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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

えっ?キミ・・・どこから入ってきたの?

2006年12月26日(Tue) 01:09:50

えっ?キミ・・・どこから入ってきたの?
びっくり仰天してはね起きたのは。
自分独りなはずの、下宿部屋。
たまの週末。誰もかれもが彼女を連れて、野に山に、街なかへと繰り出しているころ。
ぶきっちょで、彼女ひとりできないボクは。
下宿のアパートの畳のうえ、
ひとり仰向けになって、うたたねしていたのだが。
傍らに感じた人の気配に目を覚ますと、その子はボクをじいっと見おろしていた。
はっきりとした輪郭の、透きとおるような瞳。
さらりと長く垂らした黒髪が、白地に赤のチェック柄のワンピースによく映えている。
どこかで、会った・・・?
思わず口をついて出た言葉に、少女はちょっとびっくりしていたけれど。
もうっ。こんな真っ昼間からうたた寝なんかして!
歯がゆそうにプッと頬をふくらませる。
起きるのよ。面倒見てあげるから。
面倒・・・?なんのこと。って思っていたら。
細くて長くて白い腕がヌッと伸びてきて、思いのほかつよい力でボクのことを引き寄せる。
気がつくと。
温かい唇が、ボクの唇を覆っていた。
これが、キスというものか。
少女の呼気がぬくもりをつたえてきて。
乾ききった体のすみずみまでも、うるおいがいきわたってくるようだ。

こんな服が気に入りなのねぇ。
少女が見つめるのは、見開きのまま投げ出された成人雑誌。
メイド服を着た女の子が、黒のニーソックスを履いた太ももをあらわに、M字開脚をしている。
あわてて隠そうとしたけれど。
少女はボクの手の届かないほうへと本をさしあげて。
こういうのがいいんだ。ふーん。ふーん。
あわてるボクを、愉しむみたいに、これ見よがしに本に見入っている。
でも・・・お行儀悪いわよねぇ。この子・・・

つぎの日。
朝起きると台所でトントンと音がする。
ガスコンロのうえ、ごとごとと煮えているのはみそ汁らしい。
いい匂いが、ぷんと鼻を突いた。
お野菜、だめになりかけてたよ。なにをやっても、ほんとにダメねぇ。
少女はまるでお母さんみたいな口ぶりで。
白いエプロン。黒のコスチューム。
あの雑誌から抜け出たような、メイド姿で立ち働いている。

はいっ。朝ご飯。
ふたり差し向かいで、食事をして。
こんな朝食・・・もう何年も記憶がなかった。
一体どうして、こんなことしてくれるの?
思わず、訊いてしまった。
あんまりあなたが寝ぼけているからよ。
かわいくない応えに、グッと詰まってしまったけれど。
後片付けも、そこそこに。
黒のニーソックスの脚を、ぬるりとからめてきて。
イタズラ、したいんでしょ?
誘うような上目遣いに。
薄手の靴下から透ける肌に。
あっけなく、理性をなくしていた。
お行儀悪いのは、嫌。
とうとうM字開脚はしてくれなかったけど。
ボクはじゅうぶん、満足だった。

そうやって、一週間も経ったころ。
頼みがあるんだけど。
シチューをコトコト煮立てている後ろから、ボクはおずおずと声をかける。
きみ、いきなり現れたけど。
いきなり消えるのは、なしにしてくれない?
さいしょの日から、そうだった。
気がつくと。じゃあね・・・って。
言ったか言わないかというほどに、ひそめた声を、ひとこと残して。
スッと消えて、いなくなってしまう。
明日は、来てくれるんだろうか。まさか、これっきりなのだろうか。
心配で、たまらなくなってしまう。
少女は、くるりと振り向いて。
さいしょにボクのことを見つめた、透きとおった瞳をして。
ずっと、いっしょにいてあげる。あなたにちゃんとした彼女ができるまで。
キリッとした頬は、にわかに大人の理性をみせている。
この子とは、どこかで会ったことがある。まちがいなく。
確信が深まった。手がかりも、心当たりもないままに。

