FC2ブログ

妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

いまどきの女

2006年12月29日(Fri) 09:20:50

すこし、ケバい。
好みは清楚で古風な、つやつやとした黒髪の長い女。
ところが向かいの席に座るあの女は、
ケバケバな茶髪に、濃い化粧。
唇にはショッキング・ピンクのテカテカと光る口紅をさして。
いまどきの才媛よろしく、仕事はてきぱきとさばいている。
生足の目立つさいきんの子にしては。
いつもきちんとストッキングを穿いているが、
存在感のない肌色のそれは、どうやら安物らしい・・・と値踏みしてしまう。
たんに事務服の一部と割り切って身に着けるのなら。
破れやすい消耗品に金をかけたくない。
そんな現実的な考え方さえ、伝わってくるようだ。

その日にかぎって。
取引先のあの女も。
べつのフロアのあの女も。
お休みしていたり、出払っていたり。
吸血鬼だという正体を知っているのは、ごく限られた少数のもの。
うかつに本性をさらけだすわけにはいかないのだが・・・
喉が渇いた。
ふと見ると。
こんな時間まで残業している人間は、ごくまれだ。
無理もない。残業代カットだもんな。
四十を過ぎたというのに、いまだうだつのあがらぬ非管理職。
体力を維持するのにふんだんな血液を必要とする体には・・・無理がまったく、きかないのだ。
頼りにならないおやじ社員。
周りの連中の冷たい視線。
ちらちら、ちらちら、盗み見るのは。
こっちが気づかないほど鈍感だとたかをくくっているからだろう。
ふと、向かいを見ると。
あの女はひとり残って、なにやら難しげに書類とにらめっこしている。
周囲をうかがうと。
もう・・・だれも残っているやつはいない。
時計は、十一時をまわっている。

ねぇ・・・
なんども声を、かけようとした。
けれどももちろん、なんども声を飲み込んでいる。
血を吸わせてもらえないか。
そんなこと、言えるわけがないだろう。
ふしだらな感じのする、仕事のできる女と。
冴えない、目だたない、頼りにならないおやじ社員と。
声かけるなんて、百年早すぎる。
やがて女は書類から目を上げると。
あぁ、よかった。一段落。
ホッとした気分が、いつもこわばりがちな頬を、めずらしくバラ色に染めている。
あぁ、もうガマンできない・・・
われ知らず立ち上がったオレを。
女はいつになく、にこやかに見あげる。
食事にでも、誘おうか?
この時間でも・・・繁華な都会のはざまには。
気のきいた店の一軒や二軒、営業しているはず。
けれども。
三十そこそこの美貌のキャリア・ウーマンが(好みには合わないけれど)
四十すぎの冴えないおやじの誘いなど、真にうけるはずがない。
そうしたら。
なんと向こうのほうから、席を立って。
長く連なる座席の列を、ぐるりと遠回りして。
こちらに脚を、運んでくる。
いつもの存在感のない、肌色のストッキングを穿いた脚を。

きれいだ。
そう、感じたのは。
もちろん、飢えていたからだろう。
お食事しませんか~?
どんな男に話しかけるときも。
もちろん、上司に対してすらも。
けっして気取らず、蓮っ葉に。ハスキーで耳ざわりな声で話しかける。
あの声色が、嫌なのだが。
どういうわけか、惹かれてしまった。
ちょうどそうしようかって、思っていたところだけど。
なぜか気おされて、少年のように、口ごもっている。
残業ですか~?あまり無理しないほうがいいですよ~。
無遠慮にこちらの書類をのぞき込んできて。
××次長でしょ?こんなヘンなの振ってくるの。大変ですね・・・
身勝手でいいかげんな言動に悩まされるという経験を共有するものどうしの、同情が。
彫りの深い女の横顔に、ありありと漂っている。

あのさ・・・
生唾を、呑み込んでいた。
気づいたときにはもう、すり寄っていって。
影を重ね合わせていた。
あ・・・ちょっと・・・
女は意外なくらい頼りなく。
オレの腕のなか、華奢な身体を巻かれてゆく。
もう、後戻りはできなかった。

浅黒い肌に、ちくり、と牙を滲ませたとき。
女はもういちど、
ぁ・・・
とうめいたが。
むしろ、声を忍ぶようにして。
そのまま―――
ちゅ・ちゅっ。
バラ色の液体を、吸い出されてしまっている。
うそのように軽い体重を、腕の中にありありと感じながら。
オレはひたすら、女の首筋を吸いつづけている。

ふたたび身体を離したとき。
目だたぬようにつけた傷口を、女はぼんやりと撫でている。
やっぱり、そうだったんだ。
じっと見おろした足首を。
さりげない光沢がよぎっていた。
破って。
女は信じられないことを、口にしている。

