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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

親切な受付嬢

2006年12月16日(Sat) 07:31:08

「あのぅ、お荷物、持ちましょうか?」
首にはカメラを提げて、両手は重たいバッグでふさがっていた。
見ようによっては、かっこのよくないスタイル。
いや見ようによらなくても。
正真正銘、かっこ悪かった。
すべてが仕事のつけとはいえ。
若い女の子のまえ、こんなよたよたとしたなりはしたくないもの。
ふつうの女の子なら、クスクス笑って通りすぎるだけなのに。
その子は、ごくしぜんにかたほうの荷物を持ってくれた。
大の男が持っても、体が傾くほどの重さなのに。
細い腕がしなるくらい力みながら、顔だけは笑顔をたやさない。

なんていい子なんだろう。
親のしつけが良いのだろうか。
オレが兇悪無慙な吸血鬼であるとしても。
こういう女を、襲ってはいけない・・・
そう、たとえ今。どんなに喉が渇いていても。
踏みしめる足どりがへんに揺らいだのは。
荷物が重たいせいだけではないはず。

荷物を車に積み込んでしまうと。
女の子は丁寧に礼をした。
長い髪の毛が肩先に、ふわりとかかった。
そのときだ。
オレがとうとう、理性を忘れたのは。

きゃっ。
女の子はちいさく叫んで。
あっけないほどかんたんに、壁に抑えつけられている。
ドキドキしながら。
震える指も、もどかしく。
肩先にかかる髪の毛を、手早くかきのけて。
這わせた唇の下。
なめらかさよりも、ぬくもりのほうが心に沁みた。
吸い出した血潮は、見かけを裏切らない健康な香りを帯びている。

すまないね。
囁いたところで、どこまで真意が伝わるだろう?
おびえる女の子は、なんとか気丈にわが身を支えようとしたけれど。
ついふらふらと、よろめいている。
すまない。すまない。
ちいさな身体を、いたわるように抱き支えて。
傍らのベンチに、なんとか腰をおろさせて。
制服のスカートの下、黒のハイソックスがぴっちりと。
ひざから下をおおっている。
いつもなら。そのまま上から噛みつくはずが。
するり・・・と。ほんの少しだけずり下げて。
あらわにした部分に、牙をしみ込ませていた。
お仕事に、戻れるかい?
我ながらむたいなやつ・・・心のなかで、悔いながら。
無言で頷くようすに、なぜかホッと胸をなでおろす。
戻ってゆく背中を、見送っていると。
ふらつく足どりが、少しずつ元に戻ってゆく。
やはり、気丈な子なのだろう。

帰り道。
喉の渇きは、おさまらない。
さっきは手加減、したからな。
もうひとり・・・見つけなければ。夜寝れないな。
もっと吸っておくんだった・・・という想いは。
ふしぎと、湧いてこなかった。
前をよぎるのは、なめらかな真っ暗闇。
そのただ中から、白い人影が浮びあがったとき。
しんそこ、亡霊なのではと疑っていた。
けれどもこちらにかけてきた声は。
ストレートな生気をもった若い女のもの。
思いがけないことに。
声の主は、さっきの子だった。

バンドエイドを貼った首筋は。
目だたないよう、長い髪で入念に隠している。
「足りなかったんじゃないですか?」
え?
戸惑うオレのまえ。
女はベンチに腰かけて。
黒のハイソックスの脚を、伸べてくる。
「破るの・・・ですよね?履いたまま。
 さっきはお仕事中だったから、見逃してくれたんですね?」
ふたりを覆う闇にはとても不似合いな、健康的でハッキリとした声だった。
ケアしてあげる。
まっすぐな善意に、淫らな翳はかけらもない。
わかっていたのか。
われ知らず、呟くと。
女はさあ・・・と催促するように。
ハイソックスの脚を差し向けてくる。

そのまえに・・・
オレはベンチの隣に腰かけて。
女の身体に、しずかに密着してゆく。
思いのほか、なよなよとした抱き心地がした。
存外に華奢な、身体つき。
けれども、頼りなげに寄り添うその身には。
凛とした芯の強さを秘めている。

もう片方にも、バンドエイドを貼ることになるが。
いささか・・・遠慮がちに、囁くと。
女はさっきと同じように、無言でかすかに頷いている。
すまない。すまない。
呟きながら。
皮膚に秘めたぬくもりが、むしょうに恋しくて。
吸いつけた唇を、甘えるようにねぶりつけながら。
牙を沈ませていった。

うふふ・・・ふふ・・・
ベンチの上からは、くすぐったそうな含み笑い。
ひざから下を覆うハイソックスの生地は意外に薄くて。
なすりつけた唇の下。
ナイロン越し、たっぷりとした柔らかい肉づきが心地よい。
痛みを忘れさせるためそそぎ込んだ毒液が、ほどよくめぐり始めたようだった。
いやらしい・・・です。
女は口許をゆるませて、優しく咎めの言葉を降らせてきたけれど。
あくまで、理性は失っていないのだ。
どこまでも、きちんとした子なのだな。
ハイソックスのうえから、牙をしみ込ませていきながら。
ひざ小僧を撫でる掌には。
卑猥なばかりではない感情が、いきわたっている。
毒液と引き換えに頂戴した、この子の暖かい血が。
オレのなかで奇蹟をもたらしはじめている。


あとがき
現実にはありえない、甘々なお話になっちゃいました。^^;
女の子のほうも、もともとすこし、気があったのでしょうか。

これこれ、きみ。
なんだかんだと、もっともらしく呟いているけれど。
善意のひとには、決して悪さをしてはいけないのだよ。^^
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