幻なのだ。彼女は。
それもひとつの、確信だった。
いつも、前触れもなく現れて。
いつも、着てもらいたい服を着て。
いつも、してもらいたいことを、やってくれる。ボクがなにも言わなくっても。
消えてしまわないで。
そんなふうに願うだけでは、彼女は消えてしまう。
それもひとつの、確信だった。
どうすればいいのかは、まだわかっていなかったけど。
いつ来ても、寝ているんだね。
少女はきょうも、いきなり現れて。
さも小ばかにしたように、こっちを窺ってくる。
だって、彼女もできなかったしさ。
ぷすっと呟くボクは、つぎの瞬間。ユサユサと力いっぱい、少女に揺さぶられていた。
しっかりなさいよっ。もうっ。そんなことだから、いつまでたっても彼女ができないのよ。
振り返った彼女の目線の彼方には、積み上げられた専門書の山。
中断してしまった努力の記憶が、にわかによみがえってきた。
その日から。少女は二度と、ボクのまえに現われなくなった。

五年が経った。
里帰りするのは、八年ぶりだった。
実家に顔向けできるようになるのに、それだけ時間がかかったということだ。
八年まえ。
いっこくものの父とは、大喧嘩をして。
叩きだされるようにして、家を飛び出していた。
最難関の資格試験を、みごと突破して。
しかるべきポストと、未来の花嫁を連れて。
鮮やかな、大逆転勝利。
これ以上の凱旋は、考えられなかった。
白髪の増えた父は、性分も身体つきも、あのときよりもずっと丸くなっていて。
それがちょっぴり、さびしく感じた。
母さんも、喜んでいるだろ。
早くに亡くなった母の仏壇には、写真ひとつ飾られていない。
見るのがね。辛かったのさ。
珍しく弱音を洩らしたのも、年のせいなのか。
いやたぶん。長いことずっと・・・
あの倣岸な怒り顔の下に、むりに押し隠していただけなのだろう。
二十年ぶりだね。顔を見るのは。
目を細める父は。
別人みたいな優しい視線を、古びた写真のうえに注いでいる。
見せて。
記憶の限りでは、初めて見る母の写真。
驚きのあまりかろうじて声を呑み込んだボクに、父はちょっとけげんそうだった。
セピア色のなか、小首をかしげてイタズラっぽく笑っていたのは。
まごうことなく、あの子だった。
いまの子は、お行儀悪いのね。
そういうことだったのか・・・
滲んだ涙を、せいいっぱいの笑みに押し隠して。
ボクは人知れず、呟いている。
だいじょうぶ。連れてきた子は、よくできた子だよ。
母さんにも、自慢できるくらいに・・・ね。


あとがき
時のへだたりがなかったとして。
若いころの母親と青年となった息子とは、惹かれあうことはあるのでしょうか・・・
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若返る女
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試験の前夜

コメント

とてもさばけたお母様でしたのね
先日イタリアの男性はとてもマザコンだとある番組で見ました。
それは、産んでくれた母親を大切にするという素敵な習慣。
だって、お腹を痛めて生んだお母様にとって息子はなにものにも代え難い大切な存在なのですから。
世界一のイケメンだという、イタリア人の男の子が『僕の愛の形』だといってお母様にキスをした姿を、つい思い出してしまいましたわ。
by 祥子
URL
2006-12-26 火 11:49:47
編集
>祥子さま
いらっしゃいませ。^^
直近五話は、ほとんど同時に描いたのですが。
狂った世界がだんだんノーマライズされてゆく過程がみえるような、みえないような。(苦笑)

どこの時点で、この女の子の正体、お察しになりましたか?
きっと祥子さまのことですから。
すぐにばれちゃったかな?^^;
マザコンという否定的に使われがちな言葉に対する意外な解釈、とても新鮮に思えます。
だれを愛するにしても、もっと率直であってもよろしいのかもしれないですね。
by 柏木
URL
2006-12-26 火 21:28:05
編集

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