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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

姫はじめは、お振袖♪

2007年01月07日(Sun) 07:50:26


鶴か、白百合か。
己の妻をそこまでたとえるのは、さすがに気恥ずかしいのだが。
振袖に着替えた由貴子さんは、楚々とした風情に華やぎを添えて。
ノーブルな口許に、薄っすらと笑みをたたえている。
笑みに秘められたのは、いくばくかの恥じらい、翳り。
「行ってまいりますわね」
小首をかしげて、わたしの顔色を窺って。
耳もとに口を寄せ、そっと囁きかける。
「ま・わ・さ・れ・に♪」
あとからあなたも、いらっしゃるのよ。必ず・・・
ひとの耳の奥まで毒液をそそぎ込んだあと。
毒殺者は愁いを秘めた笑みにすべてを押し隠す。
結婚して、もう何年になるのだろう。
それだというのに、楚々たる気品はいっそう冴えわたり、
裡に秘めた淫ら心を、ちらとも漂わせることがない。
ゆらゆらと揺れる髪飾りが。
過去の記憶をまるで昨日のように、よみがえらせる。


秋にはあげるはずだった祝言は、年越しに繰り延べられていた。
もちろんそのあいだ、婚約者の由貴子さんは処女の血を吸われ、
酔わされるままに吸い尽され、
汚れを知らぬ透きとおった素肌には、淫らなものさえ含まされていた。
それでいながら。
由貴子さんは初々しい笑みに白い面差しをいっそう透きとおらせていて。
まるで生娘みたいに、振袖に包んだ肢体からぴちぴちとしたオーラをはじけさせている。
注ぎ込まれた毒液を、若い素肌を装ううわぐすりに変えて。
「さぁ、おうかがいしましょ」
小首をかしげて。誘うように。それでいて、はっきりと。
淫らな宴へと、わたしをいざなってゆく。

しんしんと雪の降る大晦日だった。
「大晦日くらい、ご実家に帰らなくてよかったの?」
急須でお茶を注ぎながら、母はにこやかに由貴子さんをかえりみる。
まだ、四十代の人妻だった母。
若さをじゅうぶんに帯びたうなじには、くろぐろとした痕をくっきりと浮かべている。
由貴子さんは、あら・・・と呟いて、さりげなく肩まで流した髪をかきのけた。
首筋にはやはり、母とおなじ赤黒い痕を浮かべていた。
うふふ・・・ふふ・・・
意味深な含み笑いにすべてを隠して、女たちはなにごともなかったように日常にかえってゆく。
一日おいて。
「いっしょにいらしてくださいますね?」
あでやかな振袖の由貴子さんは、小首をかしげて、わたしにいなやを言わせない。

渦を巻く花鳥模様の振袖を着崩れさせて。
畳に広がるのは、淫らな絵巻物。
素肌をほんのりとほてらせて。
整えた黒髪を、わずかにほつれさせて。
割られた裾から、秘めていたものを見え隠れさせながら。
密やかな吐息は、熱く濃く、あらわにされた乳房を深々と上下させている。
ひとつになった腰のうごきは。
まだ、初々しい戸惑いをみせていたけれど。
リズミカルな律動に、理性のすべてをうち砕かれて。
清楚な目許を、病めるが如く、淫らな色で縁どりながら。
長い睫毛を、ぴりぴりとナーバスに、震わせながら。
いやですのよ・・・お嫁入りまえなのですよ・・・あぁ、それなのに。このようなはしたない・・・
はっきりと肩肘張っていた言葉づかいが。
深まるまぐわいとともに、すこしずつみじかく途切れていって。
あっ・・・ううっ・・・視ないで。ご、ら、ん、に、な、ら、ない・・・で・・・っ
やがて、間歇的なうめき声に、すべてが飲み込まれてゆく。


「どうしても、姫はじめには・・・由貴子が要りようだね」
受話器の奥から響く、くぐもった声。
わざとつくったものではなく。ほんとうに飢えているのだと。
彼は声色で告げている。
いまはもう、「さん」づけですらない。
妻はそれほどまでに彼に愛され、なくてはならないものとなっている。
飢えた幽鬼を癒す、救いの女神。
彼はそう呼んで、妻を惜しみなく讃え、
讃えの証しに、色濃いものを透きとおる素肌にしみ込ませてゆく。
わたしはしきたりどおり、いつものように物分かりよい亭主を演じていた。
「ああ、いいでしょう。・・・今回もまた、お振袖かな?」
「う・ふ・ふ。お宅のお姫様を、思う存分汚してあげるよ」
じわりと渦巻く血潮の妖しい疼きを皮膚の下におぼえながら。
わたしはしずかに受話器をおいた。
装った寛大さは、どこまで装いのままなのだろう・・・?
そんな訝りを振り払うようにして。
「由貴子さん、今年もお呼びがかかったよ」
あら・・・
忙しく立ち働く台所から、困惑の声
困ったわ。迷惑ね・・・といいたげに。
妻は咎めるような目線を、わたしのほうへと注いでくる。
あなた、断ってくださらなかったの?
と、いいたげに。
ただし・・・
けっして、額面どおりに受け取ってはいけないのだ。
彼女の非難には、いつも甘い毒が秘められているのだから。

もう、いい齢ですのにね。
そんなふうに、恥じらいながら。
しゃりしゃり・・・っ、と。
密やかな衣擦れの音に、細腕を包んでゆく。
嫁入りまえの娘が身にまとうはずの、あでやかな花鳥模様は。
楚々とした大人の色香と、しっくりと重なり合っていた。

姫はじめが済むまでは。
夫婦の交わりさえ、禁じられている。
淫らを知った熟れた血潮は。
清楚な肌に、うわぐすりのような翳を滲ませている。
生娘のころには見られなかった潤いが。
花鳥模様に包まれて、清かな艶麗を帯びていた。
「では・・・まいりますわね」
迎えの馬車に、手を取られ乗り込んでゆくお姫様は、
窓越しにもういちど、艶然とした笑みで小首をかしげてくる。
ふたたびお邸で顔をあわせるとき。
妻としての仮面を捨てて。
彼の愛人になりきって。
娼婦のわざを尽くしているのだろう。

さて。わたしも出かける用意をしなければ。
真冬には寒すぎる薄い靴下が、起き抜けのよどんだ脛をひんやり、しっとりと包んでゆく。
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コメント

着物を剥いでしまうのではなく・・・
着物を身につけさせたままで犯す。
それが着物で装ったときの姫始めの作法ですわね。
だって、艶やかな姿もお供え物の1つなのですもの。
ヴァンパイアの彼らにとって、由貴子さんはお屠蘇のようなものなのでしょう。
異国のお正月、神の影響などほとんどないのでしょうが、この国で新しい年を迎える為に必要ななにかが含まれているのでしょう。
by 祥子
URL
2007-01-07 日 08:11:45
編集
>祥子さま
おみき・・・なのでしょうか。^^;
いずれにしろ、メイワクな話です。(苦笑)
魔性のものに美をめでられるほど魅力のある女を女房に持つというのは・・・
まさに
もろ刃の剣
なのかも知れないですね。
by 柏木
URL
2007-01-08 月 07:34:00
編集

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