんね。ひもじくてもう、我慢できないよ・・・
一家が死に絶えたのは、それからなんか月もたたないうちのことだった。

それから数ヶ月。
誰もいなくなったはずの家の灯が、月曜の夜更けだけはひそかに点される。
灯りの下では、往時とかわらない団らんのざわめき。
母も妻も娘も、あるいは若々しく、あるいは初々しく着飾っている。
週にいちどのおめかしなのだから。
小僧ももちろんそのなかにいて、幸せそうにほほ笑んで、周りを見回している。
まずまっさきに私が胸を開いて、わずかに残された血液を啜らせる。
それからはお互い顔を見合わせながら、順ぐりに。
にまにまと悪戯っぽく笑う小僧の下敷きになってゆく。
もぅ。すぐに汚しちゃうんだから・・・
さいごに娘のくすぐったそうな声が、消えかかる星とともに朝焼けの彼方に吸い込まれていった。


あとがき
前作は血を吸われたものがまた別のものの血を吸って・・・というお話でした。
今回は、ひとりの吸血鬼がある家族をひとりずつ、血を吸ってゆくお話です。
どちらがぴったりくるでしょうか?^^
前の記事
仲良くなりたい・・・
次の記事
順番

コメント

桜草的には一人の吸血鬼に家族が・・・っていうのがいいです。
吸血鬼の中で家族が一つ? なんて事はないでしょうが・・・・。
セチガライ世の中 仲良く吸血鬼に体を預けるなんてのは駄目でしょうか?
今宵 あの月の下でいかが? なんてね。
by 桜草
URL
2006-12-02 土 20:41:54
編集
>桜草さま
ひとりの女性の血が気に入ると。
その妹を、娘を・・・と手が広がってゆくのは。
抱いた思慕の深さの証しでしょうか。
仲良く、おっとり、ほのぼの・・・が暗黙のルールのこちらでは。
荒々しい諍いよりも。

―――いつも、ご馳走様。^^v
―――妻も娘も・・・きみの皮膚の下で戯れあっているのだね。^^;

そんなやり取りのほうが似合うようです。
by 柏木
URL
2006-12-03 日 20:36:30
編集

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