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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

夫の告白

2006年12月21日(Thu) 06:39:19

ある冬の夜更けのこと。
吸血鬼は、見知らぬ男の来訪を受けた。
男は、30をいくつか越した年頃だろうか?
面識のない男だった。
男は、深夜の訪問をする非礼をわびて、自分のほうから名乗っていた。
さよ子の夫なのだ、と。
人妻フェチの胸がにわかに疼いたのは。
それがずっと気になっていた人妻の名前だったから。

貴方の正体は、伺っています。
とうていかなわないということも、わかっています。
けれども、私にとって。
さよ子はたいせつな女なのです。
失いたくないのです。
わかっていただけるでしょうか・・・

いったい、何を言い出すのかね?
そういって、とぼけ通すこともできただろう。
けれども彼がしぜんに口を開いたのは。
夫なるひとの、まっすぐな気持ちに押されたからだろうか。
妻なるひとに、しんから慕情をいだいたからだろうか。

貴方にはなんの、恨みもない。
憎いとも、邪魔なやつだとも思わない。
けれどもおれはあのひとを、好きになってしまったのだ。
もう、どうしようもないほどに。
気取られたくはなかった。
あんたを傷つけるだけ・・・だからね。
でもおれは。持てる能力のすべてをつかって。
奥さんのことを、たぶらかしてしまうだろう。

聞きようによってはこれほど不当な話はないのだが。
夫ははたと、言葉をなくした。
吸血鬼はひどく弱り、しんそこ苦しんでいるようにみえたから。
これほど頼んでも、だめですか?
人の生き血がないと、わしは生きてはゆけない。
決着をつけるべきなのか。
夫は、じぶんの命を諦めた。
空気の微妙な変化に。吸血鬼はすべてをさとる。
わざと死のうと、しているね?
声色は思いのほか弱く、しんそこ苦しげに顔をゆがめている。

あのひとの最愛のひとなのだ。
あんたを傷つけたら・・・おれは永遠にあのひとに恨まれてしまう。
わたしにどうしろ、というのだ?
眼中には、男もその妻もなかった。
この男は、いつもこうして・・・なん百年も悩みつづけてきたのだろうか。
夫は、声を忍ばせるようにして。
あんたはほんとうに、わたしの妻に恋しているのか?
もういちど、尋ねていた。
悩みに満ちた深い頷きを、みとめると。
すうっとひと息。息を吸い込んで。
思いつめたように、囁いている。
せめて・・・わたしから苦痛を忘れさせてもらえませんか?

一週間後。
ところもおなじ、吸血鬼の館。
ふふ・・・ふふふ・・・
くすぐったそうに洩れる含み笑いは、あの人妻のもの。
ほんのひと刻、辛い日常を忘れてくるがいい。
夫はそういって、最愛の妻を送り出している。
気がかりならば・・・そうだね。
この杭を持って、隣りからようすをうかがうがいい。
新たな悪友にいわれるままに。
夫は杭を手にしたけれど。
それがきっとものの役にはたつまいと。
すでに察しをつけていた。
木の杭を、撫しながら。
夫はひめやかに悩ましく震える妻の声色に。
うっとりと耳を傾けている。
自分から苦痛を忘れさせてくれた、咬み傷の疼きをおぼえながら。

あなたのいる晩は、伺うのを控えるよ。
あなたのくる夜は、出かけることにしよう。
男たちは、互いを思いやって。
奥ゆかしい譲り合いを繰り返す。
女の身を、案じながら。
今夜も控えめに、血を啜る男。
女の身を、気遣いながら。
今夜も音を消して、見守る男。
女はただ、無邪気に酔いながら。
夜が明けるとなにも憶えていないふうを装って。
貞淑で堅実な主婦に戻るのだろう。
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