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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

御用始め

2006年01月04日(Wed) 07:23:00

ざく、ざく、ざく、ざく・・・
暗い色のスーツに身を固め、いちように無言で歩みを進める男たちの一団。
ここ十年でそのなかに、女性の割合も増えてきたとはいえ。
その多くもまたあまり華やがない色合いのスーツに身を固め、無表情にこわばった顔はまるで男のようである。
いちように重苦しい雰囲気を漂わせた、どこの駅前にも、オフィス街にもある朝の通勤風景。
それも御用始め(仕事始め)ともなると、重苦しさはふだんの休み明けの比ではない。

蛭田にしても。
いくら血を吸わせてくれる美女たちがいたとしても。
ふだんの業務がそればかりで済むはずもなく。
口やかましい上司とか。そりの合わない同僚とか。
そういったもろもろの不愉快要素が彼の実生活のほとんどを塗りこめているといっても過言ではない。
だから彼にとって娑婆に戻る初日のきょうは、誰にもまして憂鬱なのである。

オフィスの入っているビルの玄関をくぐると、見知った顔がちらほらと増えてくる。
意外なもので、実際に知った顔を見ると却ってそうした閉塞感はほどけてきたりする。
ましてむんむんと人いきれのするような営業部に入ってゆくと。
人々の発散する気迫というか、オーラというか。
一種独特な圧倒的な雰囲気がたちこめていて。
それは、頭のなかで思い描いていた憂鬱などは面に出すゆとりもないほどのものであった。
間々田と顔があった。
おはよう、といいかけて、それはすぐ新年の挨拶になる。
お屠蘇も飾りもない殺風景なオフィスのなかで、それはちょっと場違いだな・・・などという思いもよぎるのだが。
挨拶をかわすとふたりは、チラ、と庶務課のほうを見た。
主のいない席がひとつ。
瑞枝は昨年いっぱいで退社していた。
もちろん間々田は瑞枝に見送られて出社してきたのだが。
やはり何かにつけて便宜をはかってくれた「同僚」としての瑞枝にも、お互いひととおりでない愛着があったのだ。

「お・め・で・と・うっ!」
そんなふたりの気分などお構いなしの能天気な声が、横からワッと割り込んだ。
「ちゃんと見なさいよね。早起きしてがんばったんだから」
そういう奈津子はばっちりと、振袖を着込んできていた。
―――ちょっと無理がありませんか?もうそういうトシじゃないでしょ?
なんて間違っても口にしたら、多分首と胴体は離れているだろうな。
とっさに思った蛭田より一歩先んじて、間々田のやつはもう巧みなほめ言葉で女をはしゃがせていた。
こちらをチラと見やる奈津子の顔にありありと、
―――まー、あんたからは気の利いたセリフなんか誰も期待していないから。
そう書いてある。

はぁぁ・・・
新年そうそう、これかよ。と、思いつつ。
じつは文句など言えた義理ではないのである。
旧年の御用納めがぶじ片づいたのは、彼が女史の”治療”を受けているあいだ、彼女がぜんぶ片づけてくれたからなのだ。
   まったくもうっ。どうして私が他の課のヤツの尻ぬぐいしなくちゃいけないんだろ。
もちろんわざと。みんなに聞えるように愚痴りながら。やり残した仕事もろともまたたく間に蛭田の机の大掃除をしてしまった彼女。
―――代わりに私の家の大掃除、手伝ってね。
そんな言い分になにひとつ反論できずに。
・・・・・・本当にまる一日大掃除をさせられていた。
あのときの腰の痛みが、まだ治らない。

きょうは実質、午前中だけの勤務である。
大口の取引先をかかえた、たとえば間々田などはそういうわけにもいかず、そのあと挨拶周りに忙殺されるのだが。
幸か不幸か、蛭田にそういうアテはない。
せっかくだから留守宅にお邪魔して、瑞枝に新年の「あいさつ」をしていこうか・・・などとフラチなことを考えていると。
「蛭田くん、こっちこっち」
奈津子が向こうで、呼んでいる。なにか用事を言いつけるときの顔つきだ。
  あいつ。とうぶん、奴隷あつかいだなー。暮にあれだけやらせたんだもんなー。
あわれなヤツ・・・
そんな同僚たちの無同情な憫笑に背を向けて、いわれるままに廊下を出る。

「お振袖、ぜったい汚さないようにヤッて頂戴ね」
奈津子に命じられるままに、首筋に唇を吸いつけて。
ちゅうっ・・・ちゅうっ・・・
血を撥ねかせて愉しむのが好みなのだが。
こういうシチュエーションもなかなか、スリリングだ。
ぱりぱりにセットした黒髪。華やいだ柄と対照的にごつごつと重厚な振袖の手触り。
豪奢な装いに包まれた華奢な身体が時折発する、切なげな息遣い。
両肩を抱きすくめる掌に、思わず力がこもる。
「んもぅ・・・」
華やいだ振袖に隠れていたが、蒼白かった顔。
それをいっそう蒼白くさせているというのに。
さっきよりも逆に顔色がよくなったように思えるのは、じつは極端に神経質な彼女が休み明けに覚えた、過度の緊張のせいだろう。
「これからね。女史や取り巻きさんたちといっしょに、お食事会なの」
男の子は呼んであげないからね・・・
あかんべえでもしかねない彼女。
なるほど、緊張の原因はそっちだったのか。
失血と引き換えにでも取り戻したかった、自分自身。
彼女の瞳にいつもの活き活きとした闊達さが、戻ってきたようにみえた。
「ご褒美にストッキング、破らせてあげるわよ」
下なら見られないからね・・・
彼女はいつものように悪戯っぽく、着物の下前をお行儀悪くはぐってゆく。


あとがき
仕事始めの皆様にエールを送りたくて(エールになるのだろうか?)描いてみました。
ちょっと前置き部分が長くなりましたが。
デキる社員ならではのプレッシャーに包まれる奈津子さん。
女史のまえで最高の自分を魅せるため、いつもの冷静さを取り戻したかった・・・というお話です。
実のところ。キー叩きながら、「オチが見えない、見えない」と内心アセッていたりしたのですが。^^;
さすがに抜け目のない奈津子さん、さいごはちゃんといつものミーティング・ルームできれいに堕としてくれました。(笑)
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