おそるおそる吸いつけた唇の下。
安物と思った薄手のナイロンは、思いのほか豊かな気品に彩られていた。

いかん。吸いすぎた。
そう、気づいたときには。
女は白目を剥いて、のけぞっている。
いかん。いかん。
部屋には防犯カメラは、なかったはずだ。
あわてて照明を消し、自分の荷物と彼女のショルダーバックと、
それから、ショルダーバックの持ち主とをいっしょにかかえ込んで。
自由になるわずかな指で照明を消して。
逃げ出すように、オフィスを飛び出していた。

整然とのべられたベッドのうえ。
女は事務服のまま、しずかに横たわっている。
ばか者めが。
このお医者に叱られるのは、いつものことだ。
けれども・・・ここまで来てしまえば、職場で正体がばれるという最悪の事態は回避できる。
そんな安堵に、ひたされていた。
う・・・ぅ・・・ぁ・・・
女がのけぞって、呻き声を洩らす。
話せるようになるには、時間がかかるぞ。
お医者は嘲るように肩をそびやかし、ことさら冷ややかな視線を送ってくる。
責任を、取ることだね。
言い捨てて、スッといなくなった。
夜は繁昌する、魔人あいての古びた医院。
新来の患者に、オレにばかりはかまけていられないらしい。

はっとした。
つい、まどろんでしまった。
もう・・・明け方ちかくに、なっただろうか。
女が薄っすらと目を見開いて。
オレのほうに視線を送ってくる。
別人のようにおだやかな、夢見るような視線。
ごめんね。
ふふっ・・・と笑んだ頬は、いつもの武装を解いていた。

あんまり、見つめないでくださいな。
化粧も落ちているし・・・そんな美人じゃないでしょ?
わたし・・・化粧で持っているような顔だから。
あいかわらず蓮っ葉なかすれ声に、淋しい翳をよぎらせて。
女はよどみなく、声をついでゆく。
まるでずるずると、なにもかもを胸の奥から引きずり出すように。
ただでさえ、身体弱いし。
頭だって、そんなによくないし。三流の私大だから。
気が強すぎて、かわいくないし。
わたしのいないときなんて・・・どうせ悪口のむしろでしょう?
耳のないところに耳をもつ種族。
感度のよさは、けっして本人を救うことがない。
出て行ってくれる?弱いところ、見られたくないから。
女は向こうを向いて、うつ伏してしまった。

出て行こうか?
席を立ちかけたとき。
細かく震える肩が、なにかを語っていた。
いいようのない、逃れようもない。
おおいがたいほどの寂しさを―――
オレはオフィスでそうしたように、
夢中になって、女の肩にすがりついていた。

もぅ・・・
女はかわいくなく、口を尖らしていたけれど。
決して、嫌なそぶりは示さない。
ストッキング・フェチでしょ。やらしいわね。
破けたストッキングの片足を見おろして。もういちど。
もう・・・っ。
不平そうに、鼻を鳴らす。
いいよ。もう破けちゃったんだし。
好きなようにして。
投げ出された脚は、近すぎず遠すぎないあたりに横たえられていて、
気づかないほどかすかな光沢を、なまめかしく滲ませている。

ちりり・・・
圧しつけた唇の下。
女のストッキングは、他愛なく破けていった。
繊細な皮膜に走る不自然なほつれに、軽い昂ぶりを覚えて。
きゅうっ。ごく・・・ごくん・・・
静かに、ゆっくりと。
吸い出した血潮は、いがいなくらいの熱を秘めている。
抱いて・・・
囁かれるまでもない。
病院のベッドのうえ。
オレは事務服のスカートをたくし上げていく。
ひとつになった身体は、せつない火照りをもって。いがいなくらいの強さですがりついてきた。


あとがき
職場でおっかながられている、あの派手なOLさんは。
ほんとうに気が強いだけの人なのかな・・・?
いちどは、疑ってみる価値がありそうです。
前の記事
愛しい母娘 ~連作:院長、ご来客です
次の記事
穢された礼装

コメント

いえいえついつい。(^^ゞ
想いが深く、なってしまって。^^;;;
タイプじゃない女の子の血。
もちろん、美味しかったですよ~♪
え?悪魔ですって?
う、うーむ。(/_。)

見かけはたしかに、けばいのですが。
気が強くって、さびしい女。
どこか、共通してますねぇ。
by 柏木
URL
2006-12-29 金 18:08:17
編集
仕事納めの日
やはり仕事をする女性を襲ってしまう柏木さん。
それも吸いすぎちゃうなんて、まったくもうね。

そして連れて行ったのは、あの病院なのですね。

好みのタイプと違う女性の血の味はいかがでしたか?

2006-12-29 金 11:02:46
by 祥子
URL
2007-01-03 水 13:46:20
編集

コメントの投稿

(N)
(B)
(M)
(U)
(T)
(P)
(C)
管理者にだけ表示を許可する
トラックバック
http://aoi18.blog37.fc2.com/tb.php/732-d5df